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No. 00002
DATE: 1999/12/10 02:09:06
NAME: ヴェイラ&ミルディン
SUBJECT: 家出息子を探して
「………と、いうわけで息子を探してもらいたい」
「わかりました。では、報酬のほうはこれくらいで……」
応接室の方から聞こえてくる依頼人とミルディンの声。
ここに勤めて5年になるけど、依頼人への応じ方は、依頼の内容以外はまったく変わらない。そう、依頼人のこんな声も…
「少しばかり、高いんではないかね?」
「いえいえ、こんなものですよ?」
ここからでは見えないけど、きっといつもの営業スマイルを浮かべているんだろう。
そのうち、依頼人のおじさんがちょっと納得してない顔で出てくる。ま、いつものことだから気にしないけど。
依頼人のおじさんが出て行くと、すぐにミルディンが顔を出す。
「おい、ヴェイラ、仕事だぞ」
ミルディンの言葉に、ボク ヴェイラは元気よくうなずいた。
「金持ちのお坊ちゃんが冒険者になるんだ!…と言って家出したらしい。そいつを連れ戻すのが今回の依頼だ」
そう言いながら、がさがさとオランの地図を取り出し、すいっと町の中央あたりに線を引く。
「線からこっち側は俺が調べる。おまえは線より向こう側の方を調べてくれ。冒険者の宿から、ごろつきが集まりそうな酒場まで全部な。…っとそうそう、目標の似顔絵だほら、おまえの分」
「りょーかい!」
ボクは、似顔絵を受け取り地図をざっと見て、範囲を覚えるとすぐに事務所から出た。
とりあえず、行き先はきままに亭。やっぱり、いつも行ってる所の方が聞き込みはしやすいしね♪
「さて…、ヴェイラも出かけたし…俺も調べてくるか」
一人しかいなくなった事務所に鍵をかけ、裏道を通ってとある冒険者の店に入る。
カウンターに座ると、ミルディンは営業スマイルを浮かべながら店のマスターに聞く。
「ここでこんな人見かけませんでしたか?」
「いや、見たことないな。ほかの店を当たったらどうだい?」
「そうですか〜。それじゃぁ、他の店に行きますね」
結局。ミルディンはまだもうひとつの仕事の報告書を書くことにして事務所に帰った。
………無駄に時間を過ごしたな……
「ありがとね〜♪」
やっぱり、ここって情報が集まりやすいなぁ。一時間くらいで大体いるところまで特定出来ちゃってるよ。これだけ早く情報仕入れられたんだから、ミルディンもボーナスくらいくれるかな?
「ん?ヴェイラか。早かったな。なにかわかったか?」
「うん♪きままに亭に行ったらリヴァースさんがいろいろ教えてくれたよ」
「それじゃ、報告頼む」
ボクは、簡単にきままに亭での情報をミルディンに伝える。
市場に、目標の人物の似顔絵が貼られていたこと。翌日にはそれがはがされていたこと。
それと、リヴァースさんの言ってた、もう一度似顔絵をはっておけば、またはがしにくるのではないか?ということ。
「……ふむ。かくまってる人物がいるのか…それとも、ごろつきかなんかにだまされてる…ってところか」
ミルディンは部屋をうろうろしながらぶつぶつ言ってる。これも、いつものこと。考えてると、いつもこんな行動をする。まぁ、考えてたりするときの横顔がかっこいいからボクは気にしてないけど。
そして、ぴたっと止まって顔を上げる。考えが決まった時の合図だ。
「よし、ヴェイラ。明日から、市場に似顔絵を貼って見張ってくれ。はがしに来たやつがいたら、そいつを尾行してそいつの家までついていけ。場所を覚えたら、一回帰って来い。わかったな?」
ボクは喜んでうなずく。もともとミルディンの考えに異論があるはずがない。
「ところで、ミルはそのあいだ何してるの?」
「ああ、俺はもう一つの仕事の調査報告書が出来あがってないからそっちの方を書いてる。先に休んでていいぞ」
「ん♪それじゃぁ、先に休ませてもらうね。お休み〜♪」
……2日後。
ミルディンは、ヴェイラといっしょにごろつきが6、7人いるあばら家に来ていた。ヴェイラの尾行の結果、この中に目標の人物がいることがわかったのだ。
おそらくは、だまされて捕らえられた、というところだろう。
「よし…それじゃ、いいな。行くぞ」
「おっけ…」
小声でやりとりをすると、予定していたとおりの行動をはじめる。
予定していた行動…それは、ミルディンが衛視に化けて玄関から入ろうとする。逃げようと裏口に回ったところをヴェイラが目標の子供を奪い取る、という乱暴なものだった。…が、あまり頭を使わないごろつきたちにとってこんな作戦でも十分に通用したらしい。
なんの盛り上がりも予定外のこともなく、すんなり作戦は成功。依頼主に子供を届けた。予想以上に早く見つかったことで、報酬も弾んでもらった。これは、完全な仕事の成功と言えるであろう。……表面的には。
表面的じゃない部分。それは、ごろつき達が逃げ出してしまったことだった。
下水道。逃げ出したごろつき達は、衛視の目を逃れるため、ここにいついていた。
「おい…はやくこの町から逃げねぇと、俺達みんなつかまっちまうぜ?」
「そんなこたぁわかってるよ……だがよ、逃げる前に仕返ししてやりてぇと思わねぇか?」
「おいおい…」
「無理にとは言わねぇがよ。怖いやつはさっさと逃げちまいな」
ボスとおぼしきひげ面の男がまわりのごろつき仲間に声をかけると目を閉じる。今のうちに怖いやつは逃げちまえ、ということなのだろう。
ひげ面がもう一度目をあけると、その人数は自分を含めて4人になっていた。…だが、相手は二人。片方を事前になんとかすれば簡単に復讐が出来るだろう。
「よし…そんじゃ…作戦でも練ろうか」
ミルディン達は、まだこんな危険が迫っていることなど知る由もなかった……
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