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No. 00053
DATE: 2000/02/03 01:25:14
NAME: レスダル、エルフ
SUBJECT: 余熱冷めず(濡れ衣)
1/27(レスダルの動き)
レスダルは息子の安否を気遣い、シーフギルドの力を借りることをを考えた。
再び、何でも屋と落ち合うことができればよいのだが、彼の家を訪れても留守であるため仕方なく、他を当たることにした。
冒険者の店で情報屋を捜す。
「どうしたの?」
可愛らしい顔をした女性がレスダルの様子を見て話しかけてくる。どうやら相手はギルド関係者であり、あわよくば仕事にありつけるかもと思って近寄ってきたようだ。
人見知りのない笑顔で近づく女性に対して、レスダルはそんな腹の下を感じ取っていた。まだまだ経験が浅いようである。
とは言っても、シーフギルドと接触を図るには素人では不可能である。金銭に応じて律儀に働いてくれるギルド関係者であるほうが、気が楽という面もあった。
「息子が居なくなりまして、居所を知りたいの」
ギルド関係者との短い言葉のやり取り終え、レスダルは本題に入った。
その内容に、ギルド関係者は「冒険者の方が向いているのではないか?」という提案をもらったが、今の彼女には息子の居所をいち早く知りたいのであった。
「判ったわ。ちょいと待っててくれない?」
そういって、軽快な足取りで店を出ていく。レスダルが彼女の名を聞くと、短く「ミニアス」と答えた。
小一時間ほどでミニアスは戻ってきた。表情が曇っているのを見ると良からぬ情報であったのだろうか? レスダルは胸が締め付けられる思いをする。
「えっと、どう話そうかな」
ミニアスの顔には明らかに動揺の色が見える。それは彼女自身にも判ることであり、しきりに汗を拭いたりして落ち着きのないそぶりが続く。
しかし、レスダルの真剣な表情を見て、ため息をつくと、彼女は意を決して話し出した。
シーフギルドに赴いたミニアスに、レスダルが求めていた情報は入っていた。当然のごとく情報の代価として金を支払おうとした彼女であったが、ギルド側の者がその手を止めさせた。
「代金はいらない。その代わりに頼まれごとを引き受けてくれないか?」
シーフ同士の駆け引きが始まる。ギルド側が提示してくる内容は決まってやばい仕事が多い。その程度を聞き出して、見合うかどうかを判断する。
しかし、思ったほどギルド側は駆け引きをしてこず、情報を漏らし始めた。
ギルド側の思惑は簡単なことであった。最近広まった国の不正の噂話の出所が判ったのである。レスダルが捜す子供かどうかは確証まではないが、同年齢層の子供がそこに出入りしているのは裏がとれている。子供がやばい事件に首を突っ込んでいるんじゃないかと言って彼女の不安を煽り、噂の出所になっている箇所を魔術師の力なり、冒険者を使うなどしてつぶしてほしい。そういうことであった。
ギルドに取っては噂の出所になった人物たちは邪魔な存在であるようだった。しかしながら、自身の手を煩わせたくはないとも考えていたのである。
渡りに船とも言わんばかりの依頼者がやってきたので、持ちかけた話でもあった。
ギルド側は、聞きもしないことまで語りだし、「その気があるなら、子供たちが出入りしていた場所の情報を無償で提供しよう」とまで宣うのであった。
あまりにギルドの対応がいつもと違うため、ミニアスは素直に全てを語ることにした。
子思う母の気持ちとなれば、選択の余地などなかった。ただ、ギルドの思惑通り、噂を流した人たちと対峙する気はなかった。
「よりによって……」
少しずつ、見え隠れする孤児院事件の爪痕。ここに来て、彼女の息子も火中へと放り込まれることになろうとは思いも寄らなかった。臆病にも事件から距離を置き、背を向け目をつぶっていた責任を今、取らされている思いがした。
くすぶり続けていた燃えかすが、今新たな風を受け火をつけたのである。
「事件は終わってはいない」
それは女衛視が訪ねてきたときに気がついていたことである。そこで何かしら動いていれば、今の状況は変わっていたかもしれない。
「息子ばかりを見て、周りの状況を見ていなかったようね」
レスダルはミニアスに受ける意志を示した。
1/28(エルフィンの動き)
エルフィンはシーフギルドに立ち寄った。一年前の事件が蒸し返される中、彼も立場的によい状態ではなかったのだ。それならば自らが噂を広めた人物を粛正するのを名乗りあげて、身の潔白を示そうとも考えていた。
しかし、そんな彼の腹の底を見透かしたように、ギルド側の対応は彼に追い風を与えてくれるものであった。
今まで入ったことのない奥の部屋まで通され、客人、それも上得意の客をもてなすかごとくの扱いを受ける。
ギルドの幹部が彼の前に座り、短く先日の非礼を詫びる。
異様な光景である。下げるべきでない人間が頭を下げるときはよからぬ前兆とエルフィンは心得ていた。
彼が城や騎士の館に忍び込んでいる間に、シーフギルドでも情報をかなり集めていたのだ。それでエルフィンがこの噂話の件には無関係であると見られ、先日の脅しを詫びてきたのである。
もっとも普通ならば詫びる必要などはない。特にこの世界では。
ギルドの用件は、一人の男の暗殺であった。噂を街に広める手際といい、情報操作に関してはピカイチの腕を持つと判断されている。事実、シーフギルドが動き出す前に、流されたくない噂話が流れてしまったのだから。
似顔絵が出され、目つきの悪い中年の男が描かれている。名前はブルータと名乗っているらしい。
目的は以前掴めておらず、可能であれば調べだしてほしいと付け加えられる。
「断れば?」
本能的に、口走ってしまった。もっとも、この言葉の反応で相手の構えが伺い知れるというもの。
ギルドの幹部は、薄い笑みを浮かべて、「断る理由があるわけですね」と、逆に聞き返されてしまった。
(選択肢はあってないようなものですね)
ギルド側が謝罪したのも、全てはエルフィンの逃げ道を塞ぐものであった。ギルドが非を認めたにもかかわらず、この依頼を断れば晴れた疑いを拒絶することに等しかった。
もっともただというわけでもなかった。生け捕りであれば、2万ガメル。暗殺に成功すれば8000ガメルの報酬は約束された。
そしてエルフィンはブルータが出入りしている四カ所の家の居所を記した羊皮紙を受け取ると部屋から出ていった。
帰る間際に幹部は、彼以外にもこの件に関わっている者たちはいることを伝えた。そしてその者たちに「過って殺されないように」と忠告までしてくれた。
動く以上はそれなりの結果が伴わなければ、今後の仕事がやりにくくなる。ギルドに嫌われてまともに商売など続けられるものではないからだ。少なくとも店などは構えられない。
闇市場の一角を抜け出した彼は、足早に南へと移動していく。
(あの女(アレク)と会うべきだな……)
彼の思惑をよそに、事態は局面を迎えることになる……。
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