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No. 00190
DATE: 1999/11/30 23:30:24
NAME: セリア・ブルガリス
SUBJECT: 失踪事件(1)
この一連のエピソードには、セリア・ブルガリスという名前のキャラが登場します。「セリア」という名前のキャラはきままに亭内に二人、存在しますが、このエピソードに出てくるセリアはすべて「セリア・ブルガリス」であることを、あらかじめ表記しておきます。
また、表記の簡素化を図るため、セリア・ブルガリスは以後すべて「セリア」とします。
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新王国歴511年、10の月の終わり頃。いつものように届いた手紙には、次のように書かれていた。
『(前文略)…暇なときでよいから、顔を見せに来なさい…(以下略)』
差出人の名はエリザベス・ティエール。同期で入学したセリアの不器用さ、とろさに、さんざん愚痴を言いながらも、常にかばっていてくれた。
3年前、実験事故で胸に重い傷を負い、その傷が原因で病を患い、学院を辞した。その後、パダの街に薬師として住んでいた友人と結婚したと聞いているが、一度も会いに行く機会がないままいたずらに時が流れていた。
そして…。
「エリザベスさんに会うの、お久しぶりですぅ。楽しみですねぇ〜」
パダの街門前で記帳をすませて、セリアはにこにこしながら荷物を抱えなおした。
ひょっとしたらエリザベスに告げておいた日時に間に合わないかと思っていたが、予定よりも二日早くオランを出たおかげできちんと予定通りにたどり着くことができた。
…なぜ常人よりも日にちがかかるのかはこの際書かない。
「あれぇ〜? こっちだと、思ったんですけれどねぇ〜…ここ、どこでしょう?」
一刻後。
セリアは、もののみとごとに迷っていた。
「う〜ん、どうしましょう。困りましたぁ…まだ、壁の中にも、ついてないですのにぃ…」
ぶつぶつつぶやきながら、セリアは思いっきり、道に迷っていた。
予定時刻より早めに行って、おみやげでも買っておこう、と思ったのが裏目に出たらしい。
入り組んだ、雑多な路地。このままでは、予定時間に間に合わないかもしれない。セリアは半ば、焦りながら、それでものんびりと路地を歩いた。
(まあ、まだ予定の時間までは、三刻ありますし。落ち着いて、しっかり探せば、自ずと道は開けてきますよね)
無理矢理、そう考えたが、ふと見れば周囲は薄暗く、人通りどころか人影すら全くない。「壁の外」には大量にある怪しげな露天すらない。
(困りましたね…どうやら、とても危険なところに、迷いこんだようです…。でも、迷子になったときは動かないほうがいいって言いますけど、こういうところでじっとしてるのは、よけいに危ないですよね)
考えながら、ひたすら歩いた。人影がないのが無性に寂しかったが、我慢して、歩いた。
どんっ。
「きゃうっ」
半刻ほども歩き回っただろうか、突然ぶつかってきた人影に、セリアは思わず尻餅をついた。
「痛いですぅ〜…って、ごめんなさぁい、ぼうっとし…」
腰をさすりながら、ぶつかってきた相手に謝り…セリアは思わず、言葉を失った。
ぶつかってきたのは鎧姿の男だ。それ以上はわからなかった。全身血塗れで、膝をついて立ち上がろうとしてはいるが、どうしても立ち上がれずに、うめいていた。
「だ…大丈夫ですかぁ!?」
男に手を貸しながらセリアはきょろきょろと辺りを見回した。
「ど、どなたかに、助けを…」
つぶやいた言葉に、男が激しく首を横に振る。
「俺のことは…どうでもいい…」
え、とセリアが訪ね返す間もなく、男はぶるぶる震える手で、懐から小さな袋をつかみ出すと、セリアに押しつけるように手渡した。
「頼む…これを持って、逃げてくれ…」
「こ、これは…?」
「いいか…、俺はもう持たない。これを持って、通りを…まっすぐに駆け抜けろ。仲間が…」
「そんな、あなたを見捨ててなんて、行けません!」
「いいから、…はやく!」
先を続けることが出来ず、男は膝からがくん、と倒れ込んだ。言葉の代わりに、血が口から流れる。
(ど、どうしたら…これは、きっとやっかいなことに巻き込まれてしまったんですね…って、今はそんなことじゃないです。この人を助けなきゃ)
思考が混乱する。助け起こした男の体が、鉛のように重い。
「お願いです…しっかりしてください!」
必死に揺さぶる。だがすでに男は、事切れていた。
「あそこだ!」
呆然とする暇もなかった。
すでに暗闇に包まれ、<光の矢>が届く範囲すら定かではない。その暗闇の向こうから、怒号と、人か駆けてくる音が聞こえてきた。
(この人を捜しに来た人たち…!)
瞬時に判断した。はじかれるように身を翻し、脱兎のようにその場から逃げ去る。人の声がいったん遠ざかるが、しばらくすると再び近づいてきた。
(どうしましょう…)
おろおろと辺りを見回す。
と。
「こっちだ!」
「はぇ?」
思わず間抜けな声を上げて辺りを見回すと、通路の曲がり角で、人影が手を振っている。追いかけて来ている人の仲間か、とも思ったが、どうも気色が違う。
「早くしろ!」
ほえ、とつぶやいたかどうかのタイミングで、人影はぐいっとセリアの手をつかんで引っ張った。
(続く)
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