No. 00060
DATE: 2000/02/10 21:25:50
NAME: イル
SUBJECT: 悪戯の精霊【通り魔/精霊】
一寸面白いことをした。
家々のドアに紐を括り付け、何処かのドアを閉めると必ず別のドアが開くようにした。
我ながら良く出来た、と思った。
誰か一人位「すごいね」と言ってくれるかと思った。でも皆苦々しい顔で紐を切っただけだった。
父が来た。何だろう、と思っていると、何も言わずに僕を殴った。
僕は座っていた木の枝から土の上に投げ出された。
そこで目が覚めた。
起きると目の前に悪戯の精霊が居る。
姿が見える人に会って喜んでいる様子。
僕は此れを元の精霊界に返してやろうと思う。
狂った精霊は精霊使いが助けてやらなければいけないから。
それ以上に此れに此の侭寂しい思いをさせておくのは可哀相だと思ったから。
どうして良いか分からなかったが、「おいで」と言ったら僕の中に飛び込んできた。
楽しい事が大好きで、笑う事が好き。でも何時も独り。そんな思いが心の中を駆け巡る。
そして不図病院らしい風景が目に浮かぶ。
でも直ぐに詰まらなそうな顔をして出て来る。
慌てて追いかけようとするが、ふわり、ふわりと何処かに消えていく。
僕の心の中は面白くなかったのかな。
大人に成ってしまったから、人間に慣れてしまったから。だから出て行ったのかな。
僕はあれを助けたい。そしてあれを呼び出した小さな心も助けたい。
どうすれば良いかは分らないけれど。
不図床を見たら倒れたインク瓶が目に止る。
床に零れたインクの形が、まるで故郷の森に在る湖の様。
僕はペンを取り出し、其の傍に村の地図を書く。
そして灰色に煤けた天井には見なれた星図を書く。
大家さんに見つかったら怒られるだろうな、と思った所が大人になった所なのだろう。
今夜も星空の下、屋根から街を見下ろそう。
通り魔を探して。そして孤独な悪戯っ子を探して。