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No. 00158
DATE: 1999/10/24 01:24:55
NAME: ライカ
SUBJECT: さんざんな一日
このエピソードは、「偽りの聖戦士」を呼んだ後にお読み下さるといっそうわかりやすいと思います。
☆☆☆
「久しぶりに、二人で買い物にでも行くか」
ライカは相棒のシタールに誘われて、連れだって買い物に出ることにした。
三本傷の男に何かの魔法をかけられてから(魔法がなんなのかはっきりと断定はできないものの)、鬱々とした気分の毎日で、ちょうど気分転換にはなるかとライカは思っていたし、何よりこのままシタールに「三本傷の男に出会った」という事実を隠し続けているといらいらが頂点に達しそうだったからだ。
シタールの性格を考えれば、コロムを何度もひどい目に遭わせている三本傷の男がライカにまでちょっかいをかけたと知れば、怒り心頭に達して何をしでかすかわからない危険があった。ライカはそれ故「シタールにだけは隠す」と意固地になっていたのだ。
その問題さえこの際無視すれば、昼下がりの小春日和、買い物は楽しいものになるだろうと思われた。
だが。
長袖の服を新調しに服屋さんに行ったときだった。女主人がライカの真っ白な肌を見て目を細める。
ライカはもともと色素が薄い。それでもまだ髪の毛はうっすら金髪だが、肌は日に当たるとすぐに真っ赤になってしまうほど白かった。
その肌を女主人が褒めちぎる。
「まあ、きれいな白い肌ですこと」
あんまり、嬉しくない。ライカは白い肌が嫌いだったからだ。
そう思いながらも愛想笑いを返そうとしたとき。
「………!」
突然、おそってきた強烈な吐き気にライカは思わず口元を押さえた。
「ライカ、どうした?」
シタールが怪訝そうにのぞき込む。
だめだ、我慢できない。ライカはとっさにシタールを押しのけ、路地裏に駆け込んで胃の中のものを全部吐き出した。
「おい! ライカ!?」
シタールが背中をさすってくれる。吐いてしまえば吐き気は嘘のように消えた。
「なんでもない…変なものでも食べたのかしら」
なんでもない、にしては少し変だとは思った。あまりにも吐き気が急だったからだ。
結局その日は、買い物もそこそこに宿に引き上げた。
☆☆☆
だが。
その日の間に、謎の吐き気はあと3回やってきた。
吐く、という行為はそれだけでもかなり体力を使うのに、一日に複数回やってこられると、さすがに疲れる。3回目の嘔吐になると胃液しか出ず、吐いた後はベッドから出られなかった。
まさかつわりか、ともシタール共々疑ってみたが、よく考えると、別につわりに特有の食べ物などの香りが起因した吐き気ではない。
とりあえず、明日になったら医者に行ってみる、ということで落ち着き、二人はベッドに入って眠りについた。
ライカは隣のベッドから聞こえてくるシタールの寝言を聞くとはなしに聞きながら、ぼんやりと考え事にふけっていた。
突然の吐き気の原因が気になってどうしても眠れない。
ころん、と寝返りを打ったとき、あるイメージが唐突に浮かんできた。
…三本傷の男。
「…あ!」
ライカは思わず声を上げた。声を上げたことに驚いてあわててシタールを見ると、シタールは幸せそうな顔で寝返りを打ち、「パパだぞ〜…」などと寝言を言っていた。
どうやら起きなかったらしい。ライカは安堵した。だがすぐに三本傷の男のことを考える。
まさかこの吐き気は呪いではなかろうか。
吐き気を催した状況をもう一度整理してみる。
一度目は買い物途中。
二度目は木陰で本を読んでいたとき。
三度目は…チャ=ザ神殿大浴場の脱衣室。
「あ…!」
全部に当てはまる共通点を見つけて、ライカは口元を押さえた。
全部、何かを褒められた直後に吐き気におそわれている。
一度目と三度目は肌の白さを、二度目の時は下位古代語が読めることを。
…何かを褒められると気持ちが悪くなってしまう呪い?
思い至った結論にライカは、しかしなんだか情けなくなってため息を付いた。
(…こんな情けない呪い、かけられた自分まで情けないじゃない…)
オランの夜は静かに更けていった。
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