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No. 00004
DATE: 1999/12/15 19:42:36
NAME: レオン&エーベン
SUBJECT: 下水道調査(一日目)
11の月18日
リヴァースが募集依頼した賢者の学院からのオラン地下下水道の調査(あくまでも表向きの理由だが)を、
この日レオン・クライフォートとエーベンは遂行していた。彼らの担当地区は東地区である。
「ふ〜、さすがに奥になればなる程、水も汚くなってきてますね。」
汚水を瓶に流し込み蓋をしめ、それをエーベンに渡す。
「そうですね〜、水の流れが無い事もありますし上では処理出来ないものも不法投棄して
いるのもあると思いますよ。自然な流れでこういう色にはなりませんからね〜。」
と言ってサンプルで採取した小瓶をレオンに向かって見せる。さまざまな色をした水がエーベンの言葉が
真実であろう事を物語っている、また、ある瓶の中には奇妙な微生物も混ざっているのが肉眼でも確認できる。
「誰のせいとも言えませんしね、まぁ、あえて言うならオランの下水道局のせいだな、うん。」
一度に見せられるとさすがに気分も少々悪くなり、自分でもどうでもいいような返事を返しつつレオンは
地図の作成にその意識を向けた。エーベンも同様にこちらは植物や苔類等のサンプリングをしている。
お互いにしばらく作業をした後、どちらからともなく今日はこの辺で終了しようという話になり、撤
収の準備にかかっていたその時、水音しか無いはずの空間に静寂を破る叫び声が響き渡った。
「人の声だ!」
反射的に剣を抜き放ち荷物をその場に置き去りにし、レオンは声のした方向へとすぐさま走り出す。
「声の大きさからしても近いですよ〜、敵が分からない以上十分に気を付けて下さい。」
エーベンも遅れずにレオンの後に付きフォローをいれる態勢を整えている。
二つ目の角を曲がった所で二人は声の主であろう存在を確認する事が出来た。
薄汚れた格好をした二人の怯える子供、そして天井に粘りついた下半身が糊状で左右に大きな腕を
持った怪物である。
「子供!?何でこんな所に子供がいるんだ……?」
「悠長に考えている暇はありませんよ、怪物は待ってくれません、とりあえず助けないと。」
「あぁ分かってる……ガキ共〜〜!こっちに逃げて来い〜!!」
レオンの怒声にただ震えていた子供達も我にかえりこちらへと駆け寄ってこようとした、が怪物の
下半身が一気に伸び鋏状の右腕が子供を捕らえる。
「あぅっ……」
「姉ちゃん!!」
「俺に任せろ、お前は後のおじさんの所まで走れ!!ちぃ!間に合うか!!」
駆け寄って来た子供に一声かけ、レオンは全速力で怪物へと向かって行く。
「レオンさん、少し屈んで下さい〜。」
エーベンの声に怪物に駆け寄りながらも体を屈めるレオン、そしてレオンの真上を衝撃波が通り過
ぎて行く。
「☆#※★☆〜♪」
衝撃波が炸裂し奇妙な叫び声をあげる怪物、そしてレオンも子供を捕らえている腕に向かって一気
にその剣を振り下ろした。怪物は衝撃波と斬撃の破壊力に子供を捕らえていた腕を放し叫び声をあ
げながら天井へと再び伸縮する。
「おい、大丈夫か?動けるならお前も弟がいる所まで下がれ。」
咳き込んでいる子供を背後に隠し声をかける、ぱちゃぱちゃと遠ざかって行く水音を耳にしレオン
はその意識を目の前で奇怪な声をあげ襲いかかってくる怪物へと集中する。
「二人は無事ですよ〜、安心して戦ってくださいね〜。」
エーベンも下手に手出しをして邪魔にならぬよう、自分は子供達を守る事に決めたようだ。レオン
が戦いに集中出来るよう配慮の声をかける。
「やれやれ、ようやくお出ましだな。いちいち伸び縮みするのも面倒だろうから俺が伸びっぱなし
にしてやるか。」
怪物が再び叫び声をあげ、その下半身を伸ばし襲いかかってくる。それと同時にレオンも両手で握
り締めた剣の感触を確かめ気合の雄叫びをあげつつ迎え撃つのであった。
一戦を終えた後、まだ恐怖に震える子供達を連れて荷物を置いていた場所まで戻り一息を入れる。
残していた温かいお茶を子供達に飲ませるとしばらくしてようやく二人も落ち着いてきたようである。
「怖かっただろうな、もう大丈夫だ。でも、お前達は何でこんな所にいるんだい?」
レオンの質問にちょっとだけ顔をあげた子供達だが、またすぐに顔を俯き黙り込んでしまう。
「そういえばここオランには地下都市というものが存在するそうですよ〜。」
「地下都市?」
「ええそうです〜、オランの地下には下水道の他にも古代王国の遺跡やさまざまな過去の
遺物が存在していると言われています。そういった数々の遺跡跡に……日の当たらな
い所に逃げ込まざるを得なくなった事情を持った人達が集まって暮らしているとの事で
す。私もこの目で見た事はありませんが。」
「この街の地下の噂は色々と聞いた事はあったが、まさか本当に存在しているとはな、て
事はこの子達はそこから遊びに出ていて運悪く怪物に遭遇したって事か。」
そう考えると全てつじつまが合うし、それに子供達をよくよく眺めて見ると服装もかなり薄汚れた物
であるし、長い間風呂等にも入っていないのであろう、なかなかの香りを二人ともかもし出している。
「行くよ!!」
レオンとエーベンの話をしている隙を突き、姉であろう女の子が弟の手を掴み走り出す。
「あ、こら、待てって、危ないから送っていってやるよ。別に何もしないから逃げるな!」
レオンとエーベンもすぐに子供達の後を追い掛けて行く、はたから見れば一見鬼ごっこのようにも見え
るかもしれない。子供達の後を追い掛けて行くと下水道を抜けまわりの景色は昔の街の跡へと変わっていく。
「ほら、いい加減に鬼ごっこは終わりにしよう。お兄ちゃん達がお前達が嫌がる事をしないって事はさっき
から言ってるだろう?信じてくれよ。」
子供達を捕まえあやすように話しかけるレオン、二人も顔を見合わせようやく諦めたのかおとなしくなりレ
オンとエーベンを案内するかのようにニ、三歩先を歩いて行く。
「どうやら住人達の住んでいる街へといつのまにか来てしまったようですね〜。先程からちらほらと人影が
見えますよ〜。」
子供達の後に付いてしばらく行くと、それまでとは一風変わった非常に大きな空間へと二人は出た。そこは
まるで礼拝堂を思わせる程の広さがあり、そしてそこでは地底の住人達がさまざまな生活観を持って暮らし
ている。いきなり現れた二人の侵入者に住人達はことさら警戒心の強い視線で二人を歓迎する。
「さて……と、ど〜も不穏な空気が流れてるな〜。」
「彼らから見れば私達も恐怖を与える対象になるんでしょう、仕方の無い事ですね〜。」
自分の家に帰ってきて安心したのだろう、二人の子供も微笑を浮かべながらレオンとエーベンを見つめている。
レオンも黙っていても仕方が無いという感じで子供達の頭を撫でてやりながら住人達に声を掛ける。
「皆、聞いてくれ〜。俺達はお前達に危害を加えに来たんじゃ無い、下水道で怪物に襲われていたこの子達を
助けて送り届けに来たんだ。この子達の親はここにいるか〜〜?」
レオンの声に最初は反応を示さずただただ冷たい視線を投げかけていた住民達も、しばしの後ぞろぞろと集ま
ってくる、が、まだ警戒心を弱めていない事はその表情からも十分に読み取れた。
「どうやら親というのは存在しないみたいですね〜、何かしらの理由でこの子供達はここで暮らさなければな
らなくなったのでしょう、その理由が捨て子だったのを拾われ育てられたのか……それとも親を無くしたこ
の子達が地上の世界で生き抜いていく為に何か罪を犯してしまい、ここへ逃げ込んできたのか……あるいは
もっと複雑な理由があるのか、それは分かりませんが、敢えて言うならばここの住民全員が親代わりとでも
言いましょうか。さて、どうしますか?」
「どうするも何も、……まいったな。」
そのとき、暗がりの中、蠢くがごとき挙動がレオン達の目に入った。
人垣の中から、ゆら、と立ち上がる者があった。
身体を右に傾かせ、脚の一本で身体を支えるようにして立つ、その者は老人だった。
「誰だい、あんた」
思わずレオンがそう声に出してしまったのは、他と同じく薄汚れた風体のその老人は、顔に、犬の頭皮を覆面
として被っており、とくべつ奇矯さ、異様さを見せていたからに他ならない。相手は、犬の口蓋の下で、歯を
見せて嗤った。
「アタシは、犬頭巾といいやす……。この秋まで、旦那方と同じ地上の空気を吸っていたものでございますよ」
「ふぅ、そうか、それならあんたとは落ち着いて話しが出来そうだなぁ。じゃあ、ここの人たちに俺達は怪し
い者じゃ無いって言ってくれれば、有り難いんだけど」
「へへ、そいつぁ、さきほど集落の子供を助けてくださった事で、今はもう皆の頭の中にある事ですよ……
ただ、こいつら、それでも地上の人間に対する恐怖がぬぐい切れねぇんで……」
を開くと、そこに粘ついた糸が引かれる。老人の口腔は乾ききって、その声は低く掠れていた。
「私達がここに迷い込んだ経緯については、いまお話します」
エーベンが進み出て、学院の下水調査の目的を話し始める。地下の民の視線が集まるのを感じながらも、彼は
言葉を乱さず滔々と語った。そして更に、真に目指すところである、暗黒神官封滅についても事情を明かした。
微かな言葉のさざめきが辺りを包む。
「今話した暗黒神官の根城を探しているんだ。もし、何か知っている事があれば教えて欲しいんだが……」
レオンが遠慮がちに口を開いた。
「へへへ……実はですねぇ、それについちゃぁ、アタシたち地下の民の方でもすこしは話せる事があるんです」
「なんだって!」
目の前の犬の顔をした者の言葉に、レオンとエーベンは一瞬、顔を見合わせた。息せききって、それを教えて
くれと頼む。
「まぁ、まぁ……へへへ」
犬皮の老人はもぞもぞと身体を揺らす。
「先ほど、子供を助けて下さったのには、アタシら、重々感謝しているんで。……でも」
これみよがしに、言葉を切った。
「残念ですが旦那方、まぁ、その情報を譲らせて頂くには、今のまんまじゃなかなか上手く事が運びそうもあ
りませんねぇ……。アタシはともかく、皆の心は、まだ雪解けには遠いんでさぁ……。よそものに厳しい人
達でね……。このうえは、もうひとつ、こいつらの悩みの種を取り除いて貰わなくちゃ……」
その言葉に、レオンが額に手をあて、軽いため息をついた。
「条件を出すのか……ったく人の足元を見やがって、あ〜ぁ判ったよ。で、何をしろって言うんだい?」
犬の皮を被った乞食……地上のスラムで暮らしていた頃には、情報屋の看板を掲げ、犬頭巾と呼ばれていた。
彼はレオンのこぼした言葉に、卑屈な笑みを浮かべて報いた。
「へへ、そうこなくっちゃ旦那。それじゃあ、こんな所じゃなんですからあちらへいきやしょう、少し
はくつろげる場所がありやすんで。」
おどろくほどの平身低頭の態度を見せながら、うまうまと自分たちを釣り込んだこの男の交渉術に世離れした
ものを感じながら、おそらく地上ではその世界で飯を食っていたんだろうと当たりをつけた。犬頭巾に案内さ
れた、彼が言うにはくつろげる場所、でレオンとエーベンは暗黒神官絡みの情報を得るための条件を聞いた。
その条件とは、最近集落の中に怪物が潜んでいるとの事、ある日偶然にだが空中に浮いた怪物が人間を触手で
絞め殺し頭を挿げ替える所を目撃し命からがら逃げてきた男がいて、最初の内は何か変な物を拾い食いして幻
を見たのだろうと皆、意に介さなかったのだが、次々とその怪物によっての犠牲者だという事が分かる首無し
の死体が発見されその男の見た怪物は本物だという事になった。そしてどうやら殺した相手の体を乗っ取って
次の犠牲者を求めているらしいので誰が犯人なのかさっぱり分からない、その怪物を退治して欲しいとの事だ
った。
「それはなかなか厄介な生物ですね〜。」
「人間の頭を丸かじりか・・なかなかいい趣味してやがるな。だが犬頭巾、その怪物は死体を乗っ取ってるん
だろ?それなら少し日が経てば腐敗臭が……いや、何でも無い……」
「へへへっ、申し訳無い、旦那。アタシ達も同じ様な匂いをさせてるもんで……」
それまで黙って二人の会話を聞いていたエーベンが口を開く。
「その怪物が現れる範囲みたいなものは特定できるのですかね〜。」
「へぇ、それは分かっておりやす。犠牲者が出てるのは全てこの広場と辺りの一帯ですら、間違い無くこの中
には居ると思いやす。なんせ奴さんの食料の宝庫ですからねぇ……」
「それならば話は早い、早速その怪物の退治といきますか。」
「レオンさんちょっと待って下さい、犬頭巾さん、ちなみにこの広場には何人くらいの人が住んでいるのですか〜?」
「へぇ、アタシが暇な時にお遊び程度で数えた時は大体100人以上はおりましたね、まぁアタシも途中で力尽きまし
たから正確な人数は分かりやせんが……」
立ち上がりかけていたレオンも犬頭巾の言葉に再びその腰を落ち着かせる。
「そんなにいたんじゃあ、俺達が調べている最中に逃げる事も可能だな。普通にやったんじゃあ見つけるまでに死体
が山ほど積み重なる事になるか……」
「困りましたね〜、おそらくですがその怪物も乗っ取った体を細部まで操る事は出来ないでしょうから、近くまで行
ければ人間的に奇妙な所が沢山あるでしょうしすぐに分かると思うんですがね〜。」
「旦那方、知恵を振り絞ってくだせぇ。アタシらではもうお手上げでさぁ。」
「ん〜〜、普通に探したら近付けない……相手は死体……で近付く事が出来れば分かる。どうやるか……何か気配み
たいなものを感じる事が出来ればいいんだがな〜」
「気配ですか〜……気配・・ん、待ってください?」
「旦那、どうかしましたか?」
「これですね〜、この方法なら怪しげな感じでも無く、普通に近付く事が出来るはずですよ。」
「エーベンさん聞かせてもらえますか。」
「人間の体には精霊の力が少なからず働いているんですよ〜、例えば風邪を引いて熱がある時等は体内の火の精霊力
が強くなっていたりするんだそうです。私達が今探そうとしているのは既に死んでいる訳ですからそういった精霊
の力はまったく無いはずですね〜。もしも、あるとすれば負の精霊力だけだと思いますよ〜。」
「それは良いアイデアだ、それならば相手にも気付かれずに追い詰める事が出来るかもしれないですね。」
「旦那ぁ、旦那はその精霊力……とか言うのが分かるんで?」
「いえ、私には分からないんですが私達の仲間の中にはそれが分かる人がいます。その人達に助けても
らう事にしましょう。」
「頑張ってくだせぇよ旦那方、早い事あの怪物を退治してくれりゃあ、それだけ早く旦那方の欲しがっ
てる情報が手に入るんですからね、へへへっ……」
「分かってるよ、……そうだ犬頭巾どうせならサービスでもう一つ報酬を貰えないか?」
「へ?へぇ……一体何でしょう。」
「お前のその仮面の下の顔が見てみたい。」
レオンがにやりと笑い犬頭巾のその仮面の鼻先を摘む
「それはいいですね〜、私もそのユーモラスな仮面の下に隠されているものを是非とも見てみたいで
すよ〜。」
「ご、ご冗談を……そんな、人様に胸張ってお見せ出来るような顔じゃありませんや。でも、どうし
てもとおっしゃられるんでしたら、まぁ……考えておきますよ。へへへっ……」
「ははっ、期待してるよ。それじゃ帰りますかエーベンさん。」
「はい、行きましょう〜」
こうして下水道調査の一日目は終わりを告げたのであった。
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