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No. 00044
DATE: 2000/01/28 04:36:29
NAME: エルフ、レスダル
SUBJECT: 思い出される過去の出来事(濡れ衣)
1/27(レスダル、エルフィンの動き)
エルフィンがラーダ神殿に訪れたとき、休憩室に先に待っていた者がいた。レスダルである。
昨日の今日であるが、互いに同じ件を追っているのである。こういうことも起きうる。
「もう二時間待たされているわ」
「さすがにアポも取らずにやってきては迷惑だったでしょうか?」
作り笑いを浮かべ、空いている席に「失礼」と言ってエルフィンが座る。
二人ともラーダ神殿に来た目的はラザラスという司祭に会うためである。
彼の依頼でパティオ孤児院の調査を引き受けることとなり、ファラリスの関与や国やシーフギルドの関連を知ることになった。しかし、肝心なるフォーマ卿の孤児院解体の動機については掴めきっていなかった。フォーマ卿の人となりや、その財務に当たる手腕は聞き及んでいたが、一番元となる情報が欠落していた。もちろん、後々得た情報による推察は立つが、それだけである。
これに関してはレスダルも同様であり、この事件の鍵になるかも知れないと考えていた。
要約すると、孤児院は国の諜報機関の一つで、シーフギルドと協力して、人材育成を図っていた。孤児院の所有者であるシルク老婆は、元諜報機関のトップの騎士婦人であった。夫の想いを次いで、国王には秘密裏にこの計画は推し進められたが、シーフギルドの幹部にファラリス信者が紛れ込んで、計画が狂うことになる。スパイを育成すべき機関が、そのファラリス信者の私兵を作り出す機関になっていたのである。これは、結果的にレスダルやエルフィンの働きにより壊滅することに至ったが、老婆の話を聞いた限りでは他に事実を知る者は報告をしたラザラス以外いないはずである。いたとしてもごく少数に限られる。
もしそれがどこかでフォーマ卿が感づいたとすると、孤児院解体の動機も判る。そうなってくると、気になるのは孤児院に金を流していた人物の存在である。明るみにできない以上、国王など上層部には知られていない機関であったはず、協力者がいるはずだ。それが調べられれば、今回の一連の掘り起こすような者たちの行動が判るかもしれない。
エルフィンは一人そんなことを考えていた。
レスダルは一人、自分の息子の行方が掴めないことや、この神殿に引き取られた孤児のカインたちのことをエルフィンに話していた。
カインは成績優秀であり、神の声こそ聞けないままであったがその才能を見込まれ、魔術を習わせてもらえると伝えた。しかし、孤児院焼失の噂の尾鰭が彼らを神殿内で孤立させていた。リーダーであるカインが賢いため、表だったいじめこそ行われなかったが、浮いた存在であることに変わりはなかった。そういうことを司祭から聞かされて、レスダルはファラリスの存在を憎らしく思った。例え存在や驚異から免れても、彼らのような立場を作り上げ出すことは容易なのだ。彼らはファラリスの教えには染まっていないはずなのに、周りがそれとして見てくれない。
逃げ出したアドルなどは最たるものであろう。彼はファラリスの教えに染まって同じ孤児であるカインを葬ろうとしたのである。そうした過去を持つ者が受けるそしりはカインたちの比ではないように思える。また、彼には力があるだけ衝突も激しかったとマーファ司祭から聞いた。逃げ出すものも無理はないのである。
それにしても気になるのは息子リンの動向である。奉公先で伺ってみたが、足取りは掴めなかった。折しもアドルの脱走と重なっている辺りが不安を募らせる。
それから30分ほど待たされたあと、ラザラスがやってきた。
早速、エルフィンはフォーマ卿が何に関わっていたのか、孤児院解体を何故望んだのかを遠回しながらも聞き始めた。
レスダルもその辺りは心得ているようで、謎掛け合いのように言葉を選びながら会話を進めていった。
案の定、はぐらかされそうになるのをエルフィンが巷の噂や、シーフギルドの動きを流して注意を逸らさせないでいた。
ここに来る前にエルフィンはシーフギルドから接触があった。
「昨年の孤児院の事件の噂を流しているものは消される。気をつけるがいい」
警告であった。確かに、エルフィンは事件に関わっていた。シーフギルドの一部の連中には幹部であったシェルと、コトを構えたことが知られており、シェルの姿が見えなくなったことからエルフィンが勝ったと噂されている。
もっとも厄介者でもあったシェルが失脚したのは好都合であったギルド側であったが、孤児院の真相を知っている者はエルフィンを除いてほとんど居るはずがなかった。特に噂話を効果的に広められる術を持つ者は。
それでエルフィンに警告が下ったのである。
そのことから、エルフィンは一連の噂はギルドの意図するものでないことを確証し、第三者が事件をかぎつけたことを結論出していた。
その話題をもって情報を聞き出そうとしていた。
「シーフギルドはこの手の噂は好いていないようです。噂はあくまで真実ではないですが、かなり深い事情を知った者が流していることは確かなようです。シーフギルドが絡んでいないとすると、この噂は危なくはありませんか?」
エルフィンの言葉に、ラザラスは薄い笑みを浮かべると静かに話し出した。
「君たちは、事件解決の功労者でもある。このことは知る権利はあるのかもしれないね。……フォーマ卿は知ってのとおり、孤児院の真の姿に気がついた。金の流れによりどの人物が動いているかで全容を把握したのだ。浮いていた土地を買い、その上に無断で建てられていた孤児院を解体という合法的な名目の元でね。その後の顛末は君たちの方が詳しいだろう。聞きたいことは、こういうことじゃないかな。孤児院に金を回していた人物は健在でいる。孤児院が焼失してからは特に動いている様子はない。といってもこの情報はとある筋のものからだけどね」
そう答えてラザラスは先ほどより、確かな笑みを作った。
「この事件について他に訪ねてきた人はいませんか?」
「いや、君たちがはじめてだ。……その様子ではこの件に関与している部外者がいるということですね。用心しておきましょう。くれぐれもこの件は内密にお願いします。人に知れることでより大きな災いを招くこともあります。災いを未然に防ぐためなら私は自ら動きますので……」
すっと細められた目を見て、エルフィンは笑顔を作って「心配に及びません」と答えた。
「私も、高司祭を敵になど回したくございませんので」
ピンと張りつめた空気が室温を下げていく。
ラーダ神殿前
(結局はより念を押されるだけであったか……、それなりに情報は得られたということでよしとするか)
エルフィンは神殿を後にして、とある屋敷に向かった。
軽いあいさつをして去っていくエルフィンを見送りながら自分はどう動くべきかを考える。
アドルやリンのことが気になるが、噂話との関連はないように思える。それよりも女衛視やあの男(ブルータ)の方が気になる。
はっとして、自分が噂話を流している男の情報をエルフィンやラザラスに話していないことに気がつく。
(私も駆け引きというやつを知らずにやっているのかしら……)
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