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No. 00090
DATE: 2000/03/17 02:26:52
NAME: アン・ツァン、鉄
SUBJECT: 雪上試合
新王国歴504年・・・
雪深く、寒い夜の事だった。
新雪が月光を反射してか、ひどく月が明るく見える。
味方の仕入れた情報だと、ここいらにロマール軍の傭兵部隊のベースキャンプあるらしい。
ツァン達の部隊の仕事は、その部隊・・・の破壊にある。夜闇に乗じての奇襲・・・そのはずであったが、この明るさではもはやそれも不可能であろう。しかし・・・
「攻撃を仕掛けるぞ」
もとより奇襲等する気はない。そのようなことは傭兵のやることだ。騎士の本分ではないのだから。
部隊の一人が矢をテントへと放つ。
幾人かの男がテントからでてくるのを確認すると、姿を現す。
「ロマールの傭兵団と見受ける・・・命をいただこう!」
敵の答える間もなく切り伏せる。
一人、二人・・・
(初めて人を斬った頃を思い出すな・・・最初の頃は一人斬る度に胃の中身をぶちまけたものだが、今ではそう気にはならない・・・無論気分の良いものではないが。)
そして最後の一人・・・相手を見すえる。
歳の頃はツァン同じ位だろうか。身長もそこそこ高く、体格の良い男だ。
しかし何よりもツァンが驚いたのはその「構え」であった。
(そこらの傭兵とは違う)
恐らく、今まで戦ったどの「兵」よりも強かろう・・・心してかかる相手だと分かった。
「名を聞いておこう。」
静かに問う
「禿鷹傭兵団所属・・・スカイアーだ・・・。」
・・・
「俺はムディール国の騎士、アン・ツァンだ!お前を黄泉路へ叩き落とす者。その名前覚えておくと良い!」
スカイアーは答えない。
剣を構える
もう他に動く者はいない。
緊張が走る。
「・・・」
スカイアーが息を吸い込んだ
「鋭!」
一足飛びに踏み込み、剣を振りおろす!
(こいつ・・・!!!)
間一髪で剣を払い間合いをとり、驚愕する。
(・・・俺より早い!!!)
「鋭!応!」
スカイアーは矢継ぎ早に剣を振るう
(反撃に移れぬ!こいつ・・・何故踏み込みづらい雪上で斯様な斬撃を!)
(らちがあかない・・・!)
ツァンが攻撃に転じようとした瞬間!
「発!」
スカイアーの剣がツァンの頭を捕らえた!
(しまった!よけ切れない!!!)
スカイアーは剣を振りおろし
ツァンは倒れ込む
「・・・無念だ」
間一髪身をひき、ツァンは致命傷こそ免れた・・・左目の上には痛々しい傷が残っている。
「片目ではお前には勝てない・・・殺せ」
スカイアーは剣を鞘へと納める。
「何故剣を納める?俺はまだ死んでいないぞ?」
スカイアーは答えない。
そのままツァンに背を向け、静かに雪の上を歩き始める。
「何故だ!これは死合ではないのか!?待て!」
スカイアーは振り向かない
「貴様!その名覚えたぞ!禿鷹傭兵団のスカイアー!」
しんしんと積もる雪の中、ツァンの声に答えるのは異常に明るい月だけであった。
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