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No. 00052
DATE: 2000/02/01 00:37:47
NAME: レイシャルム、カレン、ラス他
SUBJECT: 取り戻した駒(濡れ衣)
1/27夜(レイシャルムの動き)
闇夜に消えていったラスに対して、レイシャルムは一人残される形となった。
これでアレクと合流が果たせると思った矢先に、この事件である。
ラスが一人で尾行をはじめたとき、やばいと感じていた。特にカイが「後を付けよう」と言い出したとき、素直に従うべきではなかったのだ。もっとも、あの状況ではラスを尾行していなければ彼が一人敵の中で孤立するところであっただろう。だが、それでもカイが人質に取られるよりはマシだったかもしれない。
アレクたちの隠れ家の見当はついているから、探して探せない範囲ではないと思っていた。
そこへ、三人組の男が現れる。一人は漆黒の鎧に身をまとった男であった。
「レイシャルムじゃないか。どうしたこんな時間に……。こちらで剣劇が聞こえたから駆けつけてみたんだが知らないか?」
息を切らしてついてきたのはリュートとルツァークである。
彼らは衛視からの情報と、ヨークシャル邸で入れた情報を持って、未だ見つからない姉を捜していた。衛視の話からでは、誘拐犯と噂を流した連中と関係がありそうということを聞いていた。彼らにとって一年前の事件は関係がなかったが、ヨークシャル卿同様、助け出せたり未然に防げるものなら防いでおきたいとも考えていた。もっともこれはガイアの考えで、リュートに至っては「ついでなら」というかなり消極的意見であった。
聞かずとも、ガイアたちがルツァークの頼みで誘拐事件を追っていることは承知であった。彼はルツァークがガイアたちに依頼をするときに酒場に居合わせていたのだ。ただ、通り魔事件やら、怪しい噂話やらでこれ以上首を突っ込みたくはなかったのだ。
しかし、もっと早く気がつくべきであった。ルツァークの後に来たイルヴァンテが語った貴族の名を。
ヨークシャル卿と言えば、フォーマ卿の叔父に当たる人物。一年前の孤児院の事件でリードから説明を受けていたはずであった。そしてラスの話しからして、ヨークシャルとアレクは一緒にいるという。
その情報にガイアたちの目の色が変わる。
「すまんな、使用人まで捕らわれているかどうかは聞いていないのだ。それにアレクたちがいるという場所すら判らないんだよ」
それから、夜半までアレクたちがいるかと思われる家を当たってみるが、どれも違っていた。やがて、家々の明かりが消え、とても門戸を叩ける時間ではなくなったために捜査を一時中断することになる。
1/28(レイシャルム、ガイアたちの動き)
時間は、ヨークシャル卿が連れ去られた後へと戻る。
ザードたちの襲撃を受け、アレクたちはヨークシャル卿という大事な駒を失って動きが取れずにいた。カレンがこれを機にと「一端、手を引こう」と持ちかける。しかし、アレクはただならぬ不安を感じており、「今救出しなければ、兄さんが危ないかもしれない」と訴えて止まない。ヨークシャル卿が連れて行かれたのならば、連れ返すまでと、協力的でないカレンを放って一人捜しに出かけるのであった。
「勝手にしろっ!」
まったく耳を貸そうとしないアレクに対して、カレンはついにせき止めていたものを吐き出してしまった。とは言っても、見捨てておけないのが仲間としての間柄である。
(こうなれば、アレクより先にヨークシャルを見つけなければ)
頼りなさそうに眠ったままのガイスを横目に、寝首をかいてやろうと欲求を抑えてカレンはヨークシャル卿を捜しに街の中へと消えていった。
一人ヨークシャルを捜すアレクの前にレイシャルムとガイアたちが現れる。
再会の喜びを隠そうともせず、抱擁を迫るレイシャルムに対して、冷たくあしらうアレク。
そんな彼女の態度に少しばかりショックを受けたそぶりを見せたレイシャルムは、今までの一連の出来事を話す。昨晩カイが人質として連れ去られたこと、そしてラスがそれを追って闇夜に消えていってしまったこと。
それを聞いていたガイアが口を挟む。ヨークシャルと使用人をさらった犯人は同一犯ということを捨てきれていない彼らにとって、アレクがヨークシャルを連れていたことは聞き捨てならないことであった。詳しく情報を求めてくる。
レイシャルムはラスから聞いていたヨークシャルのことと、ガイアたちの捜す使用人はヨークシャルのものだということを心得ており、彼らの前でその話題を表面化させないように図っていたが、アレクが包み隠さず語りだしたために、全てをガイアたちに知られることとなった。
「つまりだ、そのヨークシャル卿ってのは己のプライドを守るために、一度出した指名手配を取り下げることをしなかった。その命令で捕まえられたのがお前さんの兄であると。その不条理な命令を解き、シャウエルとやらを無罪放免にしてもらうために当事者であるヨークシャル卿を拉致し、説得を試みていたと」
「説得はした。あとは兄を解放してくれるだけであったのだ。それが何者かの邪魔が入って……」
ガイアの要約にアレクが唇をかむ。今日、城に赴いて手配を済ませれば、シャウエルは釈放される手はずであったのだ。ガイスたちの企みがどこにあるにせよ、何を押しても兄を解放してやりたいと思うのが、寸手のところで全てが崩れ去ったのである。
ラスの動きにより、ブルータたちとの協力は絶望的なものとなる。例え協力関係を続けて、シャウエルを解放したとしても、カイが人質に取られていては意味がない。
それにヨークシャルと共に三人の使用人が誘拐されたのもアレクにとって衝撃な情報であった。すでに二人は助け出されているとはいえ、目の前の青年(ルツァーク)の血縁の者が危機に瀕していると聞いて穏やかにはいられなかった。
ブルータがカイを人質に取った時点で、ヨークシャル卿と共に使用人を拉致したのが同一犯と容易に想像がつく。何の目的で使用人までさらったのかは見当がつかないが、無関係な人までさらっていたのではガイス司祭がファリスとは名ばかりというのは疑いようがない。
もっともアレクにとってガイスの正体がどうであるかなど関係なかった。しかし、アレクの仲間たちであるカレンやラスの方がそれを気にしたのである。
ガイスたちの思惑は別にしても、ヨークシャル卿を押さえなければシャウエル救出は夢また夢の話しに思えた。レイシャルムとガイアたちは相談の後、ヨークシャル卿を見つけだすことと、使用人であるルツァークの姉の発見、カイの発見することで合意した。
こうして、アレクとレイシャルム、ガイアたちとでヨークシャル卿を捜すことになった。
1/28(カレン、スターク、ザードたちの動き)
(こんなことであれば、アレクを説得しているんじゃなかった)
襲撃を受けてから、すぐに動いていれば逃走範囲も限られたものと思えたが、今となってはこのオランの街並みは、無限に広がる迷宮にのように思えた。
それでも捜すしかない。アレクに先を越されたら、それこそ未来が明るくないと思えた。
表通りにいるはずのいつもの乞食たちがいない。通り魔事件の影響か、情報提供してくれるシーフギルドのメンバーの姿がいつもより見かけられない。裏通りを駆け抜けても、情報屋となる人物の数はまばらである。
(こんなときに限って)
ただ、己の感と、一つの推察のみで動かざる得なかった。
一方、スタークとアンシーは互いに有効な決め手に欠いていた。グラスランナーとエルフとの対峙である。互いに貧そうな武器であり、互いに素早かった。ザードはアンシーに防御の魔法をかけてやるくらいしか、援護のしようがなく、それがまた二人の間に決定打を与えさせない結果と繋がった。
しかし、スタークは結果の出にくい争いをさっさと放棄して逃げ出したヨークシャルを追い始めた。
あっさりと引き下がったグラスランナーを見送り、アンシーはその場にへたり込む。
彼女もそう多くは修羅場を潜ってきたわけではない。襲撃して、襲撃されてと神経をすり減らす出来事が立て続けに起きたために次の動きに繋がらなかったのだ。
それはザードも同様であった。今の襲撃がグラスランナーでなければ、自分の命は危うかったかもしれない。もっともグラスランナーでなければ自分の魔法が効果を現していたかもしれないのだ。何にしても今ある命にほっとため息をつく心境であった。
「これでは、あの人の姉さんを助け出せそうにもありませんね〜」
「なんだ、あんたもそういうこと考えていたんだ」
ザードの漏らした言葉に、アンシーはくすくすと笑う。二人ともルツァークの姉を見捨てたわけではなかったのだ。とはいえ、ヨークシャルに逃げられた今、再度追いかける気力は今のところ湧きそうになかった。
「20万ガメルの仕事など、分不相応ってものでしたかもね〜」
ザードは力無く笑い、澄み渡った冬の空を見上げた。
スタークの足は、ヨークシャル卿を追うにさほど苦労はしなかった。相手は老体であり、裏道にも疎い。たちまちヨークシャルを追いつめることとなった。しかし、グラスランナーでは、相手を取り押さえることや縛り上げるといったことはできそうになかった。せいぜい、短剣で脅す程度である。
「お前もあの男の釈放が目的か?」
「ま〜、そうかな〜」
ヨークシャルはなんとか、このグラスランナーを懐柔できないかと試みるが、金欲に乏しいか、単に興味がないのか迷いも見せない。
時間だけが無為に過ぎていき、そんな二人をカレンが先に発見をした。
1/28早朝(ラスの動き)
連れ去られたカイを追い、ブルータたちの隠れ家を確認するラス。
カイがこれ以上拷問など合わないことにほっと胸をなで下ろし、彼女が無茶な行動に出ないことだけを祈る。言葉を届けたいが、現状の彼には精霊を操るだけの気力は残っていなかった。
ここで行動を起こしても、万が一にも助け出せる可能性は低い。ガイスとブルータの二人しか仲間がいないと思っていたのがそもそもの誤りであったのだ。
しかし、聞き耳を立てるラスに気になることがあった。
「オレが働けば問題はないのだろう?」
「ああ、そうだな。子供といえやることもせずに食おうなど許されんことだ」
「そういうことなら、望むところだ。もうあんな場所には戻る気はない。オレとこいつらをしばらくやっかいさせてくれれば、それ相応に働かせてもらう」
「よい心がけだな。お前の師はシェルだったか? 噂は聞き及んでいるよ。今一歩のところだったようだな」
「やつがオレたちをコマとして扱っていたのは今では判る。ただ奴には運がなかったのさ」
「気に入ったぞ。早速働いてもらおう」
声の主はブルータではなかった。しかし、口調からするとかなりランクの高い人物に思えた。しかも相手は子供のようだ。何故子供がこんなところにいるのか? それに全く聞き取れなかったが、もう一人子供がいるようであった。誘拐された雰囲気とは違う……。
この壁の向こうで何が起きているのか……。
意識がもうろうとしてくる中、安宿で仮眠を取る。あのまま見張りに見つかってはお笑いぐさである。
翌朝、まだ日が昇らない冷え込む時間帯である。
「カイ、待っていろ……」
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