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No. 00087
DATE: 2000/03/16 06:49:42
NAME: メリシス・ナッシュー
SUBJECT: 傭兵時代
レイドからエレミアの近くの村、故郷に二人で帰ってきた。
傭兵という職を止め、再び故郷に帰ってきた。
4年前、成人したばかりの俺は、一振りの剣を持って家出当然に家を飛び出した。親の職業を継ぐことは嫌だった。ただの鍛冶屋っていうのは、少年にとって格好いいものではなく、平凡だった。
俺は強くなりたかった。傭兵ギルドに入れば、強くなれると俺は思った。親に「小柄で力のないお前が傭兵になんぞなっても死ぬだけだ」と俺の夢を挫こうとさせた。だが、俺は強くなりたいが為、家出同然で、エレミアを後にした。
レイド旅は楽なものだ。ロマール行きの隊商の荷物に紛れ込んで、馬車に揺られ、ゆったりと快適な旅だった。レイドまでも同じように紛れ込んだ。その時見つからなかったのが今でも運が良かったのだと思う。それでレイドに着いた俺は、一目散にレイドの傭兵ギルドで志願者として名乗りを上げた。幾らかの試験をパスし以外にすんなりと傭兵になれた俺は、自分の実力を認められたのかと思った。ただ、向こうは人数集めのためだけとしか考えてなかったようだが。
志願してから俺はすぐに近くのゴブリン退治に駆り出された。予想される相手の数は10匹、俺達の部隊も10人で構成された。その時の嬉しさや期待、そしてそれは自分の強さを見せるチャンスだと思い、喜びに満ち溢れていた。ゴブリンの噂は良く聞く。卑屈なモンスター。実力もかなりのものと聞いている。しかし、不安よりも、実践を体験できる期待や、自分の強さに自惚れていた俺には、「ゴブリンなんぞ俺が10体でも相手になってやる。」と、意気込んでいた。だが、現実は違った。
ゴブリンが隠れている場所に着いた俺達の部隊の10人、それにゴブリンの姿を確認した結果、向こうも同じ数、情報通りだ…そしてゴブリン達が現れたとき俺は、一目散に切り込んだ。その時の隊長の指示も聞かずに先陣を切って突入。その結果は言わなくても分かるだろう。新米の傭兵である俺は、一匹のゴブリンに苦戦し、体中に怪我を負った。そして、周りのゴブリンは、「敵は俺だけ、一匹しかいない。」とでも会話するかのように、俺の周りを取り囲み始めた。その時の恐怖、その時の自分の弱さ、無謀さに、俺は心底後悔した。だが、俺が的になってくれたお陰で、仲間の傭兵達は、ゴブリンの奇襲に成功し、全てのゴブリンを退治することが出来た。仲間達は無傷とまでは無いにしても、軽傷で済んだし、俺もかなりの傷を負ったが息があった事も幸福である。しかし、最悪な初陣だった。
結局、結果が良かったためか、俺の罰は隊長からは一発殴られただけで済んだ。俺自身も今回のことがよい教訓となった…。ただ、ゴブリンとの戦いの最中に見た、黒い恐怖を拭い去ることが出来なかった。見たこともないような黒い固まり、生きているようなあの感じが、忘れられなかった。
それから3年と数ヶ月、ゴブリンでも対等に戦えるようになってきたし、傭兵の仲間とも仲良くなった。その時、ある女性のシャーマンに恋心を抱くようにもなった。心にゆとりが出来た証拠だろう。年は向こうが5歳も上だったが、俺達は傭兵達の間でも公認されるような仲にまでなっていた。彼女の存在が俺に勇気を与えてくれていたから、俺も傭兵でいられたのだろう。あの、初陣の時の恐怖の物体の正体を彼女に相談した時に、彼女から、「精霊との交信が出来るかも知れない」と言われ、手取り足取り精霊についての事、考えなどを教えられた。当初、精霊魔法が使えると思った自分に嬉く、彼女のことは二の次だったが、今となっては彼女の側にいられることが、俺にとって何よりも幸福であった。彼女も俺の何処に惹かれたのかは判らなかったけど、俺のことを特別な存在として見てくれていたようだ。そして何度も深い関係を持った。だが、ある日、不幸が起きた。
彼女は昔から冒険者に憧れていた。そしてある討伐の前日…「この戦いが終わったら、冒険者にならない?」と、俺に聞いた。無論俺は彼女に頷いて答えた。彼女は俺よりも剣の腕は劣るが、精霊魔法だけはかなりのものでノームの精霊を石に封じ込めるという高等な技術をも使っていた。俺は3年近くも教えられたのに、上手くサラマンダーすら操れないが。
今回の討伐目的は近辺の山賊退治。数は20そこそこで何時ものように、死ぬこともないだろうと思っていたが、戦いは何時死ぬか判らない。気合いを入れ、いつもよりも張り切って、戦いに望んだ。
今回の相手は人間だということもあり、夜に奇襲すると言う作戦。俺自身も精霊の感知が多少なりとも出来るため、夜の戦いでも、他者に劣ることはない。彼女も勿論同じだ。そして、俺達の部隊15人は夜に奇襲を決行した。
隊長の命令に従い、一斉に山賊のアジトに弓を放った。慌てて足の浮いた山賊達を退治するのにはそう時間はかからなかった、山賊だけなら…山賊達が大方半分ぐらい片付いたと思ったその時、俺達部隊の後列にいた援護隊の方から悲鳴がした。何があったのかと思い、俺は援護部隊に不意打ちをした相手の所に走った。たいまつの明かりで微かに判った…。黒い肌のエルフだった。一瞬、童話でしか聞いたことがなかった、忌まわしきダークエルフに恐怖しつつも、守るべき恋人の前に立ち、ダークエルフを迎え撃った。数は3人、数では一応押していると思ったため、優位にあるのは俺達だと、恐怖を払いのけ、武器を構えた、が、こちらの間合いにはいる間もなく、向こうの放った魔法、火の精霊の召還で、俺は体中に火傷を負い、動くことも出来なかった。下位の精霊なのに、なんて力を持っているんだと、驚きながらも立ち上がろうとしたが、立ち上がることすら出来なかった…。それほどに、ダークエルフの放った魔法は強かった。
薄れゆく、自分の意識の中、彼女が俺の傍らで、生命の精霊に呼びかけ、傷を癒してくれていた…。意識がハッキリ戻った俺に、戦場の中にあるにも関わらず、にっこりと微笑み、俺に勇気を与えてくれた。しかし、その笑みを浮かべたまま、彼女は俺に倒れ込んだ。背中にはナイフで刺されたような大きな傷があり、彼女は既に息絶えていた…。そして、その彼女の背後は、ダークエルフがナイフをもって、立っていた。その彼女の血のついたナイフを、ペロリと舐め、俺をせせら笑った。
俺は吠え、涙を流した。
「彼女を殺めたお前だけは許さない!お前だけはああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」その叫びと同時に。俺はダークエルフに斬りかかった。ダークエルフが俺の叫びに一瞬躊躇した為か、俺は戦いを優位に進める事が出た。力では少なからずとも、エルフに増していたため、力で押して、相手を少しずつ負傷を追わせた。そして、一瞬の隙をついて、ダークエルフは俺から逃げ出した。
「逃がすかあぁぁぁぁ!!……サラマンダーよ、俺の召還に応じて、かの者を焼いてくれ!」
自信はなかった召還だったが、そんなもの関係なかった。俺は必死にサラマンダーに呼びかけ、あのダークエルフを殺して欲しいと願った。その召還は見事に成功し、ダークエルフに致命傷を与えた。地を這ってでも逃げるダークエルフを見て、俺はせせら笑った、無様なその逃げざまを。俺の愛するものを殺したそのダークエルフを、俺は腕、足を切り落とし、目をくりぬき、たっぷりといたぶった。そしてそのダークエルフは死んだ。
怒りが収まり、回りを見渡した。俺と部隊長以外、生きている者はいなかった。隊長も動くのがやっとというくらい負傷していた。だが、俺は、仲間の死よりも、自分の恋人、愛する者を失ったことで、涙に暮れた。この時ほど、自分の運を呪った。自分だけ生きていることが彼女を失ったことが…。俺はその日、日が昇り、沈むまで、ただただ、涙するしかなかった。
その後日、俺は傭兵ギルドを後にした。彼女の成りたかった冒険者にでもなろうかなと、考え、彼女の持っていた銀のペンダントを握りしめた。その前にエレミアの故郷にでも彼女を埋葬しようかなと、彼女の遺体を抱え、これからの人生を考えて、エレミアに向かった。実際、彼女の昔のことを俺は良く知らない。故郷も知らない。だから俺の故郷に埋葬した方が良いのかなと。
それから一ヶ月、彼女のペンダントは塗れぬ日は無かった…
風が踊る、俺達の行く明日へ…
シルフは導く、俺達の目指す場へ…
俺達は、風のように、冒険をする…
自由に、気ままな旅を…
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