 |
No. 00174
DATE: 1999/11/14 04:45:19
NAME: ガイア・ブラックシールド
SUBJECT: 時には昔の話を…(1)
ある少女を救ったのをきっかけに、彼女の経営するパン屋に(護衛も兼ねて)住み込みで働きはじめて少したったある日の深夜の事だった。
いつも通り日課の鍛練をしている時に、少し軽めの足音が俺に近づいてきた。
「ふぅ・・・夜もめっきり冷えるようになってきたわね。」
ふと振り向くと、湯気のたっているコップを二つ、トレイに乗せた少女がそこに立っていた。
「どうしたんだ?こんな遅くに・・・明日も早く起きて仕込だろ?」
彼女の差し出すコップを受け取りながら、そう問いかける。
「うん・・・でも、なんか眠れなくてさ。それに、あなたの事何も知らない事に今更ながら気が付いちゃって・・・」
”何か話してくれるまではここから動かない”という雰囲気をまとって、俺の隣に座る彼女。
俺は諦めにも似た表情で、彼女に話し掛ける
「・・・俺の過去の事など話しても仕方ないが・・・何が聞きたいんだ?」
「えっ、ほんとに話してくれるの?じゃあね・・・その黒い剣とか、黒い鎧を身につける理由が知りたいな。」
驚きと好奇心が入り混じった表情で問い掛ける彼女。俺は紅茶を一口飲んで話し始めた。
「この剣との出会いは、かれこれ15年以上前になるか…俺が騎士見習いとして王城にあがった時のことだった。
俺の仕えていた騎士が宝物庫の警備担当の一人でな、なにを思ったのか俺を宝物庫に連れていってくれたんだよ。
そこで保管されている物は、何の知識もない俺にとってまさに”宝の山”だったんだ。
そんな中で一振りだけ、黒く輝いてる…とても宝物とは思えないようなこの剣があったのさ。
その剣に魅入られたようになっている俺に、その人は由来を教えてくれたんだ…
”この剣はな、天から降ってきた石から作られた一振りなんだ。魔力が付与されているんだが、この黒い色がな…まぁ、騎士の剣としてふさわしくないのがここにある理由かな。”ってね。
それからずっとその剣のことが俺の頭から離れたときはなかったんだ。
それからしばらくして、そう今から5年前のことか…年に一度開かれる剣術大会の時のことだ。
その時は記念大会でな、希望者は全員参加できたんだ。
当時の俺は魔法には自信がなかったが、剣技の方にはそこそこ自信があったから、もちろん参加したよ。
各騎士団の選りすぐりの騎士に混じって下っ端の俺が勝ち進んでるのが珍しかったからか、近衛騎士団長達の目に留まったんだ。
確か準決勝の前に呼び出されて、『もし君が優勝したら、栄誉を称えて何か報酬を与える』と言われたよ。
今となっては、その言葉の裏に隠れた意味はよく解らないが、その時俺は思ったんだ。これがあの剣を手にする唯一のチャンスなんだとね。」
ここまで話すと、(少々ぬるくなった)紅茶で、口をしめらせる
「準決勝の相手は、昨年準優勝した人だった。もちろん正攻法で行ったら俺に勝ち目なんて無かったんだ…だから俺は守りに徹したのさ。
そして、攻め疲れてできた一瞬の隙をついて相手の剣を弾き飛ばして俺の勝ちだった。
決勝は…単純に運だったよ。準決勝の戦い方は読まれていたみたいで、相手もなかなか崩れない、そして時間だけが過ぎていく…
若い俺が焦って攻撃を仕掛けてしまったのさ。(苦笑)
あの一撃は一生忘れることは無いだろうな。
…もし、彼が足を闘技場の砂に取られなかったら。
…もし、俺の一撃が彼の腕に当たらなかったら。
…もし、その一撃で勝負がつかなかったら。
この剣は俺の元にはこなかったんだ…。」
俺は紅茶を飲み干し、彼女の顔を見た。
「これがこの剣を入手した時の話さ。もっとも、剣の腕前だけなら騎士団で一、二を争うほどまでにはなっているけどもね」
「ふ〜ん、剣については解った。盾も、家名から来てるんでしょ?じゃあさ、何で白く輝く鎧じゃなくて漆黒の鎧を選んでるの?」
「………どうしても聞きたいのか?」
「うん」
即答する彼女、俺は苦笑とともに彼女にささやいた。
「剣も黒、盾も黒かったら…鎧も黒の方が格好いいと思ったし…なにより、白銀に磨かない方が鎧は安くて長持ちするからかな。」
彼女の鈴を転がすような笑い声が、早朝の空に消えていった…。
<続く(かも)>
 |