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No. 00063
DATE: 2000/02/14 02:09:53
NAME: カレン、レスダル、ガイス、レイシャルム他
SUBJECT: 寄り集まる糸(濡れ衣)
1/28(カレン、スタークの行動)
(宿帳より抜粋)
なんとかアレクより先にヨークシャル卿を見つけた。
グラスランナーに刃を向けられていたが……。ヨークシャル卿の身柄を確保したいと申し出て、刃物収めさせた。聞けばアレクに協力する者らしい。自分もアレクに肩入れする1人だと言っておく。これは本当のことだからいい。
とりあえず、ヨークシャル卿を家に送り返すことにする。彼は相当警戒しているようだ。まあ、俺も誘拐拉致した一味だと思われてるんだからしょうがないが。とりあえず、非礼を詫び、危害を加える気はないことと、ファリス神官及びブルータとは反目していること、これ以上あの2人に手を貸す気がないことを話しておく。
しかし、シャウエルを助け出したい気持ちは変わらないとも……。シャウエルは無実だ。それはヨークシャル卿自身が良く知っていること。アレクがシャウエルの肉親だと言うことも知っている。甥を殺された彼ならば、兄が窮地に立たされた、その妹の心情もわかるだろう。
俺はヨークシャル卿に、シャウエル救出に協力してくれるよう改めて頼むことにした。
だが、彼は容易に信用してはくれない。信用してもらう為に、卿の条件を飲まざるを得なかった。
この事件の全容を記したレポートの奪取。そして、ガイスとブルータの身柄の拘束。これが条件。正直言ってきつい状況だが、幸い1人ではない。スタークというグラスランナーが一緒だ。なんとかなるだろう。
さて、どうやって任務を遂行するか……。ラスの援護がないとなると、2人一緒の時は手が回らない。1人1人潰して行くか…。スタークには2人の動きを張っていてもらおう。
目標:先ずは……ガイスか?
カレンはヨークシャルの身柄を解放したあと、元いた場所に戻ろうとした。
そのとき、呼び止める者が行く道を塞いだ。
現れた男は二人ともラーダの神官着を纏っていた。一瞬カレンの脳裏にガイスの仲間か? と思えたが、どうやら違うようであった。物腰というか、かもし出す雰囲気というものだろうか、それに一人は高位の司祭と伺えた。
「なんの用です?」
「私はラーダ神に仕えるラザラスと申します。こちらは……」
「リズナと申します」
丁寧なあいさつをしてくる。
(ラザラス?)
孤児院事件に関わる者の一人であるという記憶がよみがえる。しかし、彼の方からこちらに接触してくる理由が思いつかなかった。
急ぎたい気持ちを抑え、カレンはラザラスの要求を待った。「ヨークシャル卿を助け出したのですか?」
「まぁ、そういうことになるかな」
「……20万ガメルの報酬も受け取らず?」
「なに?」
カレンはラザラスの出した言葉の意味が理解できなかった。
「ヨークシャル卿が拉致されてから、彼を無事に保護したものには20万ガメルの報酬が与えられることになっていたのですよ。そうと知らずに助け出した……ということですか。単なるお人好しとは違うようですが……」
「何が言いたい」
「そう構えないでください。事実を知りたいのです。その服装はヨークシャル家の従者が着るもの。今頃城の中に入っている予定ではなかったのですか?」
「一体なんのことを言っている」
カレンはラスがラザラスと接触を果たし、計画の一部を聞き出されていることなど予測できることではなかった。必死に対面を繕って、冷静さを保とうとする。
「この杖はなんに見えますか?」
ラザラスが意味ありげな笑みを浮かべる。それにカレンは古代語魔法を連想した。そしてシーフギルドでも難題とされている嘘を見破る魔法に対しての対処法を思い出した。
(今のやり取りでは嘘を言っていることはバレていないはずだ……。しかし、わざわざ杖を見せるということは……)
「気がつかれたようですね。はい、いいえ、のみで答えていただけますね」
カレンの脳裏に自分たちが法を犯してはいないことが確認される。ヨークシャル卿も無事届けた。いったい、この神官は何を聞き出そうというのか?
「ヨークシャル卿を拉致した一味ですか?」
「ちょっと待て、事態が見えない」
カレンは説明を求めた。質問するなら、その根拠となる状況を語ってからにしてくれと。
それに対して、ラザラスは非礼を詫び、知る権利は誰にもあるということでラスから聞き出したことを語ってみせた。もちろんラスの名は伏せてある。
「それで、こちらとしてもヨークシャル卿が脅しによって罪人を釈放されるというのは見過ごせないわけでしてね。城前で待っていたんですが、一向に現れないので不思議に思ったのです。それでこちらに来てみれば、あなた方がヨークシャル卿を連れているのを見かけまして、どういった関係か知りたくなったのですよ」
「あんたは、シャウエルが有罪であると信じているのかい?」
「いいえ、私は彼は無実だと思っていますよ。ただ、この事件は政治絡みのことでして、神官である私が口を挟むようなことではないのです。もちろん、無罪の人を投獄してはならない旨はヨークシャル卿に伝えてはあります。それを実行に移すかどうかはあの方次第なんです」
(冷たいんだな)
口にこそ出さないが、カレンはそう思った。
「では、聞かせてもらえますか?」
何も答えない、カレンにラザラスは質問を投げかけた。カレンは素直にしゃべった。
「気が済んだかい?」
一通りの質問を終えたのを見計らって、カレンは先を急ぐそぶりを見せた。
「あのレポートを取引材料として……ですか。ヨークシャル卿も意地が悪い。……判りました。質問に答えていただき感謝します」
そう言ってラザラスたちは彼らの前から去っていった。
張りつめていた緊張の糸が切れたのか、カレンは大きく息を吐いた。
「まずは、ガイスという奴を捜すぞ」
「はいよ」
カレンとスタークは街中へと駆け戻っていった。
1/28(ザード、アンシーの行動)
ザードとアンシーはヨークシャル卿を奪われ脱力感に捉えられていた。20万ガメルを手に入れ損ねたこともあり、その後考えていた使用人救出も動く気にはなれなかった。
「どうした、しけた面して?」
声をかけてきたのはガイアたちであった。途中までアレクたちと行動を共にしていたが、アレクとレイシャルムと共に行動することに煩わしさというか、違和感を覚え別に動くことにしたのである。そもそも目的はルツァークの姉を捜し出すためであった。
その途中、ザードとアンシーを見つけたのである。
「その分だと、貴族の爺さんは見つかっていないようだな」
ガイアたちはアレクから事情を聞き、大まかなことは知っていたが、ヨークシャルを奪還したのが彼らだとは思っていなかった。ただ、別の誰かが奪還したため、彼らが空振りになったと思ったのである。
「笑うがいいさ」
ザードはフードの奥で自虐的な笑みを浮かべた。
「貴族はどうやら、他の奴に越されたようだからな。……暇ならオレたちに付き合わないか?」
「あたしたちを?」
アンシーがガイアの言葉に驚きの声をあげる。
「こちらも聞き込みに人手が欲しくてね。こう捜しているがなかなか手がかりが掴めないのだよ。まぁ、報酬など微々たるものだがな」
不安げにルツァークの表情を伺うアンシー。だが、ルツァークは先日の出来事など気にしている振りもなく、「姉を捜し出してください」と深々と頭を下げるのだった。
「役に立たないかもよ」
すでに自分たちの行動が失敗に終わっている為、冒険者としてやっていく自信が挫けかけているアンシーであった。
「魔法は大して使えないですよ。そんな魔術師など必要ですか?」
ザードの言葉は虚偽が含まれていたが、その後ろ向きな発言にリュートが腹を立てる。
「やる気がねぇなら帰りな。レディが危機に瀕しているのに動かねぇ男なんざ必要ねぇよ。歌もそうだが、魂の腐った奴にまともな行動などできやしないぜ」
そう投げつけると、リュートをかき鳴らした。
「では、お邪魔ということで〜」
リュートの言葉に気を悪くしたのか、それとも最初から協力する気はなかったのか、ザードはその場から去っていった。
「ザードさん……」
アンシーが立ち去るザードに声をかけようとするが、止まるそぶりも見せずザードは路地を曲がって行ってしまった。
「人手が欲しかったのだが……仕方ないか」
ガイアは気を取り直して、みんなに声をかけ、周辺の家に聞き込みを開始した。
彼らはギルドに繋がりがないため、地道に市民の目撃情報を期待したのである。それでも屋根を伝って逃げていく姿を目撃した住人などがおり、彼らの情報収集も無駄とはなっていなかった。
地道ではあったが、彼らの情報収集でブルータたちのアジトへ着実に近づいていた。
1/28(レスダル、ミニアスの行動)
「無茶だよ。一人で乗り込むなんて」
ミニアスは単独で乗り込もうとする、レスダルをなんとか止めようとしていた。
アジトの位置を確認したレスダルは、案内役のミニアスに代価を支払うと、正面切って乗り込もうとしていた。その様子を見かねてミニアスが止めに入る。ギルドで提示された条件はこの女性魔術師をかませて戦力を削ぐ腹であることは容易に察しがついた。そのやり口にそのまま乗るレスダルを見てじっとしていられなかったのである。
「無茶だよ。落ち着きなさいよ」
他人に振れられたくないた、ミニアスは一定の距離を保って口で説得するばかりである。
「どいてちょうだい」
アジトには当然見張りもおり、路地から出れば目撃されてしまう。魔術師であるならいろいろ方法があろうと思うのだが、レスダルは聞く耳を持たない様子であった。
そこへレスダルの背後で一軒一軒戸を叩き、住人と何か話している団体がやってきた。
ミニアスはその身なりを見て、冒険者だと判断し、レスダルに持ちかける。
「あの人たちを雇ったら? 息子さんを無事に助けるのなら人数は多い方がいいよ」
さすがに、息子の安否を交渉に持ち出されて引かない母親ではなかった。振り返ると戦士や精霊使い、吟遊詩人の格好をした一団がそれぞれ聞き込みを行っているようであった。
「すでに依頼を受けているのでは?」
「そんなこと、聞いてみなければ判らないでしょ。それに破格の報酬を約束すれば力貸してくれるかもよ」
ミニアスの言葉に、レスダルは戸惑ったがまずは話してからと、冒険者一団に声をかけた。<1/28>(カレン、スタークの行動)
自分たちが居た家に戻ると馬車はそのままであったが、ガイスの姿はなかった。念のためレポートがないか探るが、どこにも残っていなかった。
「どこに行った……。それにブルータの姿も今朝から見えない……」
カレンは一向に戻ってこないラスを思い、腹立たしく感じた。
「何でも屋を頼ってみるか……。それとも……」
カレンはブルータたちに面が割れていることを危惧して、自身に変装を仕掛ける。妙に感心するスタークを無視して、指示を飛ばす。スタークにはシーフギルドで情報を集めること、そして自分はエルフィンを捜しに行くと。
小一時間が経過して、二人は落ち合った。
「こっちはダメだ……」
カレンはエルフィンと接触は図れなかった。それもそのはず、その時間には彼らはガイスとやり合っていたからだ。
しかし、スタークがもたらした情報は衝撃的なものであった。ブルータに暗殺の指令が出ていることであった。それを聞いて、カレンはギルドが形振り構わなくなってきていることに危機を感じた。
それと同時にブルータの居所の情報が入り、口端が歪んだ。
「いいように人を使った見返りはさせてもらおう」
1/28(アレク、レイシャルムの行動)
「どんな用件かね?」
ヨークシャル邸で様子をうかがっていた二人に声をかけてきたのはラザラスであった。
「君の顔は見覚えがあるな」
「オレはしらないぜ」
ラザラスの言葉にレイシャルムは素っ気なく返す。
「ふむ、そうですか。記憶違いでしたかな? まぁいいでしょう。ヨークシャル卿に御用ですか?」
ラザラスの傍らにはリズナがおり、二人とも神官着をまとっている。とても武道に長けているようには見えないし、武器も携帯してはいない。
アレクの取った行動を知った今としてはレイシャルムも自分たちが不利な立場であることは有に知れた。
ラザラスたちは名を名乗り、レイシャルムたちの挙動不審な行動の説明を求めてきた。
その名を聞いてレイシャルムは昨年の事件に関わっていた神官であることを思い出す。
(やっかいかも……)
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