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No. 00179
DATE: 1999/11/18 22:17:26
NAME: アレク
SUBJECT: 迷走迷路
登場人物:
アレク:傭兵の女の子。厄介事引受人。。
エーベン:ラーダの神官。なぜかロビンに夢中。
カイ:大人しそうなハーフエルフの女の子。
カオス:レドのカオスバージョン。怪しい魔術師。
ケイ:明るく元気な女の子。チャザの神官。
ディック:丁寧な物腰の傭兵上がり戦士。
ラス:口の悪いハーフエルフ。
レイシャルム:吟遊詩人。腕の立つ戦士でもある。
ロビン:本編の主役。愛と勇気の戦士。
ことの始まりはアレクとレイシャルムが受けた依頼からだった。
オランから徒歩で一日程度のところにあるアルカラの村は、古代からある貯水槽のおかげで癖のない甘い透き通った水に恵まれている。
古代人の残したものが身近にあるせいか、この村には地下迷宮が隠されているとか、村からずっと西の方にあるすでに冒険者に荒らされた塔には今でも隠された迷宮に偉大な財宝が眠っているとか、嘘か本当か眉唾物の噂もあるくらいだ。
アレクとレイシャルムは、そんなアルカラの村に荘園の持ち主である貴族のお嬢さんの護衛でやってきた。
しかし、道中の護衛なので荘園に着いてしまうとまったく暇になってしまった。お嬢さんは村から離れたところにある館の中で大人しくしていて散歩すらしないので、専ら好きなことをしていてかまわなかった。
おかげで出発の前日にいきなり着いてくることになったレイシャルムと村に遊びに行ったり、幾重にも連なる丘陵をゆっくり時間をかけて歩き回ったりして過ごしていた。
村についてから3日目。ちょうど日が傾きかけた頃、レイシャルムの姿が見あたらないのでアレクは一人で丘陵を散歩していた。
野良仕事から帰ってきたのか、林檎を入れた籠を抱えた村娘達が向こうから歩いてくる。
アレクに気がつくとなにやらみんなでひそひそと話していたが、すれ違いざまに挨拶をすると、一人の娘がはにかみながら林檎を一つ渡してきた。
娘達の明るい花のような笑い声は、アレクの口元を自然とほころばせる。
貯水槽をを過ぎ丘陵の間を通る農民たちの使っている細道を歩いていると、離れたところで石の上に灰色のマントを着た男が暮れかける陽の光を避けるように座っていた。
立ち止まり様子を伺っているとゆっくりとアレクに手招きをした。
「病気で動けないのだ…」
男は弱々しく声を出す。
「喉が…乾いたな。お嬢さん…私にその林檎をくれないか?」
「いいけど」
手に持っていた林檎を差し出す。
男は林檎に歯をたてるが、彼にはかみ砕く力さえ残っていなかった。
林檎を噛むことをあきらめ深く息をはいた途端、いきなり激しい痙攣に襲われ始めた。倒れそうになる男の体を支えて懸命に介抱をするが痙攣は止まらなかった。村に行って誰か呼んだ来た方がいいのか逡巡しているうちに男の痙攣が少しおさまってきた。
「私の命もここまでだな…やっとここまでこられたというのに」
落ちくぼんだ目で村の方に目をやる。
そんな男の姿にいたたまれずに、
「あのさ、村まで行って休ませてもらったらどうかな?…そうだ、馬を借りてくるよ。ちょっと待ってて」
駆け出そうとしたアレクを男が呼び止める。
「その前に…お礼をさせてはくれないか?」
「そんなの後で…」
アレクの言葉を遮るように男は、革紐で結わえてある白檀の函を出した。
「私の命の火が消える前に渡したいのだよ。これは…価値があるかどうかもわからないものだが…」
ささやくように途切れがちに言葉を続ける。
「ささやかな…お礼だよ…」
アレクは一瞬迷ったが男がそれで納得するならと函を受け取り村の方へ走り出した。
「ふん…それでどうしたんだ?」
騒がしい酒場のカウンターで隣に座っているカオスが赤ワインの入ったグラスに口を付ける。
「うん…その人を村まで運んで看病したんだけど。その日の夜中に息を引き取ったの。だからこれは形見になるのかな?」
カウンターの上に置かれた函を指で突っつく。
「中は見たのか?」
アレクは函を開け羊皮紙の巻物を取り出しカオスに渡す。
「私もレイも読めないの」
カオスは羊皮紙をじっと読んでいた。やがて微笑をもらしアレクにささやく。
「下位古代語だな。隠され、魔法の呪文によって守られている迷宮を開くための一種の呪文が書いてある」
「迷宮?それってどこにあるの?」
カオスは羊皮紙に目を落とす。
「…最後に書いてあるこの詩はリドルか。まあ、調べてやらんでもないがな」
アレクはカオスの顔をのぞき込んで。
「で、レドは調べるだけ?」
「しょうがないな…お前だけでは心配だからな。罠にかかって死なれては目覚めが悪い」
そう言って苦笑をもらし、騒がしくしているテーブル席の方を顎で指す。
「ふん、どうせならあいつらも連れていくか。どうやら力が余ってるようだしな」
テーブル席ではロビンを囲んでラスやディックが相も変わらずロビンで遊んでいるみたいだった。
振り返ると丁度ラスがロビンの頭を叩いて小気味よい音を店内に響かせた。
早速3人に話を持ちかける。
「遺跡だろ? そういや最近潜ってねぇな…」
ラスは髪をかき上げながらあまり乗り気じゃない様子。
「そうですね…最近稼いでないですし、遺跡なら何か役に立つ物もあるかも知れないですね」
慎重な性格ながらディックは持ちかけた話に興味を示す。
「ふっ、遺跡なんてこのロビン様にかかれば…」
「え〜!ロビンも来るの?」
ロビンの言葉を最後まで聞かずに意外そうに声を上げたアレクをカオスがたしなめる。
「そう言うな。…まあ、なにかの役には立つかもしれんだろう」
「え〜…なんかってどんな?」
「…そうだな、鑑定していないアイテムを持たせてみてどんな効果があるかためす…とかだな」
「ふ〜ん、そっか」
2人の会話に、テーブルの下で拳を握りしめているロビンを無視してディックがアレクに質問する。
「それで行くメンバーは決まってるんですか?」
「うん。ここにいるメンツでしょ? それと…」
「カイはついてくるって言うだろうな」
乗り気でない割にはラスが口を挟む。
ゆっくりとみんなを見回し自分の顎に手を当てながらカオスが呟く。
「ふん、癒やし手がいないな…」
デッィクをちらっと見てからアレクが手を挙げ発言。
「はーい。じゃ、ケイは? 一応神官だよ?」
その言葉を聞き、ディックが目を見開く。
「ケ、ケイさんを連れて行くのですか?」
「なんか問題ある?」
「ないですけど…」
「じゃ、OK」
いまいち納得していない様子のディックを後目にラスがアレクの脇腹を肘で突っつく。
「おまえの連れはもちろん来るんだろ?」
「うん。ここで待ち合わせしてるから…そろそろ…」
(からんからん)
そこに申し合わせたようにレイシャルム、それに続いてエーベンが店内に入ってきた。
2人を一瞥し、カオスが声をかける。
「めずらしい取り合わせだな」
「ああ、偶然そこで会ってな…お、アレク待たせたか?」
「ロビンさん!」
エーベンがレイシャルムを押しのけて、ロビンに目を留め瞳を輝かせる。ロビンはびくりと体をふるわせ、アレクの後ろに隠れようとしたが、
「気持ち悪い。張り付くなよ」
あからさまに嫌な顔のアレクに回し蹴りを喰らい、エーベンの前に転がり出る。
「…お前もうちょっと女らしくしないと恋人に捨てられるぞ」
転がったままの姿で吐かれたロビンの抗議の声を、ふんっと無視して。
「そういえばさ、遺跡に行くのってなんか支度ってあるの?」
「それはこっちで用意する。お前はそのまんまでいいぞ」
そう言ってカオスはラス、ディック、レイシャルムと細かいことについて話し始める。
「ふ〜ん…」
アレクは何となく手持ちぶさたでテーブルの上の空になった杯を弄ぶ。それに気付いたレイシャルムがアレクの頭にぽんと手を乗せながら。
「…そういや、アレクは遺跡探索は初めてだな」
その言葉にこっくりとうなずく。
「あんまり無茶はしないでくれよ?」
「わかってるって…心配性だなぁ」
「そこ!酒場でいちゃいちゃするな!!!」
見つめ合う二人にロビンがびしっっと人差し指を突きつける。
そんなロビンを見てラスはにやにやと笑う。
「何だ、お前羨ましいのか?」
「そんなに愛を欲しているのでしたら私が…」
慈愛の笑みを浮かべつつにじり寄るエーベンからロビンは素早く身をかわして叫んだ。
「お前はいらんっ!」
「それで、解読はいつまでに出来る?」
一通り話のついたカオスにアレクが訪ねる。カオスは手に持っていた巻物を函に戻しながら。
「これなら…明後日までには出来るだろうな」
「そっか。なら、ええっと…5の日にはここを出発できるね」
ロビンしか目に入ってなかったエーベンが、ふと我に返り会話に加わってきた。
「皆さん何の話をしているのですか?」
「遺跡探索だよ。最近金になる話がなかったからな…」
ラスが答える。
「ロビンさんも参加なさるんですか?…そうですか、ならば私も行かせてください。たとえロビンさんが怪我をしても私が愛の力で治してさしあげます!」
決意に満ちた熱い眼差しでロビンを見つめる。エーベンにはロビンの迷惑そうな顔なんか目に入ってないようだ。
そんな様子を見て苦笑を漏らしていたラスが思い出したように口をきる。
「そういやこの話持ち込んだのはアレクなんだよなぁ…」
「…そうだけど?」
ラスは嫌そうな表情を隠そうともせずに、
「おい、大丈夫なのかよ?」
「それ、どういう意味?」
「へ、言葉通りの意味だけど?」
「大丈夫だって! 年くってるくせに心配性だな、ラスは」
何の確証もなくアレクは明るく答える。
「年は関係ねえだろ。それにお前の『大丈夫』にはまっっったく信憑性がねえな」
ラスの言葉にカオス、ディックが苦笑をもらす。そしてレイシャルムがそっとため息をついた。
「ま、出発は5の日の朝。遅れたものは置いていく、いいな?」
カオスがまとめ、みんなそれぞれ頷きあう。
5日の早朝。
ひんやりとした朝の空気の中、北の門が開くとともに9人の冒険者達が北へと旅だった。
目指すはカオスの調べによって遺跡があると判明した、オランから一日半ほど離れたところにある森の中。
意気揚々と先陣を切って歩く黒髪の青年。それに見守るように着いていく神官。肩をくっつけるように歩くハーフエルフのカップル。その他いろいろ…。
その先になにが待ち受けてのか彼らはまだ知らない。
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