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No. 00069
DATE: 2000/02/21 03:01:41
NAME: ユング、ドロルゴ、ラス他
SUBJECT: 流れの交わり(濡れ衣)
1/28(ユングィーナの動き)
ユングィーナは取り調べ中にガイスが自害して果てたため、得られるべき情報のほとんどを失ってしまった。当然、その矛先はラスたちに向けられる。
ラスは、ガイスが襲ってきたことで計画になんらかの支障が出たのだと推察するが、それを確かめることができない。
(情報が足りない……アレクたちはどうなっているんだ?)
「自害したのはファラリス神官だったんだろ? ってことはこっちが被害者じゃないか。襲われた理由なんて見当もつかないな」
ラスは急かせる衛視に向けて、そういってみせる。その言葉に彼女が眉をひそめる。
(この女がユングィーナ。私のことを捜していたというのか……)
エルフィンは視線を向けないまま、彼女を観察していた。
「それは私が判断します。名前は?」
ユングに尋ねられ、二人とも正直に名前を語る。エルフィンに関して「エルフ」とまでしか名乗らなかったが、どこの誰にもその名でしか語っていないため怪しまれることはない。
「エルフ? 何でも屋のエルフはあなた?」
「そうです」
客向けに使う笑みを作るエルフィン。
彼女はしばらく戸惑った後、口を開きかけた。そこへ三人組の一人、アーノルドが入ってくる。
「隊長、こんなものを隠し持ってました」
それはラザラスがヨークシャル卿に報告するために書いた孤児院事件のレポートであった。
受け取ったユングはパラパラと流し読みをして、手を止める。視線を走らせていくうちに、彼女の手はかすかに震え出す。
「アルフォーマ、ブローウィン、彼らの取り調べは任すわ」
そう指示を飛ばすと、ユング自身は退室してしまう。
「さて、続けましょうか?」
ブローウィンは椅子に座ると、ラスたちに問いかけはじめた。後ろにあるテーブルではアルフォーマが羊皮紙に彼らの供述を書き記そうとしている。
ラザラスのレポートを別室で読んでいたユングは、その中にフォーマ卿暗殺についての項目を見つける。ほとんどが現場の証言からの裏付けであったが、シャウエルが罪人である可能性は極めて低いと書かれてあった。
慌てて、表紙にあるレポートの記述日を確認する。それはシャウエルを暗殺者として手配された一週間も後の日付であった。
「やはり、ヨークシャル卿は知っていて手配を取り下げなかったんだわ」
やっと無実の手がかりを手に入れたユングは、自分の行動が間違っていなかったことで安堵のため息をついた。シャウエルを捕まえてから半年以上、自分なりに孤児院に関して調べ回っていたのが過ちでないことが嬉しかった。
「ラザラスっ!」
ユングはそう口にすると立ち上がった。彼女の脳裏に昨晩のことが思い出される。
ヨークシャル卿の屋敷で拉致されたことについての調べごとに手間取っているときに現れた男、それがラザラスであった。
彼は、ヨークシャル卿の古い相談役と名乗り、執事もそれを認めた。彼もまたヨークシャル卿の捜索に手を貸したいと言ってきたのだが、それをユングはきっぱりと断ったのだ。
「これは衛視の管轄である。司祭殿は別の職務があろう。手助けは無用です」
貴族の端くれであってもユングは貴族なのだ。騎士にはなれなくとも、そのプライドは高く、司祭の手を借りなければ事件解決はできないと言われているようで腹が立った。
「あの男、ヨークシャル卿の拉致についてなにか知っていたな」
このレポートを読めば、彼が昨年の件に関わっていたことも、ヨークシャル卿の立場も全て判る。
それに加え、狙ったように広まった孤児院の嘘のうわさ話。拉致事件といい作意あってこととしか思えない。
レポートが事実であるなら、うわさ話はうわさ話でしかない。嘘である以上効果は知れたものである。
「一体、あの噂は何が目的なのか……」
それはエルフィンも同様に行き着いた疑問でもあった。
1/28(ドロルゴたちの動き)
「計画は終いだな」
「ふん、あのガキがうまく事を成し遂げれば判らぬぞ」
ブルータの声に、ドロルゴが答える。
「しかし、諜報部隊を作り出していた男の対応とも思えない動きだったな」
ドロルゴたちの目論見はシャウエルの解放である。ユングから偶然にも濡れ衣を着せられ投獄されている男の話を聞いたのが事の発端である。ヨークシャル卿が絡んでいることはすぐ知ることができ、ブルータが屋敷に忍び込みラザラスのレポートを盗み出した。それにより、ユングの語ることは嘘でないことが判り、また国が無罪の人を投獄している証拠となりうるレポートを手に入れた。ラザラス司祭の位は高く、またラーダ信者であるため事実が世間に知られれば民衆の非難を浴びることは避けられないと予測できた。しかし、ドロルゴたちはこのレポートでは出ていない者の存在が気がかりであった。それを押さえなければシャウエル救出は成り得ないと思った。そこで嘘の噂を流し、国の重役たちの動きを監視したのだ。噂に踊らされたのはエルサーク上級騎士で、その取り乱し方は滑稽でもあった。これにより、一連の関係者が全て把握できることになる。これで救出のためにヨークシャルを拉致し、アレクという駒を用意して説得させ、救出を成し得る予定であった。
それが潰れてしまった以上、シャウエル救出に関わるのは危険過ぎた。アジトも襲われ人質も奪われてしまった。
しかし、ドロルゴはアレクの存在を無視していなかった。カレンやラスにも事件の真実を包み隠さず話している以上、非はヨークシャル卿にある。アレクたちが動けばシャウエルは釈放されるかもしれないと考えていた。そこで最大の障害となるのがエルサーク上級騎士の存在であった。シャウエルの釈放を一番快く思わない人物である。この駒をなんとかしない限り、現場を退いたヨークシャル卿が動こうともなんとかなるとは思えなかった。
そこに転がり込んできたのが、アドルたちである。部下の一人に接触して、「仲間に加えてくれ」ということで連れてきたのだ。
事情を聞いてやれば、孤児院の子供だとわかりドロルゴは嬉しい笑みを浮かべる。
子供を仲間に加えることは負担が大きいことを悟らせ、交換条件を持ちかける。エルサーク上級騎士の暗殺であった。子供であり、ファラリスの声が聞こえ、シーフとしての訓練もたたき込まれているのであればこれ以上暗殺に向いた人物はいないくらいであった。「成功しなければ、妹弟たちの糧がないと思えよ」
最後に念を押して、アドルとそれについてきたリンという男を解放する。その後をドロルゴの使い魔であるインプに追跡させる。
アドルの暗殺が成功すれば、シャウエルが釈放される率も上がる。初案で助け出せないことに不満を感じたが、失敗したことを悔やんでいても始まらない。
彼はなんにしてもシャウエルを獄中から引きずり出す必要があったからだ。
1/28(ラス、エルフィンの動き)
ブローウィンたちはラスの「無関係」という言葉を怪しんだ。
この衛視たちが自分たちの邪魔をしないか、ラスは言葉巧みに探りをいれる。そして一刻も早く解放されるように。
「何故、そんなに急いでいるのかい?」
しばくらく思案したあと、ラスはこう話し出した。
「依頼人に対する守秘義務ってことで、詳しくは話せないけど、仕事絡みで、仲間が1人、とあるところに捕まっている。それを助けに行かないといけないんだ。だから……」
「急いでいると……。判りました。……ところで、こちらも調べごとをしているんですが、最近広まっている国を罵倒するうわさ話について何か情報を持っていませんかねぇ」
ブローウィンはこれといった確証があっての問いかけではなかった。言うならば職務上当たり前な質問を繰り返しただけに過ぎない。それが意外な反応が返ってくる。
「たとえばの話、もしその情報を持っているとしたら…それに関してあんたらはどう出る?」
1/28(ラス、ガイア、カレン、カイ他の動き)
「なぁ、ブローウィン。なんがどうなっていんだ?」
「俺に聞くな。こいつらに聞け」
アルフォーマとブローウィンはため息をついた。
ラスたちを取り調べでうわさ話についての感触良い返事を聞かせてもらい、協力する姿勢を示した。するとラスは同行してもらえないかと言う。そうすればうわさ話の貴重な情報が得られるかもしれないと持ちかけたのである。内心としてはカイをさらったブルータたちに衛視をぶつけることができればと考えていた。
「その判断は隊長に伺わないと」
ブローウィンはそう答えたのだが、別室から戻ったユングは事情を聞くと、彼らに同行するように命じた。そしてユングはラザラスに会いに行くと言って、ジャングル・ラッツの三人を引き連れて行ってしまった。
ブローウィンたちの前にはラスたち他、多数の冒険者たちがいた。一戦あったらしく、怪我を負っている者や壊された楽器の破片が散らかっていた。
「さて、事情を聞かせてもらえないか?」
カレンとラス、カイがなにやら話している中、ブローウィンはうわさ話の有益な情報について説明を求めた。
ドロルゴたちが大人しく引き下がったから良かったものの、女剣士やブルータが本気で動いていたら、死者が出ていたに違いない。
アンシーの傷はカイが癒すことで、意識を取り戻した。レスダルの傷も浅くはなかったが、カイの申し出を断る。カイは、このときになってはじめて自分の耳に付けられた傷を癒した。しかし、欠損された耳は元には戻らずただ傷口が塞がっただけである。
ルツァークは姉との感動の再会を果たした。
その姉の美貌にリュートが早速くどきはじめているのを、ガイアは肩をすくめて笑ってみていた。
何度もお礼を言うルツァークとその笑顔にガイアは冒険者の魅力を再認識した思いであった。
(しかし、事情が複雑そうだな……)
裏口を抑えていたレスダルとミニアスの表情は暗い。息子が居ないことは推察できたが、それ以上になにか落ち込んでいる様子であった。ミニアスに至っては悔しさの表情を隠そうとしている。
そこへカレンたちがやってきた。
(なんで、カイがここにいるんだ?)
カレンは口には出さず、ラスの姿を捜した。しかし、彼の良く知る人物はそこにはいなかった。そしてカイの耳が半分に切られていることに気がつく。見れば耳を切られたときに流れ出した血で全身が赤黒く濡れていた。
「ちょっとごたごたがあって……」
作り笑いを浮かべるカイにカレンはため息をついた。
「何がどうなったか説明してくれ」
カイやガイアたちが状況を説明しているとラスとエルフィンが衛視を連れてやってきた。
駆け寄ってくるラスにカイは口を開きかけるが、何も言い出せなかった。ラスも同様に声をかけられないでいた。
そんな二人を気遣うのか、ガイアがラスたちに話しかけてきた。
ここに来て、ようやくガイアも事情が飲み込めてきていた。レスダルが口にした昨年の事件、シャウエルの投獄、それを助け出そうとするファリスを語る奴ら。
それに加え、シーフギルドの動きとラスがもたらしたガイスの死の情報。しかし、それらが集まってもシャウエルを救出する動機が見つからなかった。
「大丈夫か?」
リュートはザードに声をかけた。だが、フードの奥に隠した口からは何も答えなかった。
「ほら、おまえさんの取り分だ」
そういって、革袋を放り投げる。
意外そうな顔を向けるザードに、リュートは「助けてくれてありがとよ」と言ってルツァークたちの方に戻っていく。
その革袋を握りつぶすかのように力を込める。
ブルータの一戦は虚をついたにもかかわらず、破れてしまった。まだまだ魔術の力が足りないと痛感した。そしてこんな自分の行動にも評価をくれるリュートたちに向けるべき顔がないと思った。
彼はルツァークたちには何も言わず、その場を去った。
「私もまだまだよね」
アンシーはそう言って、「修行を重ねなきゃ」と言って彼らの元を去っていく。「冒険って辛いけど、いいもんだね」とも残して。
「ガイア、お前も来ないか?」
リュートがルツァークたちを連れて行こうとしていた。再会を祝そうというのだ。
「俺はいい」
短く断るガイアに、リュートが意外そうな顔を見せる。それを見てガイアは目配せをしてレスダルのことを悟らせた。
(なるほどね、あんたらしい)
軽く手を挙げ、リュートたちは彼らの元から去っていく。
「エルサーク上級騎士を暗殺?」
声を張り上げたのはブローウィンであった。
その名は彼らに命令を下した人物である。
「その人の居場所を知りませんか?」
レスダルは衛視に詰め寄る。息子が騎士を殺した片棒を担がせる真似はさせられない。なんとしても防がないと。
事情を聞いた衛視たちも、その言葉を無視するわけにはいかなかった。噂を流した人物がブルータという男であること、シャウエルを釈放させようと企んでいたことなどを聞き、ブローウィンたちもようやく事情が見えてきたのだった。
「お前は服を着替えてこい」
ラスはカイにかけた言葉はそれが最初であった。
カイは声に出さず、こくりと頷く。
カレンはラスの耳打ちにより、エルサーク上級騎士がシャウエルにも関係していると聞きレスダルたちに同行する。
ミニアスは一人、ドロルゴの行方を捜すと言って町中に消えていった。
こうして、レスダルをはじめ、ガイア、ラス、カレン、エルフィン、スターク、衛視がエルサーク暗殺を阻止するべく動き出した。
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