 |
No. 00132
DATE: 1999/10/01 00:21:45
NAME: ジャルド
SUBJECT: レイラ救出計画 2章、激戦
Chapter.8
走ること半刻、すっかり空も晴れ上がっり夏の暑い日差しが辺りを照らし始める。今だに吹き募る強風は、波が作り出す飛沫を空高く巻き上げ、空中に七色の花を爆ぜ散らせる。そろそろ港を行き交う人も増え、新たな1日が始まろうとしている。海上もだいぶ近いところを中型の船が行き来しており、沖合に見える大型船の群も、心なしか近づいてくるように見える。
「ミッキー!ちょっと待って!後ろがついてこれない!」
リュインはミッキーの袖を掴むと、はぁはぁと息を切らしながら額の汗を拭う。ミッキーも後ろを振り返り、だいぶ離れてしまった後続を待つために、ぺたりと石畳の上に座り込んで深呼吸をする。
「お〜い、ミッキー、何処まで行くつもりだ?もうずいぶん来たぞ?……それにしても、マリーといい……お前達は足が速いな……」
やっと追いついたディオンは、ふと立ち止まって苦笑いをし、両手を膝に当てて肩で呼吸をしながら疲れ切った体に新鮮な空気を送り込む。しばらくすると、すこしだけ遅れてきたセリアがディオンの肩につかまり、疲れ切った表情で石畳の上に座り込む。遙か後方では、未だに懸命に走るミルダスの姿を望むことが出来た。
「沖合に浮いている……っと、あの黒い船が目的地。この辺りは底が浅いから、大型船はああやって沖合に錨泊するんだ。それに、ここからなら港を出るのも早い」
「あの船のこと?」
リュインは沖合に見える黒くてずんぐりとしたガレー船を指さす。
「そう、あの船」
「ふうん……それじゃ、あの船にケイが閉じこめられているのかしら?」
「アジトにいないとすれば、その可能性は高いな。行ってみるか…よし、ミッキー、案内してくれないか?」
「行くならば行ってくれ。オレは船まで案内したら戻る。オレはマリーが心配だし、これ以上あいつらと関わりたくない。本当ならこうやって生きてること自体、嘘のようだしな……」
ミッキーはふっと肩をすくめて苦笑いすると、飛び上がって素早く身を翻し、再び船着き場へ向けて駆け出す。
「あぅ〜…やっと一息つけると思ったのに…まだ走るのか?」
やっとの事で追いついたミルダスは、膝から倒れ込むように青灰色の石畳へとへたり込む。
「…少しは休ませてくれよ……」
「そういうなよミルダス。もう少しらしいぞ。ほら、セリア、大丈夫か?」
ディオンはまだ息の荒いセリアを抱き起こし、手を取ってミッキーの後を追い始める。
「さ、行くよ!」
リュインもミルダスに軽く声をかけて、再び走り出す。ミルダスはゆっくりと立ち上がり、ひとつ大きくため息をつくと、仕方なくリュインに続くように駆け出しはじめた。
5人は振って湧いたような人の海をかき分け、早朝の港の喧噪を駆け抜けると、沖合に向けて伸びる堤防へと出た。その先端から少し沖へ出たところに目的の黒い船が錨着している。その黒くて厳つい船体は威風堂々、まるで、今にも襲いかかって来そうな気配すら感じられる。
ミッキーは堤防の先端まで行き、ふと立ち止まってくるりと振り向くと、その場にディオン、セリア、リュイン、ミルダスが居るのを確認してぺたりと地面に座り込んだ。
「あの正面の黒い船。そこいらの小舟で行けばすぐ。……悪いけど、ここまでで帰らせて貰うよ」
ミッキーは4人の顔色を伺い、ばつが悪そうに語尾を締めくくると、ディオン達を見据える。ディオンは苦笑いして3人の方をちろっと見て、肩をすくめる。
「ムリさせちゃって済まないな。ここから先は俺達に任せて、マリーの所へいってやれよ」
「そー、ここから先は私たちの領分!ミッキー、マリーにもよろしくね!」
「……すまない」
ミッキーは深々と頭を下げると、まるで疲れていないかのように軽快に走り去っていく。
「はぁはぁ…ディオンさん、乗り込む前にちょっとだけ休みましょ…はぁ……疲れちゃった」
セリアはぺたりと堤防に座り込み、新鮮な海風を胸一杯に吸い込む。ディオンとリュインも、それに倣って大きく深呼吸し、近くに係留してあるボートへ乗り込む。ちょっと遅れて到着したミルダスは、リュイン達が乗り込んだボートへ飛び乗り、ぐったりと倒れ込んでしまった。
「ちょっと休ませて…みんなよく体力持つね……ボクはもうダメ……」
「もう少し鍛えておかないと、冒険者とはいえないぞ?」
ディオンはすっかりグロッキーなミルダスをみてにやりと微笑む。しばらくしてセリアがボートに乗り込むと、沖に見える船へ向けてゆっくりと漕ぎ出していった。
Chapter.9
石人形の岩のような腕(そのものだけど)に掴み上げられ、何とか逃げようとじたばたと暴れる衛視。粉々に粉砕され、塵芥と化した石人形、あらぬ方向へ首を曲げて倒れている衛視……詰め所の壁はぼろぼろに破壊され、生き残っている衛視はマイエルリンクとほんの数人。さすがに焦りの色がマイエルリンクの顔ににじみ出る。
「援護の部隊はまだかっ?」
「もうじき一番近い第6分隊の連中が来ます!それまで、それまで……ぐわぁぁっ!」
後ろから石造りの巨大な腕が振り下ろされ、衛視の頭蓋が粉砕される。石人形の青灰色の体は、返り血を浴びて不気味な模様を描き出す。じっとりと血の滴るその大きな腕は、かつて衛視だった物体を海へ投げ捨てると新たな獲物を探してゆっくりと動き出す。動き出す際のちょっとした隙を見て、1人の衛視が真横から斬りかかる。
「いけえぇぇぇっ!ち、う、うわぁっ?」
石人形は斬りかかった衛視の剣を掴むと、もの凄い力で剣ごと持ち上げ、荒れ狂う海へ向けて放り投げた。剣は空中で折れ、衛視は大きな音を立てて灰色の波間へと落下していった。
「ち……少し引くぞ!」
マイエルリンクはやっとの思いで2体目の石人形を粉砕し、残り少なくなった衛視達を率いて隊列を整え直す。
「…衛視はだいたい片づいたな……っと、あいつが一番乗りか。ご褒美に海へ落ちて貰いますかねェ」
シードは石人形の上に乗ってにやりと邪悪な笑みを浮かべ、ゆっくりと背後へ回り込めるように石人形を移動させる。
マリーは橋を折り返し、ふらふらになりながらも詰め所へと向かってひた走る。粉々になった石人形の残骸をすり抜け、後少しで衛視達の隊列へ届く……と言うところで背後から石人形に左腕を捕まれてバランスを崩し、どたっと石畳へ倒れ込んだ。シードは人形から飛び降り、マリーの顔をちらっと見ると、けけけ、と高笑いする。
「そぉれ、お目覚めのダイビングといけや!」
「いったぁ〜……え?きゃああぁぁぁっ!」
石人形は思い切りマリーを海に向けて放り投げる。不意にマリーの体が浮いたかと思うと、堤防の真上で天地が逆転した。真っ逆さまになって灰色の波に飲み込まれ、沖へ向けて押し流されていく。
「ナンダ。思いの外あっけなかったな〜。おいマクレイン、オレはこれからあいつらの裏に回るから後はよろしく……なっ!?」
シードが振り向くと、マクレインの姿はそこにはなく、煤だらけのローブを脱いで堤防の上から今まさに飛び込まんとしているところだった。
「悪いがこの仕事降ろさせてもらう」
「……マクレイン?」
呆気にとられたシードは、言葉を失い、ただ呆然とマクレインの表情を伺う。そして、あきれ果てたのか、マクレインを無視して裏路地へと消えていった。
「ふっ、あばよっ!とおっ!!」
バシャーン!荒れ狂う波間に飛び込んだマクレインは、ただひたすらマリーの見える方向へと泳いでいく。大きな波のうねりに巻き込まれながらも、懸命に泳ぎ進む姿はさすがに勇ましい。そして、突然のことに混乱して暴れもがくマリーの腕を掴んで引き寄せる。
「ほら、お嬢さん、って、こら、暴れるなって!落ち着け、落ちつ…ぶはっ!?」
ちょうどすぐ近くにたたき込まれていた衛視に肩を捕まれ、波間で浮き沈みしながらマクレインと衛視は拳の応酬を始めた。
「てめぇ、この(表記不可能)野郎め!詰め所を襲ったヤツは、一生ガレー船に閉じこめてくれるわっ!」
衛視の放った鋭いパンチはマクレインの左頬を直撃し、衛視はにやりと笑みを浮かべた。が、次の瞬間、マクレインの姿が見えなくなったかと思うと、いきなり海中に引き込まれた。そして水中でもみ合いになり、マクレインは隠し持っていたダガーを衛視の腕に深々と突き刺す。視界が灰色から黒みがかかった赤へと代わり、二人とも離れるように海面へと急ぐ。衛視は苦痛に表情をゆがめながらも、ぎこちない泳ぎで堤防の方へと進んでいく。
「へっ、そんな女っ気がねえ職場は御免被りたいね!……おおっと、お嬢さん、そっちは無事かい?」
海上に浮かび上がったマクレインは、さっきまでマリーが居た辺りに声を掛ける。が、そこにはマリーの姿が無く、すでに堤防へ向けて泳ぐ姿が目に飛び込んできた。
「あっら〜、以外に元気でいらっしゃる……ちょっと待ってくれよ〜」
マクレインは苦笑いをし、大急ぎで堤防へ向けて泳ぎだした。
Chapter.10
詰め所の前に駆けつけたアレクとレイシャルムはとっさに武器を構え、ゆっくりと近寄ってくる3体の石人形と対峙する。ずしり、ずしり……いくら操り人形とはいえ、相手は怪力の持ち主だ。迂闊に飛び込んでは命に関わる…
「誰だか知らんが、加勢、礼を言うぞ。もう少し耐えれば援護の部隊が来るらしいからな」
マイエルリンクは肩で息をしながら長剣を構え直す。そして、迫り来る石人形の内の一体に突きかかっていく。
「っは、や、やっと追いついたぞ……相手は石人形!結構硬いぞ、気ぃ付けろ!!」
「さあ、みんな、木偶人形に本当の戦いを教えてあげるわよ!」
アンジェラは、その体に似つかわしくない大振りの剣を振りかざし、石人形達に斬り掛かる。がぁいん!その大きな刃は青白い火花と轟音を放ち、石人形の肩口を捕らえた…が、そんなことはお構いなしに石人形は持ち前の怪力でアンジェラの剣を掴むと、強引にねじ伏せようとその腕に力を加えていく。
「くっ…」
「あぶないっ!」
アレクはとっさに飛び出し、アンジェラを握っている腕に思い切り斬り掛かる。剣は鈍い音を立ててはじき返されたか!?と思った瞬間、石人形の肩が砕け散りった。
「ふん、これでも喰らえっ!!」
マトックマンの振り下ろした巨大なマトックは、石人形の頭蓋を的確に捉え、ものすごい轟音を立ててめり込む。そして斬り掛かるタイミングを伺っていたレイシャルムの剣がその首に深々と突き刺さり、ゆっくりと首と銅が離れていく。そして大きな音を立てて石畳の上に落ちた。
「さすがにやるな」
マイエルリンクはマトックマンとレイシャルムを見て、軽く微笑む。
「あったりまえじゃい。これでも傭兵達の間じゃ知れ渡っとるんじゃからな。さあ、次に頭を吹き飛ばされたいヤツはどいつじゃい?」
頭を吹き飛ばされて元の石に戻った石人形を踏みつぶし、あらん限りの大声で一喝する。
「ウォレス、そっちの陰の方に行ってなさい。ここは私たちに任せて!ランド君も!そっちに行ってなさい!」
アンジェラは真後ろに付いてきたウォレスと、頼りなげに剣を構えて石人形と対峙するランドに向かってそう言い放つと、ランドに殴りかかろうと巨大な腕を振り下ろそうとする石人形の目の前に立ちはだかり、剣の腹で受け止める。しかし、さすがに力負けするのか、少しずつ少しずつ押されていく。
「さあ、早くその小道の中にっ!」
アンジェラはウォレス達が小道に入っていくのを横目に見届けると、片腕の力を抜いてその怪力を受け流して小道をふさぐ形で体勢を立て直す。バランスを崩して倒れ込んだ石人形は素早く立ち上がり、再びアンジェラに殴りかかろうと拳を振り上げる。
「アンジェラさんっ!」
ディックは砕け散った石人形の素を踏み砕き、大声を上げてアンジェラを殴らんと拳を振り上げた石人形の背に槍を突き立てる。ともすればはじき返されそうな感触が手に伝わってきたが、負けじと力を込める。すると、槍先から石の割れる鈍い音が聞こえ、一気に剣が石人形の体を貫通した。
「やったか?」
石人形は鈍い動きでこちらを振り向こうとしたが、突然バラバラに砕け散り、もとの塵芥へと化していった。
「ありがとう、ディック」
「気にしないでください。まだ次が来ます」
そして二人は武器を構え直し、ゆっくりと迫ってくる石人形の群に斬りかかっていった。
Chapter.11
「もう始まってやがる……アレが居るなら近くに魔術師が居るはず」
ラスは走りながら精霊達に語りかける。……大気に舞う風の乙女達よ、彼の地に静寂をもたらし賜えっ……そして”静寂”の魔法は完成し、詰め所周辺は異様な気配に包まれた。何しろ、急に音が無くなったのである。
闘いの場は一瞬、凍り付いた。そして、次の瞬間にはまた激しい闘いが始まる。音が一切聞こえないので、ラス達の目には現実感が希薄で不気味な戦いとして映る。言葉による意志疎通が出来なくなったぶんだけ、衛視隊と冒険者がやや不利になったように思えた。
「はは…かえって逆効果だったかも…な」
ラスは走りながら苦笑いをすると、ふと、後ろにイヤな気配を感じて立ち止まった。そして少し遅れて付いてくるカイの後ろに、何者かが駆け寄ろうとしている。
「カイっ、後ろっ!!」
「え?」
カイは立ち止まり、素早く後ろを振り向く。そこには、いつの間にか回り込んできたシードの顔が飛び込んできた。
「ハァイ、お嬢さん♪運がなかったねェ★」
シードの腕が首に巻き付いたかと思うと、腕につけた銅製の輪の中から細長い金属の糸がするすると繰り出され、瞬く間にカイの首に巻き付く。
「!!」
「こっちから表情が見えないのがザンネンだねェ……っと、動くなよ?すぐに縊り殺しちゃつまらんからねェ♪」
反射的にその細い糸を掴み、抵抗しようと力を込める。しかし悲しいかな、抵抗するカイの力はシードのそれに及ばず、糸は徐々に食い込んでいく。ラスは歯がみしながらシードに気づかれないように腰に下げたダガーを抜き取る。
「どうだいお嬢さん、いい気持ちだろう?へへ…今すぐ楽にしてやる」
シードはぐぐっと力を込め、糸を引き絞る。と、その刹那、シードの左腕に激痛が走る。飛び退いたシードの手から糸は放れ、銅の輪の中へと素早く収まっていく。支える糸が無くなったカイは、力無く路面へ倒れ込み、2,3せき込んで、その目一杯に涙を浮かべる。
「カイっ、大丈夫か!?」
ラスは倒れ込んだカイに駆け寄り、抱きかかえる。ラスより先を走っていたシュウとロイも異変に気づき、慌てて戻ってくる。
「くっ、後少しだったのにねェ……ジャマした罪は重いヨ?」
腕に刺さったダガーを引き抜き、血に染まったそれを投げ捨てる。シードは傷口を破いた服で縛り、ショートソードを構える。
「ラス〜どうしたの〜〜?」
「……ラス、その子を連れて下がってろ!」
シュウは、ラスとカイを庇うように前に立ちふさがり、武器を構える。ロイはカイを抱きかかえて応急処置を施す。
「お前、海賊の片割れだな?」
「ちち、数が増えたか……」
シードは身を翻し、裏路地へと駆けだしていく。
「この野郎、待ちやがれ!おい、おまえらも来い!」
ラスはシュウやロイにも怒鳴り、呼び寄せる仕草をすると、慌ててシードの後を追う。
「え〜〜ボクもいくの?やだよ、めんどうだし……ラスだけでいってきなよ」
「オレもパス。どうせ追いつけねぇよ」
「てめぇら……なら、カイを頼むぞっ!」
相変わらずネガティブな二人にカイを託して単身、裏路地へと入っていった。
 |