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No. 00029
DATE: 2000/01/14 23:46:47
NAME: ミニアス
SUBJECT: 病気(前)
12の月の14の日の夜。
彼女はかなり眠そうだった。
ある者はそれに違和感を感じたが、彼女が部屋を取る様を見てただ疲れているだけだと思った。
そして彼女が席を立った途端、崩れるように倒れ込んだ。
周囲の者達は慌てて彼女にかけよったのだが、ただ寝ているだけとわかると一安心したのだった。
その場にいたカオスという者が、彼女のとった二階の部屋まで運ぶこととなった。
明りのついてない部屋に入ると、カオスは懐から使い魔であるコウモリを出すと部屋の中をひと回りさせる。
それから壁掛けのランタンに火をつけ、彼女をベッドに寝かせる。
運んでいるうちに緩んだらしい、左腕の包帯を巻き直す。その時、左腕の小さな傷から綿のようなモノを見た。
彼の頭の中にある一つの病名が浮かぶ。
『コトン・ウィーバー』
寝ている彼女に毛布をかけると、ランタンの火を消して部屋から出る。
酒場に戻ってくるとカオスはレイシャルムに小声でこう訪ねた。
「彼女の身内がここにいるか?」
レイシャルムは突然の質問に疑問をもちながらも、首を横に振り誰かに聞いた方がいいと言った。
苦い顔をしながらカオスは酒場全体に響くように、大きな声でこう言った。
「おい!、だれかミニアスと親しい身内同然の奴はいるか?」
だがその場にいた全員に首を振られ、ため息一つ。
わかりやすく、カオスは一言で彼女の状態を説明した。
「ミニアスは放っておけば一週間で死ぬ。」
そのあと、カオスは病名と彼女はもう目覚める事はないであろうと言った。
理由簡単で、しかも一番の問題となった。
「治療は治療師に頼んでも、神官に頼んでもかなりの高額、難しいだろう。 」
12の月の16の日。
その日はたまたまいたレイシャルムと色々と話していた。
その時にカレンは、最近姿を見てないミニアスの事を知っているかと、聞いてみた。
「ミニアス・・・・・あ、そうだ思い出した! カレン、お前ミニアスの親戚って知ってるか? 」
「親戚ぃ? 知らないけど・・・・? なんで親戚・・・・?」
不思議そうな顔をして聞き返すカレンをみて、レイシャルムは奥の席へと移動しようと言った。
移動した後、しばらく黙り会っていたが、レイシャルムが先に口を開いた。
「…カレン、他にミニアスの仲間っているか?」
「仲間? ・・・・・ったって・・・・コロムくらいしか知らないが? 」
もったいぶった言い方に、すこしばかりイライラしているようだ。
が、次の言葉はきつかった。
「今ミニアスは眠っている…そしてこのままじゃあの子は死んでしまう。」
カレンの動きが止まった。
それでも冷静な部分が残っていたらしく、話にはついてきていた。
特とした特効薬はまだ見つかってはなく、直りにくい病気であること。
直すためにはかなりの金が必要な事・・・・
「正直言って…覚悟はしておいた方がいい。いろんな意味でな。」
「覚悟か・・・俺よりもコロムだよね、それは・・・・・・・・」
そう言って口元に手を当て、考え込むカレン。
「まったく、どこで拾ってきたんだか・・・・ああ、そうだ、その病気ってうつるのか? 」
「感染力自体がメチャクチャ低い病気だから、拾ってきたわけでもないだろうけど…。どちらかというと純粋な精霊力の乱れなんだろうな。」
レイシャルムのその言葉に安心したように、表情をゆるめる。
レイシャルムに続いて、席を立つカレン。
去り際に残した彼の言葉は、かなり心重いものがあった。
「コロムに何て言おう・・・・・・・・」
12の月の18の日。
この日はにぎやかだった。
ケルツと言う者の仮面を付けた赤マントの男が、突如ケルツ(本人)の目の前に現れなんやかんやと言い合う。
その言い合いはカオスという男が(対抗意識を燃やして)区切りをつけさせ、みごと店から追い出すことに成功したのだった。
奴はその後に現れた。
何一つとしてさえない青年・・・・だが身なりだけはその店にいた誰よりもよかったであろう。
愛想もなくただ店員を捕まえて、問いただしていた。
「この店にミニアスが泊まっていると聞いたのだか本当か?」
軽く会釈ていた者達に気がついても、意図的に無視していた。
店員に、確かにこの店に彼女はいるがどこにいるかは教えなれない言われ、怒りにふるえながらも怒鳴り散らしていた。
「何だと、教えられないだと!彼女の婚約者である私に向かって・・・・」
その言葉に疑問を抱いたアレクは、男に声をかけてみることにした。
だが、アレクをみたなりつぶやいた言葉はかなりきついものがあった。
「薄汚い」
手はでなかったものの、かなりむかついたアレクが言い返すが、たいして相手にされない所か、こうも男は言ったのだ。
「ならば話し掛けないでいただきたいな。本当はこんな所になんて来たくはなかったのだからな。」
「あっそ、なら来なきゃいいじゃないか。」
むかむかとして怒鳴るアレクを納めようとするリンフィア。
「変な人。そんなに来たくないなら使いでも出せばいいのに。それに、来てしまったなら文句言うだけ労力の無駄じゃないかな?」
「うざってー奴だな。んなに嫌なら来るなよ。」
近くで聞いていたユーティやファズも、追い打ちをかけるように言う。
それを鼻で笑ってから彼はこう言った。
「なにを言っている。あの麗しき彼女、ミニアスのためにこんな薄汚いところに来たのではないか。ふっ。所詮冒険者などという者にワタシの崇高な考えなど理解出来なくて当たり前・・・」
さすがにこの言葉は、かなり気にさわったらしくファズがその男につっかかる。
「屍体になりたくねーなら、こいつ(ユーティ)を侮蔑すんじゃねーよ。オレはチンピラどーぜんの冒険者の中でも、凶暴だから何すっかわかんねーぜ。」
ゆっくりと男の方に向かって座り直す。
「ファズ、別に私は侮辱されたつもりないから。それに、相手にしない方がいいよ。ああいう人は…。」
慌ててユーティが、ファズ袖を引っ張りながら心配そうに声をかける。
「大丈夫だよ。お前の前で血生臭い物は見せねーよ。」
口元をゆるめて答えると、男の方をにらみつけて。
「貴様が馬鹿な事をオレの大事な奴の前で口走らない限りな」
と、念を押していた。
「ミニアス?」
アレクは先ほどの男の言葉の一部・・・・・自分の知っている人の名前を聞いてみる。
するとその男の表情が見る見るうちに変わり、アレクを指さしてこう怒鳴った。
「知っているのか。・・・もしかすると、貴様が彼女を病気にしたのだな!!!」
「何言ってるんだよ、このすっとこ馬鹿男。 」
答えながらも、かなりあきれた顔をしているアレクに対し、その男は「馬鹿」と呼ばれたことに動揺し、絶句していた。
いつの間にやらきていたレイシャルムが声をかけるが誰も耳をかさなかった。
「どーも、腕の1本ほど焼き落とされないと解らねーみたいだな。」
さすがに言い過ぎる男に腹立ったファズが、口元に笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
「ひっ・・・・た、だから冒険者など・・・」
ぶつぶつと文句を言っているが、顔色がどんどん青くなっていく男。
「3数える間に失せれば許してやる・・・」
右腕を男に向かって突き出しながらそうファズが静かに言う。
ユーティが止めようと叫ぶ。
レイシャルムが横から男に話しかける。
「3・・・・」
そうファズがつぶやいたとたん、男は慌てて後ずさりながら
「こ、今回だけは見逃してやるぅ」
と叫び残して、店から出ていった。
「くっくっくっく・・・あーっはっはっはっは。バーカ。酒場で魔法なんざぶっぱなすわけねーじゃんか。」
大爆笑しているファズの横で、あっけにとられているアレク。
レイシャルムはため息一つついたあと、周りにその男の素性を聞いてみる。
なにも言わずに、アレクが肩をすくめてみせた。
「聞いても答えてくれそう無かったからな。」
一部始終をみていたガイアも苦笑しながら言った。
12の月の20の日。
カレンはその日、酒場でリヴァースと会い、その際にミニアスの事を切り出してみた。
「ミニアス?...聞いたことがある名だが。だれなんだ?」
「あんまり酒場には来ないみたいだからな…顔覚えてないか…」
ひとつため息をつくと、彼女のかかっている病気について簡単に説明する。
すると、いい医者なら知っているという答えがかえってくる。
「知ってるんなら教えてくれ。……レイの話によると、精霊使いでもいいらしいんだけど……生憎顔見知りの精霊使いどもはみんな出払っててな……」
性格に問題あるが、腕がよくツケまで利くという医者を教えてもらったあと。
「精霊使いね・・・・・」
そうつぶやくリヴァース。
「心当たりがあるのか?なにしろ・・・あんまり苦しそうじゃないのが不気味でな…」
「心当たりがないでもないが、人の生死にかかわるのが嫌いで、面倒くさがりで、ひねくれ者で、協調性がなくて、どうしようもない。ソレでもかまわんというのなら、あたってみないことも無いが。」
すこしばかり気にはなりながらも、かまわないと返事をするカレン。
「どうなっても責任は持たんぞ。」
と言うなり、リヴァースが立ち上がる。
「……あ?」
あっけにとられるカレン。まさかリヴァース本人の事だとは思わなかった。
「...いっとくが、様子を見るだけだ。お手上げならそれまでだ。」
とイライラしたように言うリヴァース。
「どうなっても、責任は問わないよ。」
そう言いながら、カレンは先だって彼女が寝ている部屋へと案内する。
その後、リヴァースはミニアスに眠りの魔法をかけ( ここ参照)逃げ出す。
が、ふっきれたのか戻ってくるとミニアスに『レストアヘルツ』をかける。
魔法がかかり、眠りの魔法からも目が覚めたミニアスは、カレンがつれてきたトレルという医者に一日、一回。一時間以上の時間をかけてみてもらっている。
むろん、借金はかなりの額になりつつある。
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