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No. 00056
DATE: 2000/02/05 03:43:43
NAME: ラス
SUBJECT: 選択(濡れ衣)
1/28朝(ラス)
日が昇っても、ラスは動くことができなかった。早くしなければあのカイのこと、自力で動き出しかねない。そうなるとややこしくなる。カイの性格をよく把握している者の判断であったが、それだけであの人数と司祭を敵にして渡り合うのは無謀と思えた。
(落ち着けよ)
苛立つ自分に気がつき、心の中で繰り返す。だからといって、目の前で耳を半分落とされ、人質として連れて行かれたのある。ふと、カレンの顔が思い浮かぶ。
こんなときは、あいつが気持ちを落ち着かせてくれたものだが、今頃はシャウエルを救出するために出かける頃であろう。
「結局、ガイスの企みを阻止するつもりが何もできやしないじゃないか……」
一人で乗り込もうと考えては、ためらいもなく耳を半分切り落とした冷酷さを思い出し、万が一を考え動き出せない。
そうこうしているうちに、日が昇りはじめる。
幸いにもこの季節の風がラスの気持ちを落ち着かせてくれた。身体を撫で、否応なく体温を奪う風の精霊に礼を言い。ラスはその場から離れた。
「下手に動くのは得策ではないな」
ガイスたちの思惑に乗ったままであれば、もしかしたらこんな惨事は招かなかったかも知れない。自分の思い通りに事が進まないことに拗ね、身勝手な行動に出てしまったことが悪い事へと繋がったのだ。それを自覚することで、彼はその場を離れることができた。 ブルータの話ではカイが人質として機能しないと困ると言っていたわけであり、奴らもシャウエル救出を希望する側なのである。言うことを信じればだが。
しかし、この状況で嘘をつくメリットも思い当たらない。
カイの勝手な行動は不安であったが、シャウエルが救出され、その事実が確認されるまでは身柄は安全だと思えた。
彼は、別の駆け引きをするためにシーフギルドへと足を向けた。
その道の途中で、意外な人物を目撃する。闇市の朝のにぎわいで混み合う人混みの向こうにエルフィンを見かけたのだった。
この先にはシーフギルドへ通じる入り口がある。彼もおそらくはギルドに用があったのだろう。
ラスは迷った。ギルドの状況を確認することはカイ救出において重要なことでもあり、また、ブルータの情報を売るためにもギルドとは話をつけておきたかった。だが、あの灰色の何でも屋の持つ情報も捨てがたいように思えた。事件の全容は知り得た今となっては、彼から聞き出すことはないように感じられたが、シーフとしての感というものだろうか、追わねばならない気もした。それと反してカイを救出するために、他ごとに捕らわれていてはいけないという思いが走る。人混みに消えかかるエルフィンを見て、彼は動き出した。
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