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No. 00046
DATE: 2000/01/29 03:25:08
NAME: ユング、アレク、ガイア他
SUBJECT: 淀みある河のように(濡れ衣)
「ガイス司祭よ、予定外の誘拐など、計画をみすみす失敗させるようなものだぜ」
「心配するな。年寄りにかわいがられるよりよほどマシであろう。それに、部下たちの指揮にも影響するからな」
(そういうこと言っていられるほど余裕ある計画なのかねぇ。まぁ、いいが)
1/27(ユングィーナたちの動き)
ジャングル・ラッツに連れられてユングたちは場末の酒場に向かっていた。
「ここだな、兄弟!」
「やっと着いたぜ、兄弟?」
「ここが奴らのアジトだぜ、キョウダイ」
「ユングさん、噂を流していた連中はこの中でありやす」
年長のアーノルドから順にバルカン、クルップと言った後で三人声を揃えてユングに言う。
少々、その様子にあっけに取られるユングたちであった。
「ああ、わかった。行くぞ」
そうして乗り込むとマヌケ面をした男がテーブルに座っていた。
「なんだら、あんたら」
「衛視だ、ちょっと調べさせてもらうぞ」
いきなり入ってきた衛視に驚き、声も出ない男をジャングル・ラッツが取り押さえる。
「なんです、騒々しい」
「お前は!」
下の騒動で、出てきた男がいた。
「この間の司祭!」
ユングィーナが叫ぶ。
「ほう、これは衛視さまでしたか、ご苦労様です。うちの若い者がなにか?」
言葉巧みにユングィーナの尋問をかわし、状況の不当性を訴える。あまりに自然体であるガイス司祭の動きを見て、気が緩むユングたち。そこへ大きな物音が二階からする。
「なんの音だ? 調べさせてもらうぞ。アルフォーマ、ブローウィン来い。ジャングル・ラッツはそいつらを見張ってな」
ユングの命令でそれぞれが動き出す。
慎重に、階段を上っていくユングたちを横目にガイス司祭はにやりと笑った。
ユングたちが壁の向こうに消えていくのを確認してから、ガイスは暗黒語を唱えた。
「まったく、世話を焼かすな」
そういうと、部下を連れて堂々と店を後にした。
二階では、一人捉えられた女性が猿ぐつわをされてクローゼットの中に閉じこめられていたのを発見していた。それ以外はもぬけの殻であった。
捕らわれていた女性は、さらわれたことを訴え、身の安全を求めた。それと他に二人さらわれていることも訴え、救出を求める。
そのとき、窓の外でジャングル・ラッツが地面にはいつくばって、なにかをしているのが見えた。
慌てて、下に降りて声をかけると、はっと我に返ったようで三人は手にしていた小石を落とした。
「何をやっているんだ!」
「いや、何と言われてもよ〜、兄弟!」
「知らぬ間に外にでてさ、兄弟?」
「石を拾っていたんだよな〜、キョウダイ」
ユングの問いただしもまともに受け答えできずにいた。本人自身、なにが起きたのか理解できていない様子であった。
ガイス司祭に事情を求めようとしたが、すでに居なくなっていた。
「一体なんなのだ、あの司祭は」
うわさ話とガイスの関係は判らぬものの、ガイスは何かしらあくどいことを計画しているのではないかとユングたちは推察していた。
1/27(アレクの動き)
アレクはブルータに連れられて、一つの小屋に来ていた。
「わしをどうするつもりだ」
目隠しをされた状態で、ヨークシャルが叫ぶ。
「この男がそうなのか?」
アレクはマジマジと捉えられた老人を見下ろした。
「ああ、そうだぜ。こいつがあんたの兄を無実の罪を着させて投獄している張本人だ」
「なっ」
その言葉を聞いて、ヨークシャルが驚きの声を漏らす。
「何故、それを? と思っているのかな?」
ブルータは面白そうに、事情を話し始めた。
ヨークシャルの屋敷の金庫からラザラスのレポートを盗み出したこと。そこに書いてある、国とシーフギルドの関係。それと国王ですら知らない機関の存在と、フォーマ卿殺害の実行部隊はすでに存在していないことなどを並べ上げる。
蒼白になっているヨークシャル卿に容赦なくブルータは言葉を続ける。
「あんたは、甥っ子さんを大層かわいがっていたようだな。それこそ目に入れても痛くないようなくらい……。血の繋がりは大きいわな。あんた、シャウエルに血縁者がいることを考えたことはないのかい?」
ブルータの言葉の鞭はヨークシャル卿を容赦なく叩いた。
「ここにいる、彼女の兄が無実の罪で投獄されているだよ。この老人のつまらないプライドの為にね」
ブルータは知っていた。この老人が自責の念でシャウエルを死刑執行に移れないことを。善良なる心があることを確認しての尋問であった。
その言葉にアレクが動いた。
「この男が言ったことは本当か? 兄さんは本当に無実なのか? あんたのプライドで指名手配を解かなかったのか?」
矢継ぎ早に問い立てられ、ヨークシャル卿は口ごもろうとした。そのとき、彼の身に耐え難い苦痛が走った。
ヨークシャルは激痛から逃れるために、アレクの問いに答えなければならなかった。その言葉は全てを肯定していた。
そして、彼女はシャウエルが無罪であることを公表し、釈放を願った。
「それはできない。そんなことをしてはあの事件が公になってしまう」
脂汗を流しながら、必死に懇願するヨークシャルであった。
「ならば、公にしなくてもいいです。シャウエルを適当な理由をつけて、城から連れ出せばいいのです。お得意の権限で、個人的になぶり殺したとでもなんとでも言いつくろえるでしょう」
いままで黙っていたガイス司祭はそう提案した。
「わ、判った。なんとかしてみよう……」
ヨークシャルは先ほどの激痛を思い出し、この者達に逆らえないと本能的に悟った。それと同時になんとか逃げ出す術はないかと考える。
自宅の屋敷に放った矢文を信用しなければよいがと考えるが、望みとしては執事の働きに期待するほかなかった。
1/27(ガイア、リュート、ルツァークの動き)
聞き込みによる、誘拐犯の手がかりは少なからずあった。
場所的にはこの辺りと踏んで、より怪しそうな場所や人を探っているが、そうそう簡単に見つかるわけもなかった。
しかし、昼過ぎに突如天から悲鳴が聞こえると、屋根に必死にぶら下がっている女性を発見した。
なんとか窮地に陥っている女性を助け出すと、以外にもその女性は誘拐された三人の一人であった。
詳しく事情を聞くと、娘は自力でスキを見て逃げてきたという。
人数や人の特徴を聞き、アジトと思われる方角を聞き出す。
しかし、それについてはどうやら無意味なようだった。
彼女が逃げ出すスキがあったのも、衛視がやってきたからだと言う。逃げ出すために男たちは彼女ら二人を連れだし、一人を置き去りにしていったらしい。
屋根の上を連れて歩かれている最中に、突然手の自由が利くようになったのだ。それで目隠しを外し、男を突き飛ばして逃げてきたという。
「そうなると、そのアジトは衛視の手に落ちているとなるな」
「じゃあ、そこに置いていかれた人がお前の姉ちゃんかもな」
ガイアとリュートがそれぞれの考察と推察を述べる。
しかし、リュートの推察はあっさりと拒否された。彼女の話だと、身軽そうな自分たち二人が連れて行かれたという。目隠しをされていてもそう感じたと非常識にも自慢げに話した。
「ヨークシャル卿については知らない?」
リュートがおどけて聞いてみると、意外にも彼女はヨークシャル卿が誘拐されていた事実を知らなかった。まったく別のところに連れて行かれていたようだ。
「身代金目的じゃないのか?」
リュートが怪訝そうな表情になる。使用人を同時に誘拐したのは体のいいお人好し冒険者の盾に使うつもりだと考えていたが、どうも当てが外れたようだ。
「こうなると、ヨークシャル卿の誘拐と使用人の誘拐は分けて考えた方がいいな。いっそ衛視から情報が得られないだろうか?」
三人は女性を安全なところまで連れていくと、再び捜査のために街の中に消えていった。
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