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No. 00181
DATE: 1999/11/19 01:53:10
NAME: スナイプ
SUBJECT: 帰還
「親が死んで悲しくねぇのか?」
「親じゃない。似たようなものだけど」
「ほーう、どっちにしろ現場を見たんだ。ただで済むとは思ってねぇよな?」
「どうする気?命を助けてくれるなら土下座して靴を舐めるくらいの真似はして見せるけど?」
「・・・・・・てめぇは俺と来い、言う事を聞けば生かしといてやる。何、簡単な事だ。靴を舐めるよりは難しいだろうけどな」
オランに来るとまず最初にギルド・マスターに挨拶に行った。7年ぶりのギルドは知らない相手の方が多く、自分を覚えている者は数える程度しか居なかった。
手短に挨拶を済ませ、帰りがてら数少ない知り合いに声を掛ける。
「お前が幹部になってたとは知らなかったぜ・・・ここも随分と変わったな」
「7年ぶりか・・・君はとっくに死んだものだと思っていたのだがな。今まで何をしていた?」
7年前と全く変わらぬ無愛想ぶりで男が呟く。
スナイプは苦笑しながら肩を竦めた。
「俺も色々有ったのさ・・・」
その後、暫く男と話し込む。7年間でギルドがどう変わったか少しでも知って置きたかった。
「ローラッドはどうした?奴も幹部になれたのか?」
自分に暗殺者の技術を叩き込んだ男の名を出す。自分がオランを離れる前は幹部候補の1人だった筈だ。とっくに幹部になっていてもおかしくは無い。
「ローラッドは始末された」
飼っていた犬が死んだ程度の物言いで男が答える。
「2年ほど前の事だ。詳しくは知らんが不正が発覚したらしい」
スナイプは露骨に溜息を吐いた。
「馬鹿が・・・執行人が不正やってどうすんだ・・・」
「どんな心境だ?」
男は飽く迄淡々と聞いて来る。その口調からはどんな答えを期待してるのかも分からない。
「別に、奴から教わる事はもうねぇし、居ないなら居ないで気にはならねぇよ」
そっけなく答えるとまた別の話題を出した。
「考え事?」
適当に泊まった安っぽい宿、隣りで寝ていた娘が声を掛けて来た。酒の勢いで口説いたと記憶している。もう名前も忘れてしまったが敢えて聞き直す必要も無いだろう。どうせ今夜限りの女だ。
「無駄に生きてるとな、余計な事ばっか考えちまうモンなんだよ・・・くだらねぇ事に埋もれて本当に必要な物もゴミに変わっちまう・・・くだらねぇ人生の出来上がりって訳だ」
自分でも何を言ってるか良く分からない。当然聞いてる方も理解出来る筈は無いだろうが、娘は何も聞き返しては来なかった。
自分を育て上げた2人目の師。自分が最も愛した師を殺した最も憎むべき師。
それはもうこの世に居ない・・・
スナイプは苛立っていた。男が死んだ事ではなく、その事に余り衝撃を受けていない自分に。
いつか仇を取る・・・その為だけに必死で生き抜き、その為だけに腕を磨いた筈だった。
だが、いざ目的が無くなって見ると・・・別に良いか思ってしまう。それが気に食わなかった。
少なくとも7年前はそれ以外考えられなかったと言うのに・・・
「くだらねぇ・・・」
もう一度呟く。
生きるのに目的など要らない。それを知ったのがこの7年で最も大きな収穫だったのかも知れない。
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