No. 00018
DATE: 2000/01/05 02:55:33
NAME: フェイル
SUBJECT: ある男の話
ある男の話をしよう。
彼は極一般の家庭に生まれた。
彼は幼いとき,同年代の子供がおもちゃを欲しがる理由が解らなかった。
彼は他の者が泣く理由が解らなかった。
彼は他の者が怒る理由が解らなかった。
だからか,彼はよく絡まれていた。そのため彼は強くなっていった。
そのうち彼は能力の面では評価されたが,どこか拒絶されていった。
彼は思った。このままでは不便だ,と。多分他人と違うため拒絶されている事に気付いたのだろう。
彼は同年代の人間の表情や仕草を真似していった。彼の不便さは次第になくなっていった。
ある日,彼の母親が病に倒れた。
彼は父親が代わりに家事をやると仕事に差し支える,そう思った。それは結果として彼が不便になると思い,彼は家事を始めた。
気が付くと彼は,そこら辺の女より遙かに家事が巧くなった。
そしてある冬,彼の母親は父親と彼と,幼い妹を残して死んだ。
父親は荒れ,酒を毎日浴びるように飲み,彼に当たった。そして彼の生活は苦しくなっていった。
そのため,彼は働くようになった。日頃から雑用をやっていたから,そのような仕事に結構早く馴染めたのだろう。
ようやく生活が安定しかけた時,彼の父親は体を壊し,そのまま亡くなった。
元から住んでいた家は借家で,彼と妹が住むには大きすぎた。幸い少しの金が残されていたので,彼は家の物を売り払い,小さな借家に妹と一緒に住んだ。
しかしそれでも今後のことを思うと,彼はもっと割の良い仕事をする必要があった。
・・・まぁ,その割のいい仕事ってのはおいとくとして,彼と妹の生活は平穏に続いた。
彼は妹との生活で色々な事を思った。自分には感情が無い・・・そう痛感する日々を送った。
しかしある日・・・彼の妹は死んだ。なんでも何かのいざこざに巻き込まれたんだとか・・・。
そうして,彼は全ての家族を失った,しかし涙は流れなかった。哀しいとさえ思わなかったという。
それからしばらくして,彼は割のいい仕事で稼いだ金で旅に出た。
自分の感情を得るために・・・・。
他に人が得てるモノを自分だけ得てないのがやはり気になったのだろうな。
ま,これである男の話はお終い。
そいつの名はなんつったかな・・・・忘れちまった(笑)