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No. 00068
DATE: 2000/02/20 01:37:10
NAME: ガイア、レスダル、ミニアス他
SUBJECT: 救出(濡れ衣)
※ミニアスの過去の話である、「古傷」を先に読まれると、彼女の行動が理解できます。
1/28(ガイア、リュート、レスダル、ミニアス、カイ他の動き)
(なんかややこしいことだな……)
扉を蹴破ろうとしたガイアはそんなことを思っていた。
ルツァークの姉の行方を捜しに、聞き込み調査を行っているときに二人組の女性に声をかけられた。
「手伝ってほしい? すまんな、あいにく今は契約中なんでね」
確かにそう言って断ったはずである。しかし、彼は扉を蹴り破っていた。
「この人の子供が捕まっているかもしれないんだ」
ミニアスと名乗った女性はそうして自分たちの事情を話し出した。リュートは気の強そうな二人の女性に早くも入れ込む姿勢を見せている。
「先を急いでいるんだ」
一度、依頼を受けてから目の前で鞍替えされた依頼主を抱えている彼にとって、こういう話は聞かぬ事である。
二人の脇をすり抜けて行こうとするが、他の者がついてくる気配が感じられない。振り返ると、ルツァークがミニアスの話を聞き込んでいるのが目に入る。リュートもアンシーもそのままである。
「力になれないかなぁ?」
(そういう目で見るな)
話を聞いてしまったルツァークは、困った表情を向ける。姉がさらわれた彼にとって、レスダルの心境が分かるのだ。母親ともなれば姉弟愛のそれより大きいものだと判断してのことだ。
結局、詳しい話を聞くことになる。
最初は、様子を見に行って子供がいるかどうかの確認程度の話だった。しかし、話していると物騒な話題が被ってきた。おそらくシーフギルド絡みの者であろうミニアスの言葉に作為を感じていたガイアは「ブルータ」の名前を聞いて眉を潜めた。
先ほど聞いたアレクの話にもブルータという名が出ていた。
「確か、噂を広めた男だと聞いたが」
その言葉に、ミニアスは意外な声を挙げる。
「よく知っているね。話が早いや。そいつが一枚絡んでいるんだよ。それでこのおばさん一人で乗り込むのは危険って止めていたところあんたたちが通りかかったのさ」
ミニアスもシーフギルドの依頼の手前もあるため、なんとか冒険者たちを誘導してやらなければいけない。万が一にブルータを倒せたり、捉えられれば礼金がもらえる筈であったのだ。レスダルをけしかけておいてなんだが、やはり一人で乗り込ませる気にはなれなかったのだ。これで息子が助け出せれば万事問題ないのである。
「ってことはなんだ? ブルータが絡んでいると、ヨークシャル卿と絡みがあるとなる。ヨークシャル卿と絡みがあらなら、そこの使用人であるこいつの姉ちゃんも絡む可能性がある。同時に誘拐されたっていうしな。んじゃあ、姉ちゃんとブルータも絡みがあるってわけだ」
傍らで説明を聞いていたリュートは、手にしているリュートの腹をポンっと叩いてみせる。小気味いい音が鳴る。
「調べざる得ないってことか……」
聞き込み情報だと、屋根を伝って女性を連れていた連中はこちらの方向に来ているということは確認済みである。おそらくこの辺りのどこかが根城ではないかと推測も立てていた。聞き込みを続ければ、当たると判断していた。それが向こうから情報ひっさげてやってきてくれたのである。子供を助けるという依頼を伴って。
「目的が一緒ならいーじゃねーかよー。あ、でも俺戦えないからね」
渋い面を見せていたガイアの背中を大きく叩いて、リュートは軽快に笑った。
「なぜ魔法を?」
扉の脇に椅子を置いて、見張りをしていた男は立ち上がった瞬間にレスダルが眠りの雲を発生させていた。
「見つかったと思って……」
ガイアの言葉にレスダルはそう答えた。確かに見方によっては感づかれて立ち上がったのかもしれなかったが、ガイアの目にはそうは映らなかった。
(子供のことで、不安なのは判るが……)
これで、宣戦布告をしたようなものである。見張りが起きたら魔法がかけられたことに気がつくであろう。そうなっては警戒が厳しくなる。止む得ず、家の前まで駆け寄る。
リュートが声を上げて歌い出した。念のために耳を押さえているがその程度では旋律の魔力は防ぎきれない。レスダルに魔法の抵抗力を高める抗魔をかけてもらい、呪歌に備える。ここで自分たちが踊り出したらシャレにならない。
沸き起こる手足を動かしたい症状は一瞬現れたが、その衝動に耐えることができた。心配なのは、脇にいるルツァークであったが、大丈夫なようである。
それを確認してガイアは扉を蹴破って進入した。
突入したガイアは目の前にいた人影を突き刺そうとしたが寸手のところで思いとどまることができた。
彼の目の前にいたのは両耳から血を流すハーフエルフの女性と顔に痣をつけられた美女であった。
「なんだお前ら」
呪歌に踊らされつつも、必死にそれを堪えようとしている男は腰に下げていた剣を抜き放つことに辛うじて成功した。
それを合図に、奥の部屋から何人もの男がぎこちない足取りで出てくる。時より身勝手に動く手足に悩まされながらも彼らはガイアたちを取り囲もうとしていた。
「姉ちゃん!」
後から入ってきたルツァークは姉の姿を確認して、喜びの声を上げる。
「大当たりってわけか。話に乗って正解だったとはね」
ガイアの気持ちとしては、この襲撃は空振りに終わるような気がしていたため、意外な展開に内心嬉しくなっていた。
「昼間に来るとは予想外でしたね」
家の前で声を張り上げて歌うリュートを見て、ブルータは不敵な笑みを作った。
「しかし、あの男の姿が見えない。魔法で隠れているのか?」
ブルータたちの耳にはシャウエル救出作戦が失敗に終わっていることが耳に入っていた。
その報告を受けて、顔に傷跡が四つある男、ドロルゴは憤慨した。
そしてこの襲撃である。しかし、ドロルゴもブルータも動じた様子はない。
「下の奴らだけでは荷が重かろう、行ってきてやれ」
「ガイスの奴も失敗とは情けないねぇ。もう少し骨がある奴と思ったが……、まぁいい。あとで懲らしめてやる」
黒い皮鎧を纏った女性は、顔にかかる髪を掻き上げて、ドロルゴの言葉に従い、階段を降りていく。
「奴の手を借りねばならんか」
ドロルゴは下から聞こえる剣戟を聞きながら呟いた。
「あのうるさい奴の息の根を止めてやりましょう」
ブルータは二階の窓を開けると、階下へ飛び降りた。
「さて、どこに潜んでいるかな?」
ブルータは完全にこの襲撃がラスのものであると判断していた。彼にもシーフギルドの動きは予測していたが、奴らが動き出すのは早くても日が沈んでからだと考えていた。
シャウエルを救出し終えてから逃げ足しても十分に足りる算段であったのだ。そうでなければ、あの男、ラスが仕掛けてきたとしか思えない。
「あの血塗れの女はお返ししましょう。しかし、計画を邪魔してくれた償いはさせてもらおう」
ブルータはそう呟いたあと、リュートに向かって走り出した。彼の前にはアンシーが剣を構えているが、迫力に気圧されて逃げ腰になっている。混乱の魔法をかけるが、ブルータは構わず突っ込んでくる。
「かからない」
アンシーは目の前に迫る男に恐怖していた。
実力の差が歴然としていた。
薙払われたブロードソードに彼女の薄い皮鎧は布のように切り裂かれた。
「わっ、ちょっとタンマ」
アンシーが目の前で斬られ、リュートは演奏を中断して逃げようとした。振り下ろされる剣をなんとか楽器で受け止めたが、その一撃でリュートは機能しなくなった。
「あ、ダメだって俺、支援なんだから」
訳の分からぬ言い訳をするリュートに、ブルータは構わず斬りかかってくる。そのとき、彼の背中に魔法の矢が突き刺さった。
「来たか、ラス」
ブルータは嬉しそうに振り返るが、呼びかけた者の姿はそこにはなかった。姿を隠していることは予測していたため、彼は不意打ちを警戒していた。そのため魔法の攻撃は予測済みで、魔力をうち破ることができたのだが、魔法を放ったのはラスではなかった。
「なんでお前が……」
間合いを取りながらリュートは驚きの声をあげる。
「なんとなく、後味がわるくて〜」
目深にフードを被った男、ザードは口端に笑みを浮かべる。
これに、ブルータは激怒した。
それを察知してザードは同化の幻影魔法を唱え、姿を隠す。
「逃がすかぁ」
ブルータは三本のダガーを同時に放った。そのうちの一本がザードを捉え、彼は再び姿を現すことになる。
「格好つけずに、素直にゴーレム借りときゃよかった」
リュートはアンシーが護衛につくということで、美人守られれば厳ついゴーレムなど不要と、作戦段階で断っていたのだ。
圧倒的優位な位置にいながらも、ブルータの表情はさえない。
「ゲームもここまでか……」
家の方から、ルツァークと人質の二人が出てくるのを見て彼は面白くなさそうに漏らした。
「あんた、ラムリアースの出だね」
姉を発見した時点で逃げ出すつもりであったガイアたちは、敵の放った衝撃派により、救出するべく姉が気絶してしまい、身動きが取れない状態であった。
カイは精霊の力を借りて、彼女を癒すことが可能であったが、呪歌に捕らわれているため魔法がかけられない。
室内では広さが限られているため、まともに剣を振り回そうとするなら一人しか戦えるスペースはなかった。
逃げられないのであれば、倒すしかない。呪歌に捕らわれている敵を端から斬りかかる。
暗黒魔法の衝撃派を数発喰らったが、呪歌の影響下であったため深手を負うことはなかった。
そして演奏が途切れ、旋律の魔力から解放されたとき、敵は後か現れた女剣士と、5人の子供たちであった。女剣士はガイアの剣筋からそういって見せた。肌に感じる威圧感。ガイアは改めて剣を構え直した。
呪歌が途切れてようやく自由に動かせるようになったカイはルツァークの姉の怪我を癒すとその場から逃げ出した。
「奴の力を借りねばならないか……」
ドロルゴは窓から飛び降りたブルータを見送った後、静かに立ち上がると、階段を降りはじめた。そして裏口から出ていく。
「逃がさないわ」
裏口から出ると、そこにはレスダルと、ミニアスが待ちかまえていた。ドロルゴの前には二体のストーンゴーレムがいる。
「リンはどこ?」
厳しい表情でドロルゴに問いつめるレスダル。しかし、ドロルゴは鬱陶しそうな表情を返すだけであった。
「お、お前は……」
この件には観戦を決め込むつもりでいた、ミニアスはドロルゴの顔を見て全身の血液が沸騰するような感覚に捕らわれていた。忘れたくても忘れられない、過去がよみがえる。
ミニアスはダガーを取り出すと、ドロルゴに斬ってかかった。
その行動はレスダルにも予測できなかった。まったく無頓着な振りをしるシーフが率先して戦列に加わるようなことなど予測できるはずもない。
ストーンゴーレムをすり抜け斬りかかるミニアスであったが、怒りに我を忘れているためか振りが大きく、ドロルゴは難なくかわしていく。そして短く暗黒語を唱えると、ミニアスの身体は宙を舞うことになる。
「まったく、見境のない娘だな……」
襟元を正すと、ドロルゴはそれでも鬱陶しいような視線をレスダルに向ける。
「リンとか言ったな。……さて、そんな奴はいたかな?」
しばらく思案して見せたあと、何か思いついたらしく口元に笑みを浮かべる。
「そうか、あのガキの親友とか言っていた奴のことだな。ファラリスの声も聞こえない奴が親友とは片腹痛いとこだが、アドルとやらをいたく心配していたな」
その言葉にレスダルは呪文を唱えようとする。それをドロルゴは片手を挙げて制止させる。
「まぁ、慌てるな。そうか、あいつの母親か。これは面白い。奴の居所を知りたいのだろう?」
杖を構えたレスダルであったが、その構えがドロルゴの言葉で解かれる。
(ここに居ない?)
この家のどこかに監禁されているのだと思っていたレスダルであったが、ドロルゴの言葉がそれを否定した。
気弾で吹き飛ばされたミニアスが立ち上がる。怒りの表情は消えていない。それどころかさらに怒りを燃やした感じである。口の中に溜まった血を吐き出すと、ダガーを持ち直して、再び斬りにかかる。
「待って!」
ミニアスには先ほどのやりとりは耳に入ってないのか、レスダルの制止を聞かずに斬りかかりに行く。
「その者を押さえなさい」
レスダルはストーンゴーレムに命令していた。ドロルゴの逃走進路を塞いでいた二体のゴーレムはミニアスを押さえにかかった。
この動きにはミニアスも対応できずに、ドロルゴに肉薄したところで取り押さえられてしまった。
「ははは、これは傑作だ。実に面白い。息子といい、母親といい奇妙な行動にでる親子だな」
ドロルゴはレスダルの行動に喝采を浴びせた。
屈辱の色に染まるレスダル。
「自己の欲求は抑えてはいけないよ。その欲望に答えるのが司祭の務めだな。よかろう、君の息子……というよりアドルくんだね。彼らは、ある騎士の暗殺を謀ろうとしている。我々の仲間になるためにね」
一番恐れていたことが現実になろうとしていた。マーファ神殿で聞いたアドルたちの境遇は、再び彼らを暗黒神に走らせる結果となったのだ。しかも、彼らの仲間になるための交換条件として騎士を殺害することを受けるなんて彼女には信じられなかった。
少なくともリンは動かないと思っていた。
しかし、昨年の事件の時も、息子は暗黒神を信仰しているからといってアドルを邪険にしたりなどしなかった。それよりも彼らの側に荷担するようなそぶりさえ見せていた。
「まさか……」
リンは友達思いの子である。マーファ神殿に引き取られたアドルたちは、結局暗黒神に染まったという理由から大人の目の届かないところで誹りを受けていたに違いない。耐えきれずに逃げ出した彼らを助けようと動くことは容易に想像ができる。例えそれが世間に認められない行動であっても……。
「その騎士の名を言いなさい!」
先ほどの迷いの色はすでになく、レスダルは杖を構え呪文を唱えようとした。
「やめときなさい」
ドロルゴのそんな言葉を無視して、レスダルはストーンゴーレムにドロルゴを倒すように指示を飛ばす。
ゴーレムの束縛から解かれたミニアスも同時に斬りかかる。
三体の攻撃は全てドロルゴの身体で受け止められ、ミニアスの斬りつけた傷口からは鮮血が吹き出した。そして留めと言わぬばかりの魔法の矢が突き刺さる。
しかし、それでも笑みを絶やさないドロルゴであった。
彼は暗黒語を嬉しそうに唱えた。その視線はレスダルを見据えて。
次の瞬間、ドロルゴについた傷はレスダルに移り、同様に鮮血が吹き出した。ゴーレムに喰らった二つの痛みも同時に体験することになる。対してドロルゴの傷は塞がれたのであった。
「ははは、だからやめときなさいと言ったのに」
ドロルゴは膝をついて傷口を押さえるレスダルに冷ややかな言葉を浴びせる。ミニアスは再び斬りかかろうとしたが、取り出したメイスによって防がれてしまう。
「あなたもしつこいですね……、おや? その顔、どこかで会いましたかな?」
ドロルゴは彼女の神経を逆なでするような発言を飛ばす。
その言葉が、彼女をさらに怒りへと導く。
やがて、手傷を負った部下と女剣士が現れ、形勢が逆転されてしまう。
命令に忠実なゴーレムは数の不利を受け、破壊されてしまう。ミニアスもまた、女剣士によって阻まれ近づくことさえできなくなる。
女剣士とガイアの一騎打ちは数度の撃ち合いの後、終わることになる。それは人質であるカイたちが自力で外に逃げ出したからでもあった。これ以上の戦いは無意味だからだ。
それを心得ていたガイアも同時に手を引く。ただ、目の前の子供たちまでも女剣士の後に続いているのが気に入らなかった。
そしてドロルゴたちは、レスダルとミニアスの見ている最中、堂々と彼らは去っていくのであった。去り際に、レスダルの勇気に免じて、彼は騎士の名前を伝えた。「エルサーク」と。
その場にスタークとカレンが到着したのはドロルゴたちが去ってからすぐのことであった。
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