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No. 00177
DATE: 1999/11/16 23:43:17
NAME: シャール
SUBJECT: ちょっと昔の話。
赤い炎の中に少年は立っていた。
・・・いや、少年と言うにも幼すぎる。そう、3歳位だろう。
しかし、彼はその歳には似つかわしくないほどの瞳を持っていた。
闇の中で赤く燃えさかる炎を映し出すその黒い瞳には,
悲しさと怒りにも似た強い輝きを放っていた・・・。
「シャール!!,てめぇなに本なんかよんでやがるっ!。」
怒鳴り声と共に大きな肉片が飛んでくる・・・,ここは肉屋の地下室。
あわてて椅子から立ち上がり両手でそれを受け取る。
石造りの床にほんがどさっと落ちる。
・・・痛んだかなぁと思いつつ,無駄と知っていて肉を運びながら親方に話す。
「まだ昼食時間ですよね?。」
「働かねぇ奴は食うな!。・・・わかってるな!?。」
いつもの返事が返ってきた。
親方は本を読むのが気にくわないのだ・・・自分がろくに読めないから。
まあ、今日は少し違うのだけれど。
椅子の上に立って,台の上の肉を切りながらボクは考えていた。
あれから4年。今でも眠ったときに思い出すあの光景は忘れられない。
身寄りの無くなった子供の行く末は限られている。
その中で定番とも言える道を進んでいた・・・盗賊だ。
ギルドに拾われて教育を受けた後,今は子供の立場を利用して潜入役をやっている。
今回はこの肉屋に住み込みで働いている。
今日で丁度10週間位だろうか・・・。
あ、しまった!、と思ったときにはもう遅かった。
親方の拳骨が後頭部にクリーンヒット!、そのまま床まで転げ落ちる。
「手めぇは何回言ったら解るんだ!、そこは切るなっていっただろうが!!。」
起きあがり,あやまりながら頭をさする。
「今度やりやがったら,いくらクランさんの紹介でも首だぞ・・・ったく本なんかばっかよみやがって。」
それは関係ない,と思いながら椅子を立て,再び作業に戻る。
もう、考え事をしながら切るのはやめようと思いつつ,牛の腿肉を捌いた。
日がくれる頃,やっと仕事を終え,端金を貰って帰路につく。
汚い路地裏を歩きながら道端で寝ている酔っぱらいから財布を頂戴する。
・・・今日の稼ぎの2倍入っている。
なんか無性に頭に来て,酔っぱらいが染みを作ったような汚い灰色の壁を蹴って回る。
魔法王国とか言われているラムリアースの首都ライナスも,下町は似たような物だ。
別に街の隅々まで魔法が行き渡ってるわけじゃなし,庶民の生活は変わりない。
繁華街じゃ年中夜になれば酔っぱらいが横行するし,犯罪だって数え切れない程存在する。
喧噪のとぎれるようなはじっこにギルドの入り口たる酒場がある。
ここは盗賊しか飲みに来ない酒場で,よそ者が入ってくると追い出される。
「よお、シャール,一杯飲むかぁ?,くっくっく。」
話しかけてきたのはやせっぽちで赤ら顔の通称「引っ掻き」。
前,こいつに酒を飲ませられて稼ぎをかっぱらわれて以来酒は飲んでいない。
「うっせぇな!1人で飲んでろよ酔っぱらい。」
そう僕が言うと,おお,こえぇこえぇとかいって笑いやがる。
・・・こいつ、嫌いだ。
なんか、他の面子はスラード王がなんとかとかクロークが何とかとか言っている。
何だかよく分からないが南で国が一個無くなって,新しい国が出来たとか。
最近,ファン王国が攻めてくるとかいう噂と関係有るんだろうか・・・?。
カウンターに座ってると,クランが来た。今日の首尾を聞かれる。
僕は今日仕入れてきた話を聞かせた,配達の経路と量と日時。
目当ての貴族の屋敷に配達が有るのは8日後。
途中で馬車を襲って,すり替わって潜入する作戦だ。
クランは優しい,子供なりに良くやっていると認めてくれる。
頭を撫でられて、すこしくすぐったい気分を味わいながら。
クランが居るからこのギルドを続けられるんだなぁ,と思っていた。
「じゃあ、しっかり頼むぞ,シャール。」
そう、笑いかけてクランはまた奥に引っ込んでいった。
僕は夕飯のパンと鳥の腿肉,それに野菜スープをトレイにのっけて,自分の部屋に帰った。
テーブルもない小さな石造りの暗い部屋に帰ると火打ち石で明かりを付ける。
油の染み込んだ細い紐が,蓋もない小さな器の上で黄色くわずかな光を作る。
かちゃり。かちゃりと音を立て,食事を終えた僕は,部屋の隅っこで,
毛布にくるまりながらしゃがみこみ,いつの間にか静かな寝息を立てていた。
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