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No. 00163
DATE: 1999/10/31 04:37:33
NAME: ラーズ&レイファ
SUBJECT: 森の妖魔の倒し方
オランの街から北東に3日、馬車で行ったところにその村はあった。
村の名は、ラージルと言ったか。
依頼の内容は、至って簡単だった。
「・・・村の畑と家畜を荒らすゴブリンを退治してくだれ・・・」
オランの街を訪れた村長・・・名は、確かマドロだった・・・は、そう切り出した。
報酬は2500ガメル。ゴブリン退治としては悪くない。
最近、1人余計に養わなければならなくなって、金銭的に苦しくなってきていたラーズは、この依頼を受けることにした。
この冒険に参加しているのは、ラーズとレイファの二人。
ラージル村の朝。
「どうだった? ラーズ」
「個体数30強って所だな」
レイファの問いに、今し方ゴブリンのねぐらがあると思われる、森の偵察から戻ったラーズが答える。
個体数とは、もちろんゴブリンの、である。
「他に、コボルドが15。ホブゴブリンが5、シャーマンとロードが1づつ」
「・・・結構多いわね・・・大丈夫なの?」
少し不安そうにレイファ。
「まっ、大半はトラップで処理するから問題ないだろ。
実際武器交えるのは、10体以下にするつもりだからな」
対するラーズは、楽勝ムード。
「さっ、トラップワークするぜ。
レイファ、お前も荷物持て」
そう言って、ラーズは馬車に積んできた、バッグを2つばかり持ち、森の方へ歩き出す。
レイファもバッグを掴み、続く。
「うーん。まずこの辺から、行ってみるか」
地図を見ながら、ラーズが言う。
そこは、なんの変哲もない、森の中の三叉路。
「・・・なんでここなの?」
当然の疑問を、当然のようにレイファが口にする。
「ん? ゴブリンが道沿いに移動するなら、ここはクリティカルパスだからな。
罠はこう言うところに、張るのが有効なんだぜ。覚えときな」
ちなみに、クリティカルパスとは、ある2点間を移動する際、考えられる全てのルートの中で、必ず通らなければならないポイントの事を示す。
「・・・まず、あの木の上に、高速連射クロスボウを2機設置しよう。
トリガーワイヤはスチール。リレーはシーケンシャルプッシュプルタイプを・・・」
言いながらラーズは自分が示した木を上り始めた。
高速連射クロスボウとは、14連クロスボウが1つのトリガーで駆動している物である。でかくて思いので、戦闘には使えないがトラップに組み込むには最適な代物だと、ラーズは思っている。
ラーズの指示に従って、レイファがバッグの中から、物騒な形のクロスボウを取り出し、木の上のラーズに向かって投げ上げる。
それを受け取ったラーズは、木の幹にアンカーボルトを打ち込み、次々と固定していく。
さらに、地面に下り、極細の金属ワイヤを道の両脇に張り巡らす。
そして、少し離れた所から、そのワイヤに向かって石を投げた。
瞬間。
地面に無数のクォレルが突き刺さる。
「うんうん。上々の仕上がりだな・・・さっ、どんどん行こう!」
2人が居るのは、村の牧場。
日が暮れた後、村の中に人の気配はない。
ラーズが村長に言って、外に出ないように働きかけた為である。
ラーズ、レイファ共に黒を主体にした、夜間迷彩の服に身を包み、やはり夜間迷彩の弓矢を持ってスタンバイしている。
やがて、森の方で無数の悲鳴(?)が上がり始める。
ゴブリンの群がトラップ地帯に突入したのだろう。
その頃、森の中は、さながら地獄の様相を呈していた。
いきなり、3匹ほどのゴブリンの足下を網がすくい、相当な勢いで天蓋に展開された格子状のスパイクに向かって叩き付ける。後は血の雨が降るのみ。
さらに、ゴブリンを持ち上げる為に、落ちてきた巨大な石が、地面に置かれたシーソーを叩くと、木々の陰から槍が飛び出す。
槍に貫かれた、ゴブリン3匹が絶命した。
仲間の死に、恐慌をきたしたゴブリン達は、散々に逃げ出すが、それはますます罠の設置者・・・ラーズの思いの壺。
ある者は、突然地面から飛び出した、凶悪な形のスパイクに貫かれ、ある者は、落ち葉で巧みにカムフラージュされた沼に落ち、追い打ちで転がってきた、無数の巨大な岩に潰され溺れ死んだ。
そんな中にあっても、冷静な者もいた。
例えば、ゴブリン・シャーマン。やはり、普通のゴブリンと違い頭のいい彼には、この状況下で混乱すれば、確実に罠にはまる事を理解していた。
動かなければ、罠にかかることはない。
しかし、敵はさらに上手。
何の前触れもなく、びしっ! そんな音を立て、ゴブリン・シャーマンとその周囲に無数のクォレルが突き刺さる。
ラーズは、ゴブリンの予想進路から、最初に発動するであろう罠の周囲に、時限発動式の高速連射クロスボウを仕掛けていたのである。
そう、ある程度、頭のいい者なら、トラップ天国の中では、無闇に動き回らない事を予測して。
「ほうれ、来るぞ」
月明かりが照らす、牧場脇の小さな川の畔。
運良く、トラップ天国を抜けた最初の一団が現れた。
月明かりを川面が増幅し、特別な視覚を持たないレイファにも、十分ゴブリン達を確認することが出来る。
「撃て撃て!」
言うなり、距離にして50メートル強、向こうに居るゴブリン達に向かって、矢をいかける。
こうゆうロングレンジでの消耗戦なら、弓矢は魔法などよりよっぽど有効な武器あのである。
有効な対抗策を持たないゴブリン達は、次々と矢に射抜かれ、撤退していく。
「確認出来ただけで、その数、10って所か・・・よし、追いかけるぞ!」
言うなり走り出すラーズ。追うレイファ。
「これって、地獄絵図って奴ね」
小気味悪そうに、レイファは感想を述べた。
トラップ天国の森の中。
先を行くラーズは、罠を1つ1つチェックしながら、まだ生きているゴブリンに確実にトドメをさしていく。
「・・・慈悲はないのね」
「ない」
レイファの言葉に、振り返ることもなくラーズは答える。
「妖魔は敵。敵は殺す。それだけだ」
言いながらも、また1匹ゴブリンに短剣を突き立てた。
そうやって進む内、森が切れ、小さな岩山に行き当たる。
「・・・本拠地だ・・・まあ、巣穴って言い方がベストだと思うが」
ラーズは岩山にぽっかりあいた、洞窟を指さし言った。
そして、光の精霊を先行させ、その中へ突っ込んでいく。
戦闘開始の合図は、ラーズの投げたダガーだった。
ダガーは、ホブゴブリンの1匹の首筋に命中する。
「さあ、ショータイムだ」
ラーズが背負った長剣に手を掛け、走る。
続くレイファ。こちらの手にはショートソード。
迎え撃つゴブリン側戦力は、コボルド3,ゴブリン2,ホブゴブリン2、ゴブリンロード1。
ゴブリン軍団の中央を、ラーズが一気に突破していく。
その途中、すれ違ったコボルドが2匹、倒れる。
すれ違いざまに、ラーズに斬られたのだろう。
さらに、1匹のゴブリンを切り伏せて、ラーズはゴブリンロードに向かう。
が。
ゴブリンロードの間合いに入る一瞬手前で、急転身。
その目標をホブゴブリンに変更。瞬きする間も与えず、躍りかかる。
ラーズの一撃目をホブゴブリンは、手にした粗末な棍棒で受けとめた。
しかし、ラーズの攻撃は中段への蹴りへ連携。一瞬でホブゴブリンを地面に沈める。
「もう、終わりだ!」
言葉を発するなり、ラーズの鋭い突きがホブゴブリンの脇腹に突き立てられる。
ラーズは、ホブゴブリンの生死を確認する事もなく、振り返って対応の遅れているゴブリンロードへ向かう。
同時に、レイファもまた、ゴブリン達と剣を交え始めた。
ゴブリン軍団をラーズとレイファが駆逐するのに、それほどの時間はかからなかった。
「楽勝だったわね」
「まっ。バカ正直に剣構えて、おりゃ〜、って言うのだけが戦いじゃないって事だ」
「・・・端から見ると、すっごい姑息なんだけど・・・」
ゴブリンの死体の転がる洞窟の中、レイファは顎に指先を当てて、呻いた。
「・・・詩、作りにくいじゃない」
「知るか。
それをカッコよく歌うのが、プロってモンだろ」
「・・・そうだけど・・・なんか、根本的な所が間違ってる様な気が・・・
どうしたの?」
突然、ラーズの動きが止まった。
「・・・風・・・」
「へ?」
「・・・風が流れてる・・・」
ラーズの言葉を聞くなり、レイファは指先にツバを付けて、かざしてみる。
「・・・よくわかないけど・・・」
「髪の毛だよ」
ラーズは自分の髪の毛の一束、摘んで見せる。
腰まで伸びた、細いまっすぐな亜麻色の髪。
「わあ。綺麗な髪。・・・わたし、癖っ毛だから・・・」
「そんな話してんじゃねえよ。
よく見てみな。髪の毛の先がちょっと動いてんだろ」
「・・・ほんとだ・・・」
「ちょっと調べてみるか・・・」
「・・・この辺か・・・」
洞窟の最深部。
「大体、この洞窟変だぜ。
こんな天然洞、見た事ねえ」
言いながら、ラーズは壁を観察する。
はっきり言って、レイファには何をしてるのか、判らない。
「変、って、どういう風に?」
「この洞窟の回りは森だっただろ?」
「ええ」
「森・・・って言うか、土は水を吸うから、こんな所にこんな洞窟が出来るとは考えにくい」
「じゃあ、どう言うこと?」
少し声のトーンを上げ、レイファ。
「簡単な事だ。
つまり、誰かが意図して作ったって事だ」
ラーズが動きを止めた。
「・・・ここか・・・」
そこには、地面ぎりぎりに小さな穴が開いていた。
呪文を唱え始めるラーズ。
「・・・土の精霊よ・・・」
程なく、呪文が完成し、洞窟の壁に大穴を穿つ。
数メートル進んだ所で、大穴は人工の石壁に当たって止まった。
「ビンゴォ〜」
穴の中に進んだラーズが、数発、壁を蹴ると、壁はあっさりと崩れる。
「・・・間違いなく、遺跡だな。
となると、あの洞窟は排水経路のカムフラージュか・・・面白い」
「行く?」
「当然だ。こりゃ臨時ボーナスだな
ゴブリンさまさまだぜ」
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