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No. 00139
DATE: 1999/10/03 02:49:23
NAME: セリア・リアーヌ
SUBJECT: 戦い・・・そして敗北・・・
この話しは、絶体絶命・・・起死回生のつづきです。
セリア・リアーヌ(好奇心旺盛な「魔法」剣士)
シャラーナ(無口なレイピア使いの女剣士)
コリン(能天気なバトルアクスを操る豪腕の女戦士)
ティア(元気一杯のチャザの神官)
ルフィーナ(天然ぼけのハーフエルフで精霊使い)
マグニス「暗殺傭兵団「龍」の副団長」(依頼者)
ナナフィ「暗殺傭兵団「龍」の魔術師」(娘)
セスン「暗殺傭兵団「龍」の魔術師」(執事)
別荘の出口の扉は、無数のリベットが打たれた金属製の扉だった。
「ちょっと覗いてみるね」
コリンが言って、少し扉を開ける。
しかし、
ぎゅぎぃぃぃぃ・・・
扉のヒンジが嫌な音を立てた。
一瞬、顔を見合わせて、イヤな顔をする一同。
同時に、別荘の外で、いくつかの声が上がる。
「見つかった!」
誰かの叫び。
その声に、一瞬パニックになるわたしの頭。同時に冷静な部分が状況を分析し、適切な呪文を選び出す。
「・・・万能なるマナよ、凍てつく吹雪となり、切り裂け!
コリン、開けて!」
わたしの声に反応して、コリンが扉を開ける。
外と内を隔てる壁が消滅する。視界はオールクリア。目標は外に集まっている山賊約30。
「<ブリザード>!」
たむろしていた、山賊のグループのド真ん中、真っ白い吹雪が現れ、消える。
後に残ったのは、山賊達の絶叫。その数8から10名。そのほとんどは既に意識を失っている。
「みんな☆中へ!」
わたしの声に、全員が屋敷の中へ取って返す。
「・・・セリア、あなた魔法使いだったの?」
ティアが問う。
「まあね。でも、そんな事は後よ」
言っている間にも、後方で上がる山賊の声。
「畜生!」
「しっかりしろ、兄弟!」
「よくも!」
「あんまり、オリジナリティはないわね」
山賊達の声を聞いて、ティアが感想を述べる。
わたしも、同意見だ。
「奥の扉へ!」
わたしの指示で、全員が廊下の突き当たりの扉に飛び込む。
そこは調理場だった。
シャラーナとコリンが協力して、食器棚を動かし、扉に立てかける。
ワンテンポ置いて、扉を叩く音。
山賊が追って来たらしい。
しかし、食器棚は相当重いらしく、ピクリとも動かない。
当然だろう。扉の外は一本道。扉を押せるのは2人が限界。
そんな事を考えながら、わたしは周囲を見まわした。
扉のほうがやかましい。どうも気になる。
「コリン、ちょっと食器棚押さえといて!」
取り合えず、これで時間稼ぎの準備は完成。
そして、再び考えを巡らせる。
昔、アーダ兄様から教えられた知識が、甦ってくる。
そう、あれは確か、兄様のパーティがこんな状況に陥った時の事・・・
「・・・いいか、セフィ。剣も魔法も決して万能じゃなんだ・・・」
兄様の言葉を思い出し、わたしはそれを実行に移す。
「まず、ビンね☆」
手近に転がっていたビンを拾い上げ、キッチンの上のココナッツ油を入れた壷から、その中にココナッツを移す。
「ねえ、セリア、なにしてるの?」
ルフィーナが不思議そうに問う。
「昔、兄様から教えてもらった、セリア特製カクテルよ☆」
言いながらも、食器棚からワイングラスを2つばかり引っ張り出し、テーブルクロスを適当なサイズに千切った物で包む。
そして、それを床に叩きつけた。
パリンという小気味のいい音を立て、割れるグラス。
「・・・飲めないけどね☆」
言葉を続け、床のテーブルクロスを踏みつける。
「ごめん、ちょっと強いお酒取って!」
それまで、やはり、不思議そうな顔でわたしの方を見ていた、シャラーナが結構上等な火酒を持ってきてくれる。
わたしは、それを受け取り、テーブルクロスの中のガラスの破片と共にさっきのビンに注ぎ込んだ。
後は、蓋をして、振るだけ。
「コリン、食器棚の横に立って、わたしの合図で、コレ廊下の方に投げて!」
言って、コリンの方へビンを放る。
「廊下の?」
「そう! 2人も扉の正面から離れて。
セット!」
声を全員にかけ、わたしは呪文を唱え始める!
「・・・万能なるマナよ、閃く雷となり、貫け!」
<ライトニング>の魔法が発動し、木製の食器棚と扉を爆砕貫通し、その向こうの山賊数人をなぎ倒す。
後に残るのは、直径50センチ程度の穴。
「コリン!」
声を上げ、すかさずわたしは、次の呪文に移る。
「・・・万能なるマナよ、破壊の炎となり、焼き尽くせ!」
呪文の完成と同時に、コリンが食器棚と扉に空いた穴から、特製カクテル入りのビンを外へ投げる。
そして、<ファイアボール>がライトニングに耐えた山賊の真っ只中で発動。
数人が絶命し、さらに別の数人が吹き散らされる。
そして、特製カクテルの破裂が更に、追い討ちをかける。
もともと、油と酒を混ぜてよく振ってあった物である。ファイアボールの発する衝撃波であっさり砕け散り、続く熱波で発火する。
破裂した特製カクテルは、燃えるココナッツ油とガラス片を周囲に撒き散らす。
更に、数人の悲鳴が上がった。
その後、残った山賊達が逃げ去るのに、それ程時間はかからなかった。
「・・・みんな逃げたみたいね・・・」
しばしの後。
コリンが、食器棚を押し退け、言う。
「じゃあ、とっとと逃げましょう☆」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
全員、一瞬の沈黙。
そして、そのまま何も言わずに、無数の死体とガラス片とまだ燃えているココナッツ油が散らばる廊下を歩き出した。
「!」
別荘を出て、しばらく。
「危ない!」
シャラーナがわたしを突き飛ばす。
同時に、すたっ、という音を立て、一本のダガーが地面に突き刺さる。
「敵!?」
わたしは体制を立て直し、ティアとルフィーナをシャラーナとコリンとわたしで囲むような陣形を取る。
・・・敵に魔術師が居ると辛いわね・・・
内心、状況を分析し、苦笑する。
そして、右手にブロードソード、左手にソードブレイカーを構える。
後方では、各人がそれぞれ武器を用意する。
しかし、敵は姿を表さない。
「ルフィーナ! 敵の位置を教えて! わたしの古代語魔法で吹き飛ばす」
わざと大声で叫ぶ。
これで、相手は出て来ざるを得ない。
・・・でも、武器構えてから魔法もないわね・・・
言ってから、再び苦笑する。
しかし、はったりの効果はあったようで、4人の森林迷彩のソフトレザーを着た暗殺者とおぼしき連中が現れる。
「・・・わたしが、2人相手にするわ・・・ティアとルフィーナは援護を・・・
シャラーナとコリンは残りをお願い☆」
暗殺者2人がわたしの方に向って走り来る。
その動きは先程までの山賊とは明らかに違う、洗練されたもの。
明らかに訓練された暗殺者。
そのダガーが毒に濡れて、ぬらり、と鈍い輝きを放つ。
「ひゅっ!」
鋭い呼吸と共に、暗殺者Aがダガーを突き出す。
しかし、浅い。
わたしは、それを軽く身をひねってかわし、ブロードソードを振るう。
この一撃は、暗殺者Aの服を浅く切り裂いたのみ。
ワンテンポ遅れて、暗殺者Bが襲い来る。
なにぶん、Aに攻撃した直後につき、態勢が悪い。
Bの攻撃はソードブレイカーでかろうじて弾く。
「・・・早い!」
思わず、言葉が口をつく。
そしてAの攻撃。それを再びかわして、ブロードソードを振るう。
今度の攻撃はわき腹に入った。
傷口から、血が溢れ出す。
退くA、戦線を維持する為に、わたしの正面に移動するB。
直後、Bの背後で、激しく地面が鳴った。
ストーンブラストの魔法。
ルフィーナが使ったものだろう。
一瞬、Bの注意が反れた.
チャーンス☆
わたしは一気に、Bとの間合いを詰め、その脇目掛けて、全体重を乗せてブロードソードを突き出す。
剣が肉を切り裂く確かな手応え。そして、血しぶき。
それでも、Bは倒れない。
無言のまま、怒りの視線をわたしに向け、再びダガーを振るう。
わたしは、迷うことなくブロードソードを手放し、その攻撃をかわした。
続く動作で、Bの喉に向い、ソードブレーカーを突き立て、引き抜く。
盛大な血のシャワーが振り注ぐ。
ゆっくりと、倒れて行くB。
それには構わず、わたしは、血まみれのソードブレイカーを右手に持ち替え、Aに向って投げ放つ。
まさに一瞬の出来事だったのだろう。
ソードブレイカーは狙いたがわず、Aの喉の付け根に吸い込まれて行った。
わたしは、飛び込み前転で、Bの体にささった、ブロードソードを引き抜き、Aに向い走る。
Aはわたしに向ってダガーを投げてくる。
しかし、狙いが甘い。
わたしは、頭一つ動かして、それをかわし、更に速度を増し一気に間合いを詰める。
そして。
Aの脇を駆け抜けざま、剣を一閃。わき腹を叩き斬る。
「ぐぅ・・・」
Aが上げる小さな悲鳴が、耳に届く。
同時に、背後からわたしは再び剣を振るった。
剣が硬いものを砕く確かな感触。
赤い鮮血と白い脳漿が飛び散り爆ぜる。
「さあ☆次!」
わたしは、暗殺者の血を吸ったソードブレーカーを拾い上げ、ブロードソードについた血の珠を振り払う。
見れば、コリン達の方も決着が着いた。
「くっくっくっく・・・」
邪悪な笑い声が聞こえたのは、ティアがシャラーナの傷を癒し終わった時だった。
「誰!?」
コリンが振りかえり、声を上げる。
つられて、わたし達もそちらの方を向く。
「・・・あなたは!?
どういうつもりなの? マグニス」
ティア言う。
「ゲームだよ、ゲーム。
すばらしいとは思わないかね。諸君」
マグニスはいやらしい笑いを浮かべながら言葉を並べる。
「すばらしい?」
わたしは眉をひそめながら言う。
「そう。すばらしいゲームだ。
しかし、わたしのはじめたゲームだ。わたしが勝者でなくては面白くない」
マグニスがショートソードを抜く。
瞬間。寒い物が背中を走った。
なにも考えず、体を横に投げ出した。
それとほぼ同時に、今までわたしの居た場所を何かが通り過ぎて行った。
・・・ダガー・・・
マグニスはショートソード右手で抜きながら、左手でダガーを投げ放ったらしい。
「ほう・・・よく避けたな。では、全力で行くぞ」
マグニスが走り出す。
わたしは大きく後ろに下がりながら呪文を唱え始める。
入れ替わりに、コリンとシャラーナが前に出てマグニスを迎え撃つ。
ルフィーナも呪文をスタンバイ。
ティアは、行動を見送る。
「では貴女から」
マグニスとコリンが接敵する。
コリンのバトルアックスをマグニスは軽々とかわし、大腿部にショートソードを突き立てる。
「・・・があっ」
コリンの悲鳴が上がる。
そこへ、シャラーナがレイピアで突き掛かる。
が。
マグニスが一瞬口の中で、何かを動かした。
そして、
「ふっ!」
短い息。
シャラーナが後ろに跳び退がる。
「ぐぅぅぅ・・・」
顔を押さえ、うずくまるシャラーナ。
わたしには、解かった。
含み針。
口に含んだそれを、吐き出したのだろう。
マグニスは悠然とコリンからショートソードを引き抜き、再び走り出す。
コリンとシャラーナが倒れた事で、ライトニングの射界が開ける。
「<ライトニング>!」
わたしの放った雷が、マグニスの体を貫通する。
一瞬、その口から苦痛のうめき声が漏れる。
「効いてる!?」
わたしは再び、呪文を唱え始める。
続けて、ルフィーナのストーンブラスト。
これも、確実にマグニスに傷を負わせる。
「少々効いたな」
そう言い、マグニスはルフィーナの方へ向う。
そして、近距離から、その顎目掛け蹴りを放つ。
その瞬間、どういう仕掛けになっているのか、その靴のつま先の部分から、小ぶりの刀身が出現した。
悲鳴を上げることなく、喉を切り裂かれルフィーナが倒れる。
「ルフィーナっ!」
わたしは、唱えかけの呪文を思わず中断し、叫ぶ。
その間に、マグニスは神聖魔法を唱えるティアに躍り掛かる。
慌てて下がるティア。しかし、遅い。
マグニスが一気に間合いを詰める。
そして、ティアの腹目掛けて、ショートソードの柄を押し当てる。
一瞬の沈黙の後、ティアが倒れた。
ショートソードの柄にも仕掛け!?
思い、わたしは一度は途絶えた呪文を唱えはじめる。
マグニスはわたしに向い、走る。
わたしは、頭の中で、マグニスの移動速度と、自分の呪文を唱えるスピードからどちらが早いかを考えた。
・・・勝てる!
呪文の完成の方が、一瞬早い。
歓喜が湧き上がる。
しかし、その考えは次の一瞬で打ち砕かれた。
ばちぃん! そんな音が聞こえる。
「・・・!?」
一瞬なにが起こったのか判らなかった。
冷静に辺りを見る。
正面にマグニス。
まだ、間合いに入っていない。
そして、自分。
腹部に、ショートソードの刀身が深々と刺さっている。
「!」
口の中に血の味が広がる。
・・・やられた。
「・・・どうかね? どちらがゲームの勝者か、わかっていただけたかね?」
勝ち誇ったようにマグニスが言う。
意識が薄れて行く。
薄れて行く意識の中で、わたしは理解した。
マグニスのショートソードは何らかの仕掛けで、刀身部分を発射できる構造になっていたのだ。
「・・・ゲームの敗者には罰ゲームが待っている・・・」
「・・・」
意識が、もう保てない・・・
「・・・君達がここから生きて帰れる事を祈っているよ・・・もっとも、祈る神など居ないがね」
最後に、マグニスの笑い声が上がった。
それを最後に、わたしは深い眠りに落ちた。
○エピローグ
わたしは、誰だろう?
気がつくと、わたしはシャラーナと名乗る女性と一緒に居た。
わたしと、もう一人女性が、居るようだがその人も自分の事がわからないよう・・・。
一体どうなってしまったのか、全然理解できない。
わたしは、何処へ行けばいいのだろう?
わからない・・・なにも。
なにも、わからない・・・
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