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No. 00048
DATE: 2000/01/30 00:23:15
NAME: レイシャルム、ガイア、エルフ他
SUBJECT: 波紋のぶつかり(濡れ衣)
1/27(レイシャルムの動き)
焦る気持ちを抑え、彼は情報を集めた。まず、レスダルの家に赴き情報を交換する。交換と言っても彼が手にする情報などは大したものではない。せいぜい、アレクの兄がシャウエルであることとか、ユングという衛視がシャウエルを捉えたことなど些細なものでしかなかった。一方、レスダルの方もラザラスとの交渉で得られた情報くらいしか渡すものはなかった。
噂を流していた男(ブルータ)のことも言おうとしたが、これについては彼女自身でもう少し調べてからと語らなかった。
レイシャルムは次にラスやカレンたちを捜したが、こちらは姿をくらましたように足取りが掴めなくなっていた。二人ともアレクと共にまずい状況に陥ってしまっているのではないかと考えてしまう。
「二人して揃っておきながらっ」
思わず悪態をつきそうになるが、その言葉をぐっと堪える。今は、捜すことだ。ラスがダメならカイを当たろう、確かカレンにも女が居たように思える。
斯くして、彼はラーダ神殿帰りの気落ちしたラスとカイを見つけることに至った。
しかし、ラスはこのレイシャルムに全てを語る気にはなれなかった。
ただでさえ、カイを事件に巻き込みつつある。この男(レイシャルム)のことだから、どんな状況に陥ったからといって、心配はないと思えた。だが、アレクやカレンのことを思うと、明らかに自分の取った行動は裏切りであり、ラーダ神殿での一件は弁明の余地すらなかった。
現時点でもラーダ神殿から国へと連絡が入れば、たちまちアレクたちはお尋ね者となるだろう。
こうなってくるとアレクたちの計画は成功してもらわなければならない。
ガイス司祭やブルータの動向や腹黒さが気にならないわけではないが、ラザラスに知られた以上、アレクたちの計画が失敗する可能性は高い。なんとかしてラザラスの動きを封じたいと思う。
「果たして封じきることができるのか?」
ラスは自問してみる。
彼らの企みのほとんどを聞き出すことに成功したラザラスの態度はあくまで冷静であった。とても投獄された人物を貴族という人質を取って助け出す全容を知った男の態度とは思えなかった。まるで他人事のようにさえ感じた。
聖職者は政に関わり合いを持たないと聞くが、この一件が政なのか、それとも単に自分たちを騙すだけなのか、ラーダ信者特有の「知りたい」という知識欲だけであったのか、考えれば考えるほど本当の答えが見えにくくなる思いがした。
急かしてくるレイシャルムに対して、「使ってみるか?」という言葉がわき上がる。
1/27(ユングィーナたちとガイアたちの動き)
捕らわれていた、女性はヨークシャル卿の使用人だと聞いてユングは驚いた。しかも、使用人は元はフォーマ卿の使用人だったと言う。
噂にしろ、この誘拐にしろ昨年の事件が無関係だとは考えられなかった。
「使用人だけを誘拐するでしょうか?」
ブローウィンの推察にユングはヨークシャル卿の身を案じた。
指令を発するときのサインでしか、その名を見たことがないユングにとって、ヨークシャルはただならぬ相手であった。現在の地位に追いやったのもヨークシャルだと言えなくもない。
しかし、彼女は国王に仕える一兵隊であり、上流貴族は国王の血縁でもある。自分のような末席にすら名が出てこない貧乏貴族とは訳が違う。私語と挟んで本来の職務を遂行しないわけにはいかない。
直ちに、ヨークシャル卿の屋敷へと向かう。
しかし、詰め所を出ようとした彼女らの前に三人の来訪者が現れた。ガイア、リュート、ルツァークの三人であった。漆黒の鎧に身をまとったガイアを見て、怪訝そうな視線を投げつけてくるアルフォーマとブローウィン。そんな視線を押しのけ、ガイアはユングに誘拐事件について語りだした。
しかし、駆け引きもなにもない語りを聞いて、途端にリュートがガイアを征する。
「頼むわ、そんなんじゃ、いいように俺らが使われるだけや」
彼らは彼らなりの情報がある。もっともそうであるかどうかは探りを入れてみないと判らないが、全てをさらけ出して対等に話し合える相手ではないと判断したのだろう。
リュートの交渉術は、それなりのものであった。
結果として、リュートたちは、未だ衛視の耳に入っていない誘拐事件の概要を知らせることとなり、イルヴァンテという老紳士が冒険者を雇って救出に当たっていることを伝えた。ユングたちからは、この一件が去年起きた孤児院の事件に絡んでいることを聞き出すことに成功した。それと、救出された女性がルツァークの姉ではないことを確認する。
「孤児院事件?」
「そんなん関係ないだろ? 今は姉を捜すことが先決だ」
リュートもガイアも衛視からの情報が誘拐事件の役に立つとは思えなかった。
「でも、衛視さんたちが言う、噂話の根元とヨークシャル卿の誘拐は関係あると思うよ。ねーちゃんたちがどういう形で関わっているかは判らないけど……」
ルツァークの意見はもっともであったが、点となる情報ばかりでは決定的な行動には成り得なかった。噂にしろ、誘拐にしろ、真の目的が見えない限り対処策すら講じられないのであった。
「よくわかんねぇ、事件だけどあれだな、兄弟!」
「ああ、この件で利益なり、優位になる奴がいるだろう、兄弟?」
「うん、きっとこまるやつもいるさ、キョウダイ」
ジャングル・ラッツの三人の言葉で、ユングがはっとする。
今まで大して気に止めていなかったが、今回の指令はエルサーク上級騎士から発せられたものである。昨年の事件は解決されているはずである。確かにシャウエルは密かに、実行を否定して、彼なりの真相を語ってくれた。意図は別にあるにせよ、少なくとも暗殺者たちとは無関係に思えた。しかし、相変わらず公の場では自分が実行していることを公言してはばからない。街でどんな噂が流れようとも騒ぐことではないはずだ。それなのに、今回に限り自分に部下をつけてくれたり、自分以外の衛視にまでこの件に関わらせている。明らかに焦っている色が伺えた。
この件で困る者、エルサーク上級騎士? ならば喜ぶ者は? ヨークシャル卿など喜ぶ筈もない。……やはり投獄されているシャウエルと考えるのが妥当であった。うわさ話の真実如何にせよ、彼の追い風になっていることには違いない。となるとシャウエルの仲間がこの件に絡んでいる……。
ユングィーナは最終的にそう結論づけた。1/27(エルフィンの動き)
リード邸に立ち寄ったものの、主であるリード本人に会うことはかなわなかった。随分前に留守にしてから戻ってきていないと言う。
「今ひとつ、この事件の流れが見えませんね。シャウエルに会ってみますか」
彼なりに自己の身分を証明する書類を用意し、蓄えていた金銭を懐にしまい、城へと向かった。
大臣殺害の犯人に面会を通してくれるかは疑問であったが、あのアレクという女性はそれを果たしている。それならば自分も可能性がなくはないと考えての行動であった。
しかし、その予測は裏切られることになる。
アレクがシャウエルと面会したときと、今とでは状況が違っているのだった。シャウエル絡みの噂が町中に溢れている中、シャウエルに面会を求める行動は否応なく衛兵の注目を集めた。
「へへ、悪いね。そういうことなら面会させてもいいぜ」
衛兵は、自ら賄賂を求めた。それを待っていたかのようにエルフィンも用意した金を出す。
(何か、違和感を受ける……。それともこの衛兵がここまで性根が腐った奴なのか……)
エルフィンは城内に通された。しかし、一人の衛兵が城の奥へと去ったのを見計らって、もう一人いた衛兵の首元に手刀を浴びせた。気絶させた衛兵を見つかりにくい場所に移した後、地下ではなく去っていった衛兵の後を追うことにした。
「エルサーク殿! 不振な奴がシャウエルに面会に来ています。いかがなさいますか?」
つけていった先で、衛兵は自分のことをそう告げた。
自分が城内で姿をくらましていることが見つかると、逃げ出せなく恐れがある。さっさと逃げた方が良さそうだな。そう考えたエルフィンは最後にエルサークと呼ばれた男の顔を確認して闇から闇へと姿を隠しながら城を脱出した。
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