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No. 00144
DATE: 1999/10/08 14:48:07
NAME: ミニアス
SUBJECT: 思い出
これは、ミニアスというキャラをより知ってもらうために書いたものです。
リファールより数日の所にあるシエント河のほとりの村・・・
3ヶ月程前にねぇちゃんが同じ村の人と結婚した。
1番上のにぃちゃんは、5年も前に出ていった。その後一度だけどこからか手紙が来たっきり、音沙汰無し。
2番目のにぃちゃんは、3年前に『旅にでる』とか言って音沙汰無し。
で、今度はねぇちゃんの結婚。
そして、私は今年で13才。
だもんで、村の酒場では次は私が旅に出るか、結婚するか・・・そんなことを賭けているらしい。
まぁ、いいんだけどさ。
「へ?」
きょとんとした声をあげてしまった。
ねぇちゃんがもう一度、繰り返して言った。
「母さんに子供が出来たんだって言ってるじゃないか。アンタに妹だか弟だかが出来るんだよ。」
しばらく言葉が出てこなかった。
だが夕方、家に帰ると再度説明があった。
今度は母さんからだった。
「聞いているとは思うけど・・・母さん、子供を授かったんだよ。」
なんだか、こっちまでうれしくなるような笑顔だった。
でも父さんはあまりいい顔をしていなかったのが気になった。が、それはすぐにわかった。
母さんくらいの年で子供を産むと、死んでしまう事の方が多いらしい。なんでかは私にはわからない。だが、その事を聞こうとしたねぇちゃんにも子供が出来た事が判明。
ますます、聞けなくなってしまった。
母さんのお腹が膨らんできた。もちろん、ねぇちゃんのお腹も。
通ってくれている医者の話からすると、どうやら母さんの方が先に産まれるらしい。
今日もニコニコしながら、生れた子供に着せる服をねぇちゃんと縫っている。
私はというと、母さんの代わりに畑に出ている事が多くなった。まぁ、村の外れにいる賢者さん宅に行って難しい事を聞いてたり、字の読み書きをするよりは楽だからいいけど。
あの賢者さん。よく昔の冒険談とか話してくれるんだけど・・・おんなじ話ばっかでつまんないんだよな。第一、自分1人で悪魔を倒したとか自慢するところがうさんくさい。
1人じゃなくて、仲間と一緒に倒したのではないかなぁ。問いただしてみたいけど、以前半日捕まった事があるからいいや。
あ、父さんが呼んでる。お昼かな?
気がつくと半年。そろそろ産まれる頃らしい。
一度母さんのお腹に耳をつけてみた事があるけれど、なんか・・・うごいてるって感じだった。かなり自分でもびっくりしたらしく、その夜の夢にまで出てきた。
そして、あの日。
夕方、村の酒場兼宿屋に一組の冒険者達が向ったのが見えた。
父さん曰く、「リファールの神官様が布教のために来た」らしい。
その後しばらく家族で話をしていたが、眠くなったので先に寝ようかと立ち上った時、母さんが急にお腹が痛いと言い始めた。
私は慌てて医者の家まで走る。
夜遅かったので仕度に手間取り、自分の気持ちだけが焦る。
医者を連れて戻ってくると、すでに父さんやねぇちゃんがある程度の仕度をしていた。
夜ふけて・・・まだ。
母さんのうめくような声が響く。
まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。
このままだと徹夜になるため、ねぇちゃんは旦那の家で寝かしてもらう事にした。
かなり心配していたが、お腹の子の事を考えて折れてくれた。
父さんがこの説得に異様に熱心だったのを覚えている。
ぼんやりしていたその時、別の部屋に行った医者と父さんの話し声が聞こえた。
「これ以上母親の体の中に子供がいるのは命に関わります。」
「では、どうするというのだ?」
「直接子供を取り出すしか・・・」
「彼女は・・・彼女はどうなる!そんな事をしたら彼女の命はどうなる!!」
一呼吸おいてから医者が静かに言った。
「私は医者。人の命を救いたいと、救うと願って行動しているんだよ。しかしこのままでは母親も子も死んでしまいます。」
私は立ち上ると父さんと医者がいる部屋の戸を叩く。
「どうした。」
父さんが戸を開けて訪ねる。
「今の話、本当?」
「聞いてたのか・・・」
戸惑ったような顔をする父さんに私は、わらって言った。
「あんな大きな声出して話していれば、聞こえるよ。」
「まぁ・・・そうだな。」
頭を掻く父さん。
その時、母さんのいる部屋からすごい物音がした。
慌てて行ってみると、苦しさのあまり動いていたらベッドから落ちてしまったらしい。
手伝いに駆けつけてくれた医者の奥さんが真っ青い顔でいる。気がつくと母さんのお腹が先ほどより小さくなっている。
それをみた医者が父さんなにか言っている。なにを言っていたのかわからないほど動揺していた。私は何も考えれずに言葉を口から出していた。
「今日、夕方に宿に冒険者風の人が行った。父さんは宿にリファールから布教に来た人がいるって言ってた。だから・・・だから・・・」
言葉がつづかない。なにも考えられない、上手くいえない。
だが、私の言葉を聞いた医者の顔がかわった。
そしてこう叫んだ。
「このままでは、子供も母親も死んでしまう。誰か、いそいで神官様を呼んでくるんだ。」
父さんが部屋から飛び出した。
私はそれから母さんをベッドに戻したり、声をかけたりとしていたらしい。
そして、部屋から出された。
しばらくして、父さんと1人の女性・・・何かの印を首から下げている人が来た。
事情を説明する父さんと私。だが、動揺しているため言葉は出るが、文にはなれずにいた。
そうこうしている時に、母さんのいる部屋から子供の泣き声がした。
そして、血だらけの子供を抱いている医者の奥さんが現われた。父さんは奥さんと共に子供の身体を清めに行った。
呆然としている私と1人の女性。
だが、医者に呼ばれて我に帰る。
血だらけの手で、医者は女性を引っ張り、腹から血を流している母さんの前に連れてきた。
傷口は縫ってはあるが、血が止まらないらしくあふれるように流れている。
「神官様。お願いします。彼女を・・・神官様?神官様!神官さまぁ!!!」
医者が声をかけた時、彼女は気を失った。
朝日が昇る頃、母さんは満足そうな表情で息を引き取った。
後日、母さんの死を知った時のショックで、ねぇちゃんも子供を産んだ。
まだ産まれるには早かったらしいが、特になんとも無かったようだ。
それから2年後。
私は家を出て、一番上の兄ちゃんのいるドレックノールという所に向う事にした。
「子供を2人育てるだけだよ」
そう笑って言えるねぇちゃん程、私は強くなかった。
父さんは笑いながら仕事をしていた。
「母さんは満足していた、それでいいんだ。ワシはそれで十分なんだ。」
なぜ、私が笑えなかったか。
聞いては、言ってはいけなかったあの言葉。
あのあと宿まで神官を送り届けた時、私はなぜ母さんを助けてくれなかったかと責め立てた。
だが、彼女はこう言ったのち、宿の中に入って行った。
「・・・あんな、あんな気持ちの悪いものを“癒せ”と言うのですか!?」
うらむ気持ちは消えた。だが、あの時感じた不信感。
まだ心に残っている。
だから・・・外に行きたい。
あれから、何年かたった。
兄ちゃんの紹介でドレックノールで一年ほど過ごしたあと、なんとなくオランにきた。
それからまた二年くらい・・・
今度は、コロムが子供を産む。
人間ではない、異種族の子。
生れてきても人を傷付けるから・・・なのか、よくわからない。
本当は産んでほしいかもしれない。生きてほしいのかもしれない。
でも、コロムは知らない方がいい。
身勝手だけど。
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