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No. 00135
DATE: 1999/10/01 02:21:11
NAME: ミルディン
SUBJECT: 陽鏡館殺人事件第1章
あらすじ:エレミアで探偵事務所を開いているミルディン。そこに、財宝探しの依頼をしに来たソリア。その依頼を受け、ミルディンは財宝があると言う館に向かった…
「さぁ、着きました。ここが我が一族の館です」
玄関のドアを開けた瞬間、かなりの量の光が目を射る。目を細めて目を光にならす。しばらくすると目が慣れ、周りの様子が分かるようになってくる。
「ほぅ……」
思わず、感嘆の声が出る。内装も(こんな僻地にあるものとしては)なかなか豪華なものがあるが、とりわけ目をひくのが、館のあちこちにちりばられた鏡である。大きさはまちまちだが、なにしろ数が多い。さきほどのまぶしさは、玄関を開けたせいで日の光が鏡に反射したものだろう。
「おかえりなさいませ、奥様」
ホールの方からソリアが声をかけられている。おそらく、メイドの一人といったところだろう。
「ただいま、セラ。…他のみんなは?」
「今は皆さん、部屋にお戻りになっていると思います。もうすぐ、食事の用意が出来ますので、そうしたら食堂の方に来てもらえますか?」
「わかったわ。セラ、私の方はいいからこちらの方に館の案内をして上げて」
「かしこりました。…お名前は?」
「あ…ミルディン=テイルと申します。しばらくのあいだ御厄介になります」
館の内装に気を取られていて、一瞬反応が遅れる。が、すぐににこにことしながら応じる。
「わかりました。では、ミルディン様、こちらへ…」
セラに案内されるがままに後ろについていく。
一番最初に案内されたのは、ホール。天井にはシャンデリアがあり、その下にくつろげるようにソファー等が置いてある。
壁には、かなり馬上槍をもった古めの甲冑がかけてあり、それと対象になるような感じでがっちり格子のはまった暖炉が置いてある。
「…?なんで、あんなにしっかり格子をはめてあるんですか?あれじゃ、火がくべにくいでしょうに」
頭をかすめた疑問を聞いてみる。
「おととし、この家に子供が生まれたので暖炉は危ないから…ということでしっかりした格子を付けたそうです」
「へぇ…まぁ、子供の命の危険を考えればこれくらいした方がいいのかもしれませんね」
次に案内されたのが、渡り廊下。この館は本館と別館にわかれており、両方に宿泊できる部屋がいくつも用意されているらしい。
それを繋ぐのがこの渡り廊下なのだが、他の所に見られるものとは形式がかなり違う。なにしろ、半分地下に埋まっているトンネルのような形をしているのだ。
セラの話では建てた当初から、砂に埋まっても大丈夫なように設計したらしい。このトンネルのような渡り廊下には途中が広くなっていて、そこにバリスタが置いてある。
なんでも、昔の当主が海で使用したものだそうで記念においてあるらしい。わざわざごくろうなことだ。
別館。ここは2階建てで、寝室のみとなっている。一応、中庭があるのだがこの季節は風が強く、あっというまに砂だらけになってしまうらしい。
別館の入り口の所に文章が刻まれている事に気づく。なにかと思ってたずねてみると、
「これが、この館の財宝のありかを示した謎掛けの文のようなものらしいのですが…今のところ、最後の一文以外は解読できているそうです」
「最後の一文ですか〜。じゃあ、もう少しで解読できますね。ところで、その一文ってどんな文なんですか?」
ミルディンが聞くと、セラは歌うようにその一節を口ずさむ。
「幾千の太陽がそなたを財宝の元に導くであろう…だそうです」
「幾千の太陽ですか…これだけじゃなんにもわかりませんねぇ」
「そんな、一回聞いたくらいで答えられたらみんなとっくに見つけてますよ」
「それも、そうですねぇ」
そう言って2人で笑う。そうこうしているうちに、寝室に案内された。
寝室のある場所は、二階の階段のすぐ近く。なにかあったら、すぐに非難できるなかなかいいところだ。
「それでは、荷物を置いたら食堂の方まで来て頂けますか?そろそろ、お昼の用意が出来ていると思いますので…」
「わかりました…けど、私、食堂の場所知らないんですが…」
「ホールまで来ていただければわたしが案内いたします。それでは、よろしくお願いしますね」
にっこり笑ってそう言うと、ドアをぱたんと閉めて出て行く。それを見届けた後、じっくりと部屋を観察してみる。
内装は…まぁ普通の来客用の部屋、といった感じ。壁際にベッドが設置されており、ベッドの上の壁には窓が一つついている。今は風が強いため鎧戸が付けられているが。
その他には、簡単なテーブルやその上に乗っている花瓶(何故か、花は飾ってなかったが)等、ありきたりなものがそろっている。おそらく、他の部屋も同じ構造だろう。
「よっ…と」
持ってきた荷物を降ろし、中から必要なものを取り出す。まず、細かいものを探すための虫眼鏡。護身用のダガー。そして、忘れてはならないのが指輪。もちろん、普通の指輪ではない。師匠にもらった、魔法の発動体である。あまり似合わないためいつもはつけていないが、こういう時はないと困るので持ち歩くようにしているのだ。
「さて。必要なものは全部持ったし。そろそろ行くか」
食堂。ここの作りは、まぁ普通と言ったところ。ただ、壁に豪華なクロスボウが置いてある。やはりこれも、初代当主とやらが狩りで使用したものらしい。矢にも宝石が付いている。あれじゃ撃ちにくだろうに、と思ったが、あれは後から飾りとしてつけたものということだ。
ミルディンが食堂に入ると、すでに10人ほどの人が座っていた。どこに座ろうか迷っていると、セラからの紹介が入る。
「今日、ここに到着いたしました、ミルディン様です。今日より5日間、皆様とともにお過ごしになります」
「どうも。ミルディン=テイルです。よろしくお願いします」
とりあえず、にこにこと笑いながら挨拶する。すると、席についている人達からどよめきの声が上がる。
「なに…あれが?」「あの金の亡者?」「どこかの貴族から100000ガメルもふんだくったとか…」
「おいこらあんたら、ちょっと待てぃ」
いきなり初対面の相手にここまで言われて腹が立たないわけがない。…が、こんな所でいきなりケンカを売ったりすれば、あとの仕事がやりにくい…そう判断して黙っておくことにする。……それに、100000ガメルも取った覚えはない。けたが一つ多すぎる。
「いきなり、ご挨拶ですねぇ」
そうとだけ言って、にこにこしたままで勧められた席につく。…顔が引き攣っているのが自分でも分かる。
席についてから、改めて周りを見回す。すると、一人知っている人を発見した。
「なんだ、ガーランドさん。あなたも来てたんですか?また、会いたいと思ってたんですよねぇ」
「こっちはお前なんかに会いたくなかったね。」
ガーランド。衛視隊の副隊長で、主に町中の事件に当たっている。同じく、町中の事件を解決する探偵たちとは不倶戴天…とまではいかないが嫌っている事は確かだ。
「こないだの仕事はもうけさせてもらいましたからねぇ。あなたがいると何故か仕事がうまく進むんですよ♪」
「嘘つけ」
一言で返される。もちろん、嘘だ。どちらかというと、なにかとやかましい衛視がいない方が仕事がはかどる。
とりあえず、ガーランドをからかうのはここらへんで止めておくことにした。そして、他のメンバーを全員紹介してもらう。
最初に紹介されたのはこの館の家族。まず、今代の当主であるバドラー。いかにも、当主であるという威厳の様なものがある。…というか、他に特徴がない。
次に、改めてソリアが紹介された。そして、ソリアの横に座っている幼い子供。名前はリシェルというそうだ。人見知りらしく、このくらいの時期の子供としてはあまり騒がしくない。…それでも十分うるさいが。
そして、最後に一家の長男であるケニーが紹介された。こいつは一言で言うと、どら息子。前はもう一人いた長女と、他数人と冒険者をやっていたそうだ。その後、長女が冒険中に死亡したため冒険者を辞めてここにいるようになったらしい。
その後に紹介されたのが、先ほどの「他数人」の冒険者達。構成は、エルフの精霊使い。人間の盗賊。人間の魔術師。あともう一人、人間の戦士がいる。
「どうもよろしく」
とりあえず、一人一人にそう言って挨拶をする。
その後の昼食はまぁ、ほどほどだった。干し肉を使っているため、味気ない味のものが多かった。それは砂漠の気候を考えれば当たり前、という気もするが。
昼食後、冒険者組とガーランド、そしてミルディンには当主のバドラーから話があった。
「これから、みなさんにはこの館の財宝を探していただくわけですが…なにか、御質問は?」
ガーランドが手を挙げる。
「手がかりもないんじゃ探しようがないだろ?あの謎掛けになってる歌。もう一度聞かせてくれないか?」
「よろしいでしょう。後で、歌の書かれた紙を皆さんに渡しましょう。ちゃんと、共通語にした奴をね…他に質問は?」
今度は、にこにこしたままミルディンが手を挙げる。
「もし、ここの財宝が私たちにとって意味のない…要するに、金にならないものだった場合、依頼料の別途請求をしたいのですが……」
その言葉に、ガーランド達が呆れ返り、バドラーも笑顔を引きつらせていた…
「おい。お前何考えてるんだ?」
「もちろん、お金もうけのことに決まってるじゃないですか。…それに、衛視のあなたがなぜこんな所にいるんです?」
依頼料の別途請求の許可をもらった後。にこにこしながら廊下を歩いていたミルディンに後ろからガーランドに声をかけられた。だから、ついでに疑問を聞いてみることにしたのだ。
「おまえにだけ明かすが、実はうちの詰め所にこんなものが届いてな。犯行予告と一緒に。『この館で誰かが死ぬ』だとよ」
そう言って、仮面を取り出す。それは、ここに来る時に館の影で見たあの人影がつけている仮面そっくりだった。
「これは……」
「知ってるのか?」
一応、ここに来た時の事を話しておく。ガーランドは、とりあえず判断は正確だし、冷静さも十分。衛視にしておくにはもったいないぐらい有能な人物なのだ。
「ふむ……夜になったらお前に意見を聞きたい。こうなったら、嫌いだのなんだのなんて言っていられないからな」
「わかりました。それでは、また夜に♪」
にこにこしたまま答える。去っていくガーランドの後ろ姿を見ながら、ミルディンはまた、考え事をしていた。
(もし本当に殺人が起きて、解決したらうちに依頼に来る人が増える……そうしたら、金がまた溜まるな)
本当に、骨の髄まで金の亡者なミルディンであった。
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