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No. 00187
DATE: 1999/11/27 03:00:56
NAME: コロム
SUBJECT: 悪魔生れる時
このエピソードには、以下のPLが関わっています。
カイ、コロム、カレン、ディック、ラス、ミニアス。
このエピソードをより理解していただくためには勘違いの結末(コロム)と勘違いの結末(ミニアス)と悪夢再びと偽りの聖戦士を読んでみてください。
先日、マーファの神官が「奇跡」をおこなっているワシの所に出向いてきた。どうやらワシのやっている事に疑問を感じたためらしい。
「なぜ、ファリス神官でありながらこのような事を行っているのですか?」
ばか正直に本当を語るワシではない。
男に説明する気にはならんかったが、それなりに立派な言葉で対応してやった所、納得したらしく帰って行った。
ファスリファーとか名乗ったな・・・・
ひとつこれも使ってやるか。
*決起。
「神官様。」
ふと入り口をみるとあの青年が立っている。
「なんだ。」
「あの者の居場所をつきとめました。周りの者の話からも間違いないと思われます。」
ドロルゴは心の中で微笑むと、静かな声でこう言った。
「事は一刻を争う。本来ならば明日にでもその場に行き、悪魔が生れるのを防がねばならない。」
「しかし、お1人では危険なのでは。」
神妙な顔をしてドロルゴは、こう言葉を続けた。
「神の御加護があるかぎり、私は決して負けはしない!例え負けるとわかっていたとしても、やらなければならぬ事なのだ!!」
青年の口が動きかけるが、言葉にはならなかった。
「明日、最後の奇跡を行う。だからいつもの広場に皆を集めるように。頼んだぞ。」
マントをひるがえしながら言葉をかけるドロルゴ。
『これですべての用意は整った。あとは幕があがるのを待つのみ・・・』
翌日
朝早くから詰め掛けた者共の量があまりにも多いため、いつもよりも早くから奇跡を行う事にした。
その時にワシはこう皆に向けて喋った。
「私は明日には神にめされているやも知れない。そのため今日が私の起こす最後の奇跡となろう。」
どよめく者共。片手をあげてそれを静めると言葉を続ける。
「先日、神の御言葉が私に届いた。その中でこの街には恐怖と混乱に陥れる者達がいるとおっしゃった。そのため私は正義の名の元に戦わなければならない。この街を、いや君たちを守るためにも私は行かなければならない。そのために今日は私も出来る限りの事はしよう。それが君たちに対する私なりのケジメだと思っている。」
再度どよめき始める者共を無視し、奇跡を行使していく。
それはいつもドロルゴがおこなっている事と変らない風景に見えた。
違っているのは片手に不思議な石を持っている事ぐらいであろう。
いつもよりも早く奇跡を終わらせ一息ついている所に、数人の若者がワシの所に来る。
「・・・神官様は悪魔を退治しに行かれるのですか。」
「ならば我々もお供させて下さい。」
「決して足手まといにはなりませんから。」
極めて真面目な顔をして、静かに諭すようにゆっくりと喋る。
「生きて帰れる保証はないぞ。」
「構いません。」
間髪入れずに言切る若者。
その後くだらぬ押し問答がしばらく続き、ワシはしかたなく折れてやるフリをする。
これは予想以上に面白くなりそうだ。
*進行そして
その日の夜。
あと1時間もすれば夜が明けるという時分。
黙々と歩く1人の神官の後ろから、50人くらいの者が付かず離れずに歩くという光景がオランの街に見えた。
ちょっと見ただけならばどこかの信者の行列に見えるが、皆手にみずぼらしいヤリや棒などを持ち、その表情は悪魔にでも取り付かれたかのようにギラギラとしていた。
しばらくして、ある家の前でドロルゴは止まった。
そしてその家の前では、1人の男が慌てて家の中に入って行った。
「あの男も神官様の事を聞きまわっていた者の1人です。」
右後ろから静かな声が聞こえる。どうやらあの青年らしい。
振り返り、者どもを見る。
さあ、ここからからが本番だ。
「我々は、故郷と正義を守らなくてはならない。と同時に、真実に気付かず操られている者達を救わなければいけない。誰が、悪魔なのか・・・・それは私が見ればすぐにわかる。だが、誰が悪魔なのか見なければわからない。そのため建物内にいる者すべて取り押さえ、しかるべき処置を行う。本来ならば私1人でやるべき事だが、諸君らの力を借りようと思う。いざ、ゆかん!!正義は我にあり!!!!」
言い終わった直後、朝の静寂を破るかのように雄たけびをあげながら走り出す者ども。
窓を割り、ドアを蹴破り・・・・あの青年は、何人かを連れて裏口へと回って行った。
あとはここに来るのを待つのみ・・・・顔にも出ないように笑いをこらえるというは、結構大変な事だな。
*家
少し時間は戻る。日はまだ空にあるが、少しずつ暗くなってくる頃である。
「それは本当か?」
カレンが聞き返す。
「ああ。間違いなく『今日が最後の奇跡』と言っていた。いつ何を起こすかまではわからなかったが、ここを引き払った方がいい。」
ラスの言葉に嘘はないだろう。だか・・・
「今から移動するとなると・・・足元がみずらくなるから危険だよ。」
横からミニアスが意見する。
ラスからしてみれば、敵はすぐに来てもおかしくない。そんな事を言っている場合ではないのだが、たしかにコロムがあのお腹でこけたら自分が冷静でいられるかどうか自信がない。
お互いにしばらく黙ったあと、カレンがこう言った。
「とにかく用意だけはしておこう。」
うなずき合うと、カレンは隣の部屋にいるコロムの説得にかかるため色々と考える。
前回の移動のときもかなり強引に説得したため、今度は違う方法で説得しなければならない。
ズキッと胃が痛む。これはコロムがあの一言を自分にぶつけてきてからずっとの事である。
『あなたの子を身ごもったの〜』
あの笑顔に・・・いや、コロムを自分の部屋に連れ込んできた時から仕組まれていたのかも知れない。
コロムに悟られないよう気をつけながら痛みに堪えるカレンの背を、ラスが同情とも言える表情で見ていた。
「とりあえず、様子を見てくるよ。」
もし襲ってこられた時の事を考えて、残るのはラスの方がいいだろうという事もあり、ミニアスが変装してスラムに偵察に行く事にした。
「気をつけて〜」
なんの迷いもないような笑顔で手を振り見送るコロム。その横に不安そうな顔のカレンもいた。
ちなみにコロムがミニアスの見送りを出来る理由は、その日の夕食当番がカイであるためな事も付け加えておく。
その後相談した結果、夜は交代で(寒い中)外で見張る事に決定した。その上で、夜が明けたらすぐにでも、違う場所に移ることにした。
無論コロムも見張りに立つと言い張ったが、4人に怒られてベッドの中で拗ねていた。
カイが1番。カレンが2番。ディックが3番。ラスが最後。
途中カレンの時にミニアスが一度来て、なにかおかしいから朝まで様子を見るとだけ告げて去る。近付いた際に敵と間違えられて切られかけた事を告げておこう。
その後は何もなく、ラスの番となる。
夜明けが近い事もかなり冷え込んできている。厚手のマントを選んで羽織り、外に出る。
「さみっ。」
このまま外で寝たら凍死するかもと本気で考える。
かなり外が明るくなった頃、ぼんやりとしかけていたが大勢の人の気配で我にかえる。
そしてドロルゴを先頭に何十人もの人を見ると慌てて、みんなを起こそうと建物の中に入る。
ラスにはドロルゴの後ろにいた何十人もの人が、あのスラムの人達だと分かった。
ちょうど、カレンとカイがここを出るための準備のため起きていた。
ディックとコロムを起こしている時、ドロルゴのあの演説。
「ふざけるな・・・」
ディックも武器を手に取りながら怒りをあらわにする。
が、ラスからあの大勢の人がスラムの人だと告げられると、動揺する。
「裏口から一気に抜けよう。パダへの街道に続く門の所で落ち合えば・・・・」
ガタン。がっしゃぁぁぁああん。
扉が蹴破られ、窓が次々と割られ、そこに雄叫びを上げながら人がなだれ込んで来る。
ここで時間が合流する。
*攻防
「きゃああああ。」
窓の割れる音に驚いたコロムが悲鳴をあげる。
慌ててコロムのいる方に向うカレン。
背を向けたカレンに追いすがる人ををディックがスピアで突き飛ばす。
「・・・ありがとよ。」
無言でその言葉を受け取るディック。近くにはカイが数人を相手に立ち回っていた。
だが数があまりにも多い。
外ではドロルゴが静かに待っていた。
横に1人の人がよる。
その瞬間、ドロルゴの首から下げていたファリスの聖印が地面にコトンと音を立てて落ちる。
「避けなくてもよかったのに。」
「その声・・・・くははは。そうか、変装していたとはな・・・」
反射的にのけぞったからこそ死にはしなかったものの、左頬の所に切りつけれた傷口が縦にパックリと開いていた。
2、3歩下がってナイフを持ちなおし構えるミニアス。それを見てドロルゴはこうも言葉を続けた。
「そのような格好では女としての魅力にかけるぞ。」
「大きなお世話!」
もう一度切りかかるが腕をつまかまれ、受け流される。が、その右腕を左側へ流そうとする力に逆らわずに、身体を半回転させてひねり左のひじを顔面に当てさせる。
切られた傷から血が飛び散る。
一瞬目の前が赤く染まり少しふらつくドロルゴだが、腰に下げている剣をゆっくりと抜く。
目があった瞬間、ニタァと笑う。
それを見て、背中に悪寒が走る。
背後の気配に気がついた瞬間、ミニアスの後頭部に強い衝撃が走り、意識が途切れる。
「神官様ぁ。大丈夫ですかぁ。」
「この悪魔め、よくも神官様を!!」
ドカドカと容赦無く棒で殴り続ける者どもに、せっかくの玩具をだめにされるのは忍びない。
「その者は・・・騙されているだけだ。私も生きているのだ、そこまでしなくてもいい・・・」
頬がかなり深く切られているため、喋るにも痛みが付いてくる。
「し、神官様がそうおっしゃるのならば・・・」
「ちっ。命拾いしやがったな。」
ぺっ、と唾を吐き捨てる者や腹に蹴りを加える者などいたが、しばらくするとすでに縛り上げられた男女と共にミニアスもいた。
裏口では、カレンとラスがコロムをかばいながら、必死に外に出ようとスキをうかがっていた。
だが、回り込んでいた者達を相手にするのは容易な事ではなかった。
実力は大した事はない。武器も装備もそんなんではない。
目が、違うのだ。
異様な気迫があった。
それに圧倒されかけているのも事実だが、その数の多さにも舌を巻いていた。
「くそっ」
文字どおりコロムをかばいながら戦うカレン。
相手が飛び込んできたら、それを逆に突き飛ばしてから追い討ちをかける。そしてそのスキを突いてコロムに襲い掛かろうとする者を、後ろから張り倒す。
そんな行動を何度も繰り返す。
ラスもかなり疲労している様子が、表情から読み取れる。
自分の間合いに飛び込んできた者に一撃で倒そうとするが、ヒラリとかわされる。
今までの者とは動きが違う事が一目で分かった。
が、普段なら重さも感じないこの体が、徐々に重く感じてきた自分に相手出来る・・・・いや、コロムを守りながら相手が出来るであろうか。
「ラス・・・しばらく頼む。」
それだけ言うと、1人に向かって走りより手に持つショートソードを思い切り横になぐ。
着ていた服をかすめながらもその者はなんとか避けると、反撃とばかりに手に持つナイフがカレンの首に迫ったきた。
しゃがんで避けたつもりが、左肩に突如痛みが走る。
痛みを堪えて慌てて後ろに下がると、相手が両手にナイフを持っている事に気がつく。
「きゃぁあああああ」
声に驚き振り返ると、コロムとラスの首筋に棒やナイフが突きつけられていた。
勝ち誇ったように相手がこう言った。
「どうする」
持っていたショートソードを地面に叩き付けると、あいた右手で肩の傷を押さえながら地面に座り込む。
くやしさが傷の痛みを忘れさせていた。
*時間稼ぎ
「とりあえず、その・・・・なんとかって人をマーファ神殿まで呼びに行けばいいんだろ。」
「ファスリファーって名前だよな。よし、俺が行ってくるから頼んだぞ。」
1人の男が人の輪から抜け出し走っていく。
あのあと、カレンとコロムの2人を連れてドコルゴは去って行った。
『この2人が悪魔なのだ。この男に関しては、傷がふさがっているであろう。ファラリス神官に間違いない。ファリスの名の下に責任を持って神殿へ連れて行こう。』
ファラリスの名を出された時、カレンがかなり悔しそうな顔をしていた。まぁ、猿轡されちゃ反論は出来ないし。
自分達もだけど。
「フゴフゴ・・・」
ディックがラスに何か伝えようとしている様子だが、ラスの方は首をひねっている。
「こいつらは神官様に言われたように、衛視に引き渡せばいいんだろ。あまり大勢だと俺達が反対に疑われるから、5人くらいで行こう。」
リーダー格がいるらしい。ここからだと見えないけれど。
ああ、朝日がまぶしい。いつもどおり、ベッドの上でこの光をあびたかったなぁ。
かなりの数の人がここで別れる。
逃げ出すにはチャンスなんだけれど、誰がどう行動を起こすのかわからないので行動のとりようが無い。
カイがかなり辛そうな表情をしている。ああ、どうやら傷口にロープが食い込んでいるようだ。
まずいなぁ・・・あれじゃ走ったりはできないや。
衛視の詰め所に着くと、3人が見張りとして外に残り、2人が説明のため中に入って行った。
もちろん、自分達は外。ロープでぐるぐる巻きにされた上、猿轡までされている自分達。
ああ、通る人達の視線が痛い。
そのうちにマーファの聖印を首から下げた人が、スラムの人と走ってくる。
慌てたように中に入ると、しばらく押し問答が続く。
中から衛視らしき人が出てくると、見張りをしているスラムの人になにかを問いただす。そしてあらぬ方向へと走っていく。
横にいるディックが何ともいえない表情をしている。どうやら衛視の行く先に何があるのか心当たりがあるようだ。
一時間程すると、走って行った衛視が戻ってくる。
中に入るなり、怒鳴り声のような悲鳴が聞こえてきた。どうやら事態が自分達にとって良い方向に行きつつあるらしい。
それからしばらくしてから、衛視にと引き渡される。
スラムの人達が近くにいない事を確認してもらってから、こちらの事情を話し始める。
信じては・・・・くれないだろうけれど、コロム達を助けなければ。
あのニセファリス神官とか名乗っていたのの、隠れ家はすでに知っているから、そこに衛視が行ってくれるように説得するのみ・・・・
ラス〜、カイの心配もいいけれど、こちらの説得にも参戦してくれ〜。
*祈る時
水の音が辺りに響く。
隠れ家に戻ってきてまず、青ざめているコロムを台の上に寝かす。
それからドコルゴは自分の頬の傷を治した後、押さえていた笑いを顔と声に出す。
それは、ただでさえ脅えているコロムの意識を失わせるには、十分すぎるほどの恐怖感を与える行動であった。
近くの柱に巻き付けられたカレンが黙ってドロルゴを見つめる。その目には明らかに怒りがあった。
気絶したコロムが横たわっている台を照らし出すように、次々と明りがともる。
それは壁に描かれているファラリスの紋章を照らし出す事も意味していた。
ドロルゴは笑いながらどこからかナイフを取り出し、鞘を置く。
そして台の上に寝かされているコロムの腹に突き立てた。
血が辺りに飛び散る。
ドロルゴはその笑い顔を崩さぬまま、もう一度腹にナイフを突き立てる。
その時、カレンは自分が叫んでいることすら気が付かなかった。ただ、何かの力が働いているかのように血を流すコロムから目が離せなかった。
返り血を浴びたドロルゴの顔がゆっくりと、縛られているカレンにむく。
左腕から跳んできたそれは、カレンの胸に当たってから近くの足元へと落ちた。
赤く染まった、わずかながらも動いているそれに視線を移した瞬間、突然目から涙がこぼれ始めた。
人ではないそれは、しばらくヒクヒクと動いていたが、大きく痙攣したかと思うと動かなくなった。
「あ・・・・ああ・・・・・・」
『神は・・・神はなぜ・・・』
頭の中でただ問い続けるカレン。
その表情は自分の非力さと目の前の現実を強く感じて、無表情になっていく。
一方、ドロルゴはコロムの傷をある程度「奇跡」によって癒したあと、壁にあるファラリスの紋章に向い祈りを捧げる。
縦に1本、横に3本の傷があるその顔は、満面の笑みを称えていた。
カレンが自分を取り戻したのは、その場に衛視が駆けつけて来てからだった。
そのままコロムは病院に連れて行かれた。
かなり弱っていたが死ぬ事はないという医師の言葉を聞いたのは、あれから丸1日以上たってからだった。
しばらく詰問されたりしたが、結局はそのニセファリス神官=ファラリス神官という事が立証され、その方へと調査が移された。
結局は1日拘束されていたのだが、それだけで済んだのはある意味幸いな事だった。
その後、ラス達の聞き込みでスラムでは「神官様」と呼ばれていたため、男の名はわからなかったいという事が判明。
心にはわかってて防げなかったという、くやしさだけが残る形となった。
しばらくはコロムにちょっかい出す事はないだろう。
カレンも元々の原因は自分にあるのだと言い張り、本格的にコロムと2人で生活する事にしたらしい。
ちなみにコロムは、ドロルゴにカレンと一緒に連れ去られた辺りから記憶が無い。
好都合と思ったのはカレン1人だけではなかった。
お腹のへこんだコロムを見て、関わった誰もがどう言葉をかけるべきかなやんだからでもある。
「・・・・・・・完敗だな。」
ラスが悔しそうに一言呟いた。
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