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No. 00085
DATE: 2000/03/16 03:05:15
NAME: アン・ツァン
SUBJECT: 炎立ち館朽ち主はただ土へ還るのみ
新王国歴490年
父も母もおらず、泥水を啜り、虫を喰らい、同じ境遇の者と奪い合うことでのみ繋いできたツァンを拾い上げてくれたのは、一人の綺麗な身なりの男であった。
身なりは綺麗でも、筋肉質で巨大な・・・動く山のような、そんな雰囲気の男だった。
男は幼いツァンを己の館・・・そう、「館」である!・・・へと連れてくると、身なりを整えさせ、食事を与えた。
「何故俺なんかを?」
そう聞いたツァンに対し男は
「お前を育てれば、良い部下になる、そんな気がした」
とだけ答えた。
名前を聞くと「アン・クォ」とだけ答えた。
その次の日から、ツァンは文字の勉強から始まり、剣術、兵法をたたき込まれた。優しかったクォは、ものを教える時は非常に厳しかった。
しかし、どんなに厳しくても最後にはクォは
「お前が兵法を一つ学べば、剣を一秒早く振るえるようになれば、それだけ俺の館の守りは強固になる。お前は俺にとって最高の部下であり息子なんだ。」
と言った。
それまで誰にも必要とされず、父も母もいなかったツァンにとって、その言葉は何よりだった。
クォに褒められたくて、クォを喜ばせたくて、ツァンは一心に剣を振るい、文字を学んだ。
幼い彼の手は血まみれになった。それでもツァンは剣を振ることを止めなかった。
新王国歴494年
ツァンは一つの書物とであう。
古、動乱の時代の一人の騎士の残した書物。
金で動くは冒険者
信仰で動くは神官
そして、仁義と主君への念で動く、それが騎士。
仁義と主君への念で動く、それが騎士。
ツァンはその教えに同調し、何度も何度も本を読み返した。
新広告歴497年 夏
暑い季節だった。
いつもならば稽古に励む時刻であったが、突如クォに呼び出された。
いつもと変わらぬ、山の如く雄大なクォがそこにいた。
「ツァン、お前がわが館に仕え早7年だ」
「もうそんなにもなりますか。まだ幼少の私を拾いここまで育てていただいた礼、一生かけても償えるものではございません。」
「一生?その若さで俺に一生をかけると言い切るか?」
「仁義をもって主に仕える、それこそが騎士でございます。」
「その言葉、嘘偽りはないな?」
クォは唇をゆがめ、問うた。
「命の恩であり、義理の父である主に、何故嘘をつけましょう?」
「ならば、今日この時より、お前は俺に仕える騎士だ。」
「!!」
ツァンは目を見開いた。
「これを遣わそう。」
クォは腰に携えていた曲刀をツァンへ渡す。
「もう随分と前、俺が騎士として主に仕えていたころに、同じ館の鍛冶屋に造らせた代物だ。」
「そんな大層なものを私に?」
「いやな」
クォは頭を掻きながら続ける。
「その剣は『騎士の剣』なのだ。己以外を、主を守る者のみが使える代物なのだ。」
「・・・別段そういった魔法がかかってるわけではないんでしょう?斯様な美しい剣見たことがない・・・私には勿体のうございます。」
「別に呪いではない、しかしな、俺は鍛冶屋に『騎士の剣』を頼んだのだ。俺はもう騎士ではない。だからこの剣は使えぬ。約束を違えることになるのでな。」
「それでは・・・謹んで・・・」
ツァンは一礼し、部屋をでた。
それから数日後
突然の出来事であった。館は火に包まれた。
強盗・・・元々使用人の数が少なく、田舎の新米領主であるクォの館を狙った強盗団であった。
ツァンは飛び起き、直ぐ様主の部屋へと走った・・・まだ火は回っていない。今ならば逃げ出せる・・・しかし逃げ出すよりも前に彼の頭を過ぎったのは、主の安否であった。
「ご無事ですか、お館様!」
クォはすでにおきており、炎に慌てる風もなく、ツァンを見た。
「騎士として最初の働きだな。強盗如きに遅れをとるなよ!」
「御意!」
ツァンとクォが外にでると、松明やらを持った男が8人。
「一人4人か・・・やれるな?」
「傭兵如きに・・・私を軽んじてませんか?」
「では、いくぞ!」
クォは一足飛びで間合いを詰めると、たちまちに一人を切り捨てる。
と・・・
「万物の根源たるマナよ・・・」
突如後方の男の手が光ったと思えば、輝く刃がクォの胸を貫く。
「・・・」
クォは一瞬黙り、そして血を吐き散らした・・・どう見ても致命傷だ。
「お館様!」
ツァンは叫ぶ。
「馬鹿者!敵を眼前に動揺する者がいるか!」
クォは叫び返し、そして続ける。
「これは命令だ!敵を倒し、生き残れ!」
「そんな・・・」
言いかけ、ツァンは言葉を飲み込む。そして
「・・・御意!」
剣を構える。敵は残り7人・・・うち一人は魔術師らしき男だ。
兵法の書は語る。
所詮一方向からの敵ならば、武器を持っていれば並べて3人。つまり、仮に相手が20人であっても、周りこまれなければ一度に相手するのは限られる。
呼吸を止め、相手のスキを狙い振りおろす・・・。
(軽い・・・!!!)
それまでの練習用の刃引き剣に比べて、格段に軽く、そして扱いやすい。
強盗共がまるでわら人形のように打ち倒されていく。ツァンはまるで重量がないかのように剣を振るい続けた。
気がつけば敵は全滅していた。
落ち着いて身体中を見回せば、無数に傷がついている・・・火傷のような後は魔法を躱し損ねた後だろうか・・・。
「お館様!」
我に帰り、クォに近寄る。
既に息はない・・・真っ赤に染まった地面が、その傷のおびただしさを語っている。
ツァンは踵を帰すと、そのまま歩き出した。
装飾品を売ればいくらか金になる。その金を元手に何かしら始めれば良い。
2週間後のムディールの中央都市
「傭兵として登録をしたいのだが・・・」
「それでは、名前を」
「・・・ツァン・・・アン・ツァンという」
To Be Continued
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