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No. 00041
DATE: 2000/01/27 01:14:58
NAME: ユング、エルフ、ラス他
SUBJECT: 動き始めるとき(濡れ衣)
1/26(ユングィーナの動き)
衛視総隊長補佐であるユングィーナは、総隊長に呼び出されていた。
「あの噂は何だ?」
彼の言う噂とは、シャウエルが悪大臣を倒した英雄であるとした類の噂である。彼は、ユングィーナに反論の隙を与えず、一気にまくし立てると、噂の元となるものを根絶し、噂を流した者を捉えよという命が彼女に下した。
「私一人でありますか?」
すかさず食い下がる。今の彼女の身には味方どころか、信頼できる部下すらいないのである。
「ふん、生意気に。誰でもかまわん連れて行くがいい」
さすがに、今回の件を一人に任せるには善良な心が咎めたのか、それだけ言い放つと総隊長は別の職務に去っていった。
それから二時間後、彼女の元に二人の衛視がやってきた。
アルフォーマとブローウィン。かつてユングィーナの部下だった人である。
「お前たちに会わせておきたい奴らがいる」
ユングは、部下二人を連れ小さな酒場に連れていく。
そこには三人の男が待っていた。彼らは「ジャングル・ラッツ」と名乗っていた。
簡単な紹介を済ませ、三人は協力者だと伝えた。現に、うわさ話が流れ出してからその発信源となる情報元を探ってもらっていた。
「さすが姐さん」
アルフォーマの感嘆の声にユングはなにも答えない。
彼女は一抹の不安を感じていた。
噂が流れ出したとき、シャウエルが正義の味方のような表現に思わず吹き出しかけたが、それが作為的に流されたものだと気がつき、噂の目的を考えた。
しかし、一年以上も前の事件について噂を流したところでどうなるとも思えなかった。
「噂なんて放っておけばいいでしょうに……、ま、でも姐さんとこうして一緒に仕事ができるんですから感謝しなきゃいけないっすね」
ジャングル・ラッツの三人の存在は心中穏やかでないブローウィンは、ユングの指示を待った。
ブローウィンの言葉になにか引っかかるものを感じながら、ユングは全員に移動する旨を伝えた。
ジャングル・ラッツが仕入れてきた情報を元に、噂の出所となった人物を捜し出すのである。
1/26(エルフィンの動き)
互いに情報を求めていたためか、レスダルとは思いの外早く接触することができた。実に一年振りの再会である。
あいさつもそこそこに、レスダルの方から噂話や昨年の事件について聞き出してきた。
いろいろ言葉を交わすが、二人とも有力な情報に辿りついていないことに気がつき、レスダルはため息をもらした。
「リンたちは元気にやっているはずよ……と言いたいところだけど、行方知れずなの」
気になった彼女は、各神殿を回ってみるが当時引き取られた子供たちの約半数は脱走を企て、この街にいないとという。噂がのぼるに関係なく、引き取られて半年から脱走があったと聞いた。
「アドルという子は?」
「あの子は一週間くらい前だったかね。子分たち引き連れてこぞって消えてしまったよ」
一週間も前だと噂話は関係がなさそうではあるが、断定はできない。
「また、会えるかしら?」
レスダルの問いに、少し間をおいてエルフィンは「会えますよ」と短く答えた。
そういって、二人は別れた。それぞれに情報を求めて。
1/26(アレク、ラス、カレンの動き)
アレクに引きつられてラスとカレンが場末の酒場の一室に通されていた。ラスの配慮でカイは置いてきぼりを食らっている。
彼女らの前には、ブルータとガイス(フリチャでドロルゴとして入っていた人物)が座っていた。
アレクから話を聞かされたものの、突如現れた協力者に怪しい影を見ないラストカレンではない。のっけから警戒心を隠すこともなく面談に応じていた。
ともかく策がない以上、ラスたちにシャウエルを救出する手だてなど考えつくはずもなかった。それ以前に、シャウエルが捉えられるに至った孤児院の事件の全貌についてもほとんど知らない状態である。
ガイスとブルータの話は、彼らが望んでいた情報そのものであった。かくも詳しく知っているのか不思議なくらい、正確と思われる事実を述べあげていった。そして、街で噂されているシャウエルの噂はブルータが流したことを告げられる。
そして二人は悟ります、引き返せないところまで自分たちが来てしまっていることを。隣に座るアレクの横顔を見て、ため息をつきたくなる二人であった。
アレクたちが唯一心のよりどころに出来るのは、無実の人を助け出すという大義名分だけである。いくらファリス司祭がついていようとしても、それがなんの助けになるか判らない。
ガイス司祭は己の使命を貫くために、歪んだ秩序に捕らわれた無実の人シャウエルを助けることに全霊をかけて挑むらしいが、果たしてそれに乗ってしまっていいものか自身が持てない二人であった。アレクは他に選択肢なしと、彼らと完全に手を組んでしまっている。
シャウエルを助け出す算段は理解できる。しかし、それが全て提供されたものであるのが気にくわない二人であった。
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