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No. 00050
DATE: 2000/01/31 02:22:18
NAME: スターク、カレン、ラス他
SUBJECT: 踏み間違えた板(濡れ衣)
1/28(スタークの動き)
ザードたちの動きは、一人の女性グラスランナーによって捉えられていた。彼女は、ガイス司祭たちアイデアを提案したものの、指輪の発動体入手まで時間がかかるということで却下されてしまった。なんでも偽装させた馬車を用意するのに、資金をつぎ込んでしまったらしい。
それで彼女は馬車の背面に潜り込んで、城の中に進入しようと考えていたのだ。彼女の目的はシャウエルの顔を拝むことである。もっともそればかりでなく、彼の師から「よろしく頼む」と言われたことがことのほか嬉しかったからでもある。
異様な張り切りを見せていた彼女の精神をうち負かせるほど眠りの雲は強くはなく、また魔術師と関係が深かった彼女に暗闇の魔法はさして驚く状況ではなかったのだ。
暗闇から抜け出した彼女の目にはヨークシャルを連れて逃げ出す二人組を見たのであった。
1/28(カレンの動き)
ザードたちの襲撃により、ヨークシャル卿を奪われた彼は、現状が理解できなかった。しかし、ヨークシャル卿を拉致してきたことを思い出し、それを取り戻すのに冒険者が動いたことを悟った。
馬車の中ではアレクとガイス司祭が眠っていた。
アレクを起こし、ガイスに気がつかれないように、この件から手を引くように説得を試みるが、彼女は「シャウエルを助けるためならなんでもする。正義や悪なんて関係ない」との一点張りで、とても正気だとは思えなかった。
逆に彼女に「身内が無実で捕らわれていて平気でいられる?」と問いつめられることとなった。
カレンにも大事であった人物はいる。その者が無実で投獄され、いつ死刑執行されるか判らない身であるとするなら果たして自分は正気が保てるだろうか? と考えさせられることとなり、それ以上アレクを説得することはできなかった。
彼女にとってガイスやブルータの怪しさや危険性よりもシャウエルの救出こそが急務であったのだ。
大臣殺しは死罪である。次の機会を狙っているうちに刑が執行されてしまうかもしれない。
やりきれない憤りだけが、カレンの心の中を駆けめぐる。
1/28(スタークの動き)
ヨークシャル卿は、ザードたちに礼を言って、屋敷に戻ろうとした。
しかし、それを阻む者がいた。
(ここで、その爺さんを帰すと、シャウエルに会えないのよね)
ボーラで、アンシーの動きを封じたあと、ザードの放った魔法に抵抗をする。
「グラスランナーか」
にこっと笑って見せるスタークはソードブレイカーでじりじりと追いつめる。
こうなると魔術師であるザードはなにも手が出せなくなる。自慢の魔法も、この意志強き種族をうち負かすとなると残りの精神では到底破れそうもなかった。
「降参だ……」
そう呟いたとき、アンシーから混乱の魔法が投げかけられた。
しかし、その魔法も、強靱な彼女の精神をうち砕くには至らなかった。
その後、アンシーとスタークの剣劇が始まり、ヨークシャル卿はその隙を見て逃げ出した。
1/27夜(ラス、ガイアたちの動き)
時間は前日の晩に遡る。
ラーダ神殿からの帰り道、カイはアレクたちを補佐すべきラザラスを妨害すべきだと主張した。どう見ても、今のラスたちの方が不利であるのは確かであるし、国に楯突けるとは思えなかった。かといって、見過ごしてはラザラスの動きでアレクたちが捉えられてしまうかもしれない。
結局はガイスたちの案に乗るしかないのではないかと思えたのだ。しかし、ラスはガイスの計画を破綻させることを決意していた。
彼にとって、シャウエルの救出などどうでもよいことであった。ただ、言うがまま、なすがまま展開していく事態が気に入らなかったのだ。本物のファリス司祭であるかどうかなど、この際関係などない。いや、むしろ、歪んだ秩序だからといって、自分まで歪めた秩序で正そうなどとするのはファリス司祭のすることではないと思っていたのだ。
城に乗り込むのは明日になってから。今から戻ればガイスたちの企みをつぶせるかもしれない。
(……企み?)
一番気になるのはそれであった。奴らがファリスでなければ、行動理由が見あたらないのだ。わざわざ危険まで冒してすることであろうか? 一歩間違えば、自分たちが投獄される結果に繋がるのだ。
不可解だけが渦巻いていく。結局、彼は考えるのを止め、レイシャルムを事の次第を伝え、ガイスたちの企みを阻止すべく動き出した。
ラスがアレクたちが隠れているアジトに着いたとき、丁度人目をはばかって出ていく男がいた。ブルータである。
(こんな時間にどこへ?)
ラスは、カレンたちと合流を果たす前に、彼の行方が気になった。ブルータの行き先を確認する方が、先決であると考えたのだ。
(夜明けまでは時間がある)
ラスはレイシャルムたちにここで待つように伝え、一人尾行を開始した。
ブルータはしばらく歩くと一軒の古ぼけた家に入っていった。
そのときであった、風に乗ってカイの言葉が届いた。
「ラスごめん、しくじっちゃった」
声と共に剣劇が聞こえる。
振り返るが、視界に届くところでは行われていない。
(レイシャルムが一緒だと思って油断していたか……)
ラスは来た道を駆け戻る。
そこでは、数人の男がレイシャルムたちを取り囲んでいた。すでにレイシャルムが二人の男を切り捨てていたが、カイを守るために思うように動きが取れないでいた。
「カイ〜」
ラスが精霊魔法を唱えるために、距離を詰める。それに呼応するかのように一人の夜盗が動きを合わせてくる。カイのことを考えていたため、その者の動きを見落としていた。
混乱の呪文を全員にかける。効かなければ後がないように思える。しかし、そこはレイシャルムの腕を信じるしかなかった。
しかし、その後ラスは衝撃派により堅い石畳を舐めていた。
立ち上がると、敵のほとんどが何をするわけでもなく、突っ立っていたが、カイの背後を取っていた者がいた。
「大人しくしてもらおう」
カイを人質に取った者は、脅しが嘘でないことを証すように、彼女の僅かにとがった耳の先端を削ぎ落としたのだった。
「これで人間らしくなったかな? ハーフエルフは人間社会じゃ生きにくいだろう?」
「なぜ、こんな事を!」
ラスの悲痛な叫びは、背後から返答があった。
「何故? それはこちらが聞きたいですね。裏切り者さん」
そこにはブルータが立っていた。
「これは貴様の仕業か?」
ブルータは方をすくめて、いやらしく笑みを浮かべた。
「さっきまで取っていた行動の見返りですよ。警告まで与えたのに、残念でなりませんねぇ。最初から言っていたでしょう。信用しているわけじゃないって。互いに共通の目的を遂行するために協力しましょうって。そちらのアレクという方は納得していただけたはずなのにねぇ」
ブルータはしれっとした顔で言う。
「まったく、無駄な血を流すことになってしまって……」
倒れている味方と、両耳から血を流して痛みを堪えるカイを見て、嫌そうな表情を見せる。
「この件が終わるまでは、大人しくしていてくださいよ。この娘が人質として機能するならばですけどね。そうでないと、こちらはお手上げになってしまいますから」
戯けた口調で言うと、正気に戻った部下に活を入れて、死体ごと闇に消えていった。
「ラス……」
声をかけるレイシャルムに、ラスは「スマン」と一言呟いて、精霊の力を借りて闇夜に姿をくらました。
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