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No. 00009
DATE: 1999/12/25 20:57:55
NAME: ランテ
SUBJECT: 闇の中へ
目の前がかすんじょる
あちしはまだ死にとうない・・・こんな所で死んでたまるか・・・
冬・・・誰もが足早に過ぎて行く季節
冬を乗りきるためか、この季節は財布の紐も固くなる
今日はこの冬一番と冷えた日
誰もが足早に温かい我が家を夢見ている中、一人、とぼとぼと歩く少女がいた
彼女の名はランテシア。だけど彼女は自分の事を紹介する時「ランテ」としか言わない
ランテは道外れに座りこむと、大きな溜め息を一つついた
「・・・ほんま、どないしよ・・・」
そして、大きな溜め息をもう一つ、ついた
彼女は今、お金がまったくなかった。宿代を払ったら、一日分の食費しかなかったのである
仕事をしようにも、すぐに見つかるものでもない
じっさまに教えられた大道芸をしてみても、誰も見向きをしてくれなかったのだ
ランテはその場所で震えながら、しばらく考え事をしていた
辺りが次第に暗くなり、人の足もまばらになった頃、やっとランテは動き出した
「ふぅ、考えとったってきりがあらへん。なんか食えば、ええ考えでも浮ぶかも知れへんしな。ラトルも心配しとるかも」
口に出して言ったものの、内心ではこれからの事を考えていたのだ
ふと気付いた時の、目の前に展開する光景は、異様な物だった
・・・人殺し・・・その凶行が終った後の現場であった
異様なのは、あきらかに人である「それ」が、殺した相手の血をすすっていたことであった
バンパイア・・・一瞬、そう思ったが、パンパイアが人を殺して生き血をすすることはない。
ランテは気付かれないようにその場を立ち去ろうとしたが、遅かった。「それ」はランテに気付くと立ちあがり、間を詰めるように進み出てきた
逃げなければ。だが、ランテはとっさの事に反応出来ずにいた
気付いた時には、「それ」が目の前だった
慌てて愛用のメイジスタッフをふるい、魔法を紡ごうとしたが、うまくいかない
「それ」は、ぬっと、ランテの顔に近づき、
「いけないな・・・余計なものを見た子にはお仕置きだよ。君の血も美味しそうだ。僕にちょうだい」
言いはなつと、持っていたダガーをランテの腹に刺し、横に引き裂いた
どの程度までなら、すぐには死なないか、それをよく心得た手口だった
ランテは突然の事に驚き声も出なかった。
立っている事もできずその場に倒れる
強烈な痛みが全身を走るが、声は出せなかった。声帯が凍りついたようになっていた
「それ」は、もがき苦しんでいるランテを楽しそうに見おろし、
「血を欲しがるからと、僕をバンパイアだと思わないでね。ただ、血が美味しいと思っているだけだから。特に可愛い女の子の血はね」
「それ」は、人を殺す事を悪びていないようだった。むしろ、無邪気に楽しんでいる風である
「ほらほら、早く誰かに助けてもらわないと死んじゃうよ。でも、ここには、君を助ける人なんていないね。あぁ、可哀相に」
ランテは、少しはみだした腸をおさえながら、必死に通りの方に行こうとしたが、「それ」が行くのを許さなかった
「ダメだよ。そっちに行ったら。さてと、僕は食事の続きでもしよっと」
「それ」は、最初の死体の方に行き、また血をすすり出した
ランテは必死であった・・・こんな所で死にたくないから
(ダメじゃ・・・目がかすむ・・・・こんな所で死にとうない・・・あちしは生きるんだ)
ランテは、痛む腹を押さえながら、一歩体を引きずる
(あぁ・・・力が抜けてく・・・)
そこで、動きを止めた
(ラトル・・・すまへん。帰れそうに無いわ・・・・ミュラ・・・パーティくんどきながら・・・冒険できへんかったな・・・リヴァースはん・・・あんたの歌・・・聞けなさそうや・・・クラストはん・・・あんはんのようには・・・なれへんかっちゃわ・・・)
走馬灯のごとく、知り合った人間が出ては消えて行った
そして最後に出て来たのは、
(じっさま・・・あちしはもうダメだ・・・そんな顔をしいへんでくれ・・・あちしはじっさまがいなければダメだったんじゃ・・・向かえ・・・きてくれたんか?)
ランテの意識は、闇の中に沈んだ
二度と目が覚める事はない
ランテが死ぬと同時に、「それ」はランテのほうに戻って来、覗きこんだ
「あ〜あ、死んじゃったんだ。つまんないの。もう少し生きてたらもっと面白い事をしたのにな」
じっと見つめた後
「君の血はやっぱりいらない。引きずったから不味そうになっているもの。あぁ、しかし、街中でこんな事をしたのは初めてだからドキドキしたよ」
そいつはしばらく考えこんでから
「ま、いいや。片付けるのはめんどくさい。きっと僕の事は噂になるだろうな。そうなったら僕の事を殺してくれる人がいるかな?あぁ楽しみだな」
そして、夜の闇の中に消えて行った
残るは街角に転がる二つの死体
後日、この事件は噂となる・・・
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