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No. 00200
DATE: 1999/12/10 22:02:06
NAME: アレク
SUBJECT: 月夜の底(イベント「濡れ衣」)
ところどころに明かりがともされだけの薄暗い石の廊下を歩いて、一つの石牢に入れられていたバリオネス兄さんに会った。
兄さんとは、冒険者になるなんて言って別れてから4年になる。
私と同じ傭兵をしていた、バリオネス兄さんとは双子のリオ兄さんから、バリオネス兄さんの行方が分からなくなったって聞いて、半分は諦めていた。
けれどひょんなことから兄さんの生息を知って、やっと会いに来ることが出来た。バリオネス・クルード、それが兄さんの名前。でも今は何故かシャウエルと名乗っているけれど…。
冷たく太い鉄格子越しに懐かしい兄さんの顔があった。小さい頃私のせいでついた頬の傷、髪や髭は長い間手を入れていないようだったけど、それよりも印象的な黒い瞳、そしてすっとこバカなところ…なにも変わっていなかった。いや、最後のはちょっとひどくなってたかも…?
ま、それはさて置き…。リヴァースが言っていたとおり、兄さんは記憶を失っていて、私のことを覚えていなかった。一応妹だと名乗ったけれど、ぽっかりと空いた記憶の中で兄さんが私のことをどう思ったのかはわからない。まあ、そう簡単に、思い出してくれるとは思ってなかったけれど…人の頭の中は複雑だから、専門の人にでも診せなければ治らないのかもしれないし。
実は私は兄さんの今の状況をよくわかっていない。なんで投獄されたのかは知っている。フォーマ卿が何者かに暗殺され、兄さんがその罪を着せられているということだ。
それと、酒場で見かけたユングィーナって女の人が言っていた「孤児院焼失」については何も知らない…どうやらその事件がきっかけらしいけれど。
短い面会時間の間に兄さんが8人の名前を教えてくれた。とりあえずその関係者に事情を聞いてみるしかないのかな?
その人達の名前を記憶から掘り起こしてみる。
トゥナティウ…この人の名前は聞いたことがある気がするんだけどわからない。
レイシャルム…レイにもまだ全部話を聞いていないや。
エルフ…名刺配ってる人間って兄さんは言ってたけど…何者?
犬頭巾…犬をかぶってる乞食って、そんな説明じゃわかんないよ兄さん。
カール…多分チャザの司祭のカールのこと…かな?
ユーシス、レスダル、リード…会ったこと無い。
そこまで聞いたときに、ケチな牢番のせいでそれ以上は話せなかった。マスターがくれた紹介状だけじゃ押しが弱かったから、前回遺跡に潜ったときの仕事で手に入れたお金を使ったのに…渡し方が悪かったかな?
粘っても無駄みたいだったから、すぐに諦めた。最後に牢を離れるとき、髪を撫でてくれた兄さん…懐かしくて心地よかったけれど…だけど、同時にこれが最後かもしれない。なんて考えが過ぎった。急いで不吉な考えを頭から振り払う。
ケチ牢番に急かされ外に出て、地下牢の湿った空気を体から吐き出すように大きく息をする。視線を上げ天を仰ぐと、冷たい色の月が浮かんでいた。
ふと、兄さんが言ったことを思い出す「真相を証明できるのは亡きフォーマ卿と犯人だけだ」…考えたって仕方がない。今は出来ることをしよう、結果はそれに付いてくるものなんだから。
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