No. 00057
DATE: 2000/02/06 13:46:09
NAME: イル
SUBJECT: 尾行(通り魔)
主の居ない夜空に星々が瞬いている。街は微かな明かりの下で眠っている。絶好の尾行日和。
通りの先には微かに動く影。目立たない動きだが、森で鍛えられた僕の目にははっきりと分かる。
人間なら小柄な体格、見慣れた歩き方。
ここ数日、毎日の様にこの時間に通って行くのを、屋根の上から見ていた。
通り魔が出るという。危ないな、と思って気に掛けていた。
それとも、通り魔そのものか、と。
今日は、屋根の上からでなく、家の影から見ている。
何をしているのか、何処に行くのか、何者なのかを知る為に。
尾行というものは思ったほど易しいものではない。特に素人には。
足音を聞かれると不味い、と、かなり離れて歩いていた為、何度も見失いかけた。
冬の夜の寒さにも、足許も見えない暗闇にも悩まされた。
それでも何とか附けていく。
何処に行くのだろう。真っ直ぐに歩かないで、同じ様な所を行ったり来たりしている。
気が付かれてしまったのだろうか。その様な素振りは見せなかったのだが。
一応、近付き過ぎない様に気を付けて、もう少し附いていってみよう。
案の定、というか。
あの後直ぐに見失ってしまった。
そのまま帰るのも癪なので暫く辺りを歩き回っていたのだが、
何か金属音を聞いた気がして探し回ったが、何も見つからなかった事と、
巡回中の衛視を見掛け、見つかったら不審に思われると思って隠れた事位しかない。
先程から何度も帰ろうと思いはしたが、
この辺りは余り来た事が無かった為、どの道を行けば帰れるのかが分からない。
仕方無しに闇雲に歩き回っている。
すると、何処からか夜空を響かせ爆発音の様な物が聞こえてくる。
何か嫌な感じがして、其方に向かってみる。
慣れない道に何度か迷いながらも着いた時、其処には人が2人居た。
一人は道に倒れている女で、もう一人は其の側で介抱している男。
体格からして彼女は、さっき附けていった人かも知れない。
手伝おうか、と思って近付いていくと、丁度彼の祈りが神に通じたのか、彼女の傷が治っていく。
彼は女を背負い、ロックフィールド治療院に連れていくと言って歩いて行く。
もしかしたら通り魔に会ったのかも知れない。今度行ってみようか、と思う。
家に帰り着いたのは、夜が明けてからだった。