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No. 00103
DATE: 2000/04/09 04:19:00
NAME: カイ他
SUBJECT: それぞれの明日へ
PL:このエピは、4/12の話です。
ザードの場合
ここは、とある町の酒場。どこなのかは、ザード本人もよくわからない。なんと言っても、地図どおりに来たはずなのに、見たこともない町に来たからだ。
「ここ? パダだよ。あんた、そんなことも知らずにここまで来たのかい?」
「………は?」
しばし、呆然とした後、もう1度地図を開く。しばしの沈黙。
「いやぁ、はっはっは。今度は地図を縦に見てしまったようですねぇ」
『バカかお前は』
店内に和やかな笑い声が響くと同時に店員全員からツッコミが入る。なかなかノリのいい店員達である。
それまでは、ザードの赤マントにフード、という見ようによっては衛視に通報されてもおかしくないような外見のおかげで、近づいてくる客など誰もいなかったのだが、今のやりとりで興味を覚えたのか、客が3,4人、ザードの席に近づいてくる。
こうなると、仲良くなるのはすぐである。そして、酒場で始まるものと言ったら……
「がっはっはっは。ほれ、もっと呑まんかい!」
「はっはっはっは!まだまだ呑めるぜぃ!」
………一時間後、一人倒れた。
………二時間たって、二人倒れて残ったのはザードと隣に座っていたドワーフだけ。
「ほっほっほ。まさか、わしと対等に呑み比べができる奴が村の外にもおるとはのぅ。しかも、ドワーフでもないと来たもんじゃ。全く、世の中は広いのぅ」
「ボクも同じですねぇ。ドワーフってのがこれほど呑めるなんて知りませんでしたよぉ? さぁ、どっちが勝つか、勝負と行きましょうかぁ?」
そして、ザードはフードの下から不敵な笑みを浮かべた……
………結局、夜明け近くに店の火酒が全てなくなるまで呑み比べは続き、勝負がつかないままお開きとなった。
ちなみに、勘定は潰れた3人に任せている。
「今度は、道を間違えないようにしないといけないですからねぇ…」
昼過ぎに、昨日(というか今日に入ってからなのだが)泊まった宿を出て、今度こそ間違えないように、街の南口に向かうと、門のところに昨日のドワーフが待っていた。
「どうしたんですかぁ? まさか、昨日の勝負をもう一回とか言うんじゃないでしょうねぇ?」
「ほっほっほ。まさか。そんなに金使ったらわしが破産してしまうわい。ただ、お前さんが気に入ったのでな。旅は道連れ、一緒にいこうかと思っての」
「………酒代は出せませんよぉ?」
「ちゃっかりしとるの。わしの名前はボーディーじゃ、よろしくの」
苦笑しながら自己紹介するボーディーに、ザードは微笑で応じる。
「僕の名前は、ザードです。よろしくお願いしますねぇ」
……ちなみに、この2人がザードの故郷であるタラントにつくのは、あと2,3回道に迷った後のことである。
ランスロットの場合
…………どぉぉぉぉぉぉん…………
その音とともに、いつもの鉄の扉から煙が出てくる。
「全く……今度は、なにやってるんだか」
苦笑しながら、カウンターの近くにある紐を引く。すると、店にある窓という窓、ドアというドアがあっというまにぱたぱたと閉まっていく。
博士(店主なのだが、そう言っても無視されるのでこう呼んでいる)の言うところだと、
「備えあれば憂いなし、ということじゃな」
ということらしいが、それをやるなら、煙が出ないようにした方がいいんじゃぁ…と思ったりもするが、給料を差し引かれると生活が困るので、あえて口出しはしていない。
「おーい、ランス! ちょっときてくれんかー?」
ランスロットは、苦笑しながら鉄の扉を開けて中に入っていく。
多少咳き込みながら中に入ると、博士が煙の中からぬぅっと出てくる。
「…今度は、なに作ってたんですか?」
「なに、エクスプロージブ・ブリッドはスリングでしか使えんのかと思ってな。矢の先端に取り付けて使ってみたんじゃが…先端が重くなりすぎて上手く飛ばんようじゃな。思ったよりも飛ばんで、こうなった、というわけじゃ」
そう言いながら、床の一部を指差す。おそらく、そこに着弾したのであろう。石造りの床が弾けて、破片をあたりにばら撒いている。おそらく、このせいで煙が出たのであろう。
「……近所迷惑になるようなことは、なるべく避けましょうよ…」
「なにを言う。発明には失敗と周りの協力が不可欠というではないか…と、お客のようじゃな。悪いが、わしはここの部屋の整理がある。お前が相手してくれ」
「……はぁい」
なにか、うまくはぐらかされたような気がしないでもないが、とりあえず、お客の相手に向かう。
…武器商人。これが、今の自分に天職なんじゃないか。ランスロットはたまにそう思う。
これなら、人を殺さないでいい(妙な武器の実験で自分が死にかけることはあっても)。
これ以上、武器を使わなくていい。誰かに武器を売るということは、その武器で誰かを傷つけるわけだから、結局はやってることに変わりないのかもしれない。
でも、今は。ここで働いていこうと思う。どんな経験でも、人生の役に立つと信じているから。
いつか、きっと、自分にあったものが見つかると信じているから。
そうして、ランスロットは今日も武器屋で働いている。
ヴェイラの場合
「ん〜っ…今日も、いい朝だね〜」
オランから西に行った街道沿いにあるとある村。西部諸国一周を目的に旅だったヴェイラは、最近知り合ったアルフィリアとともにとりあえずの目的地であるエレミアに向かっている。
で、このロマールまでの連れとなったアルフィリアであるが……ヴェイラにはどうにも、よくわからない人物だった。
方向オンチ…これはまだいいのだが、言動が、とぼけているのか、ただ単に「天然」なだけなのか、いまいちよくわからない。まぁ、そんなに早く相手のことがわかるはずもないので気楽に構えているが、毎朝、もと来た道を戻ろうとするのはやめて欲しいな、と思っているヴェイラだった。
とりあえず、旅の目的は…エレミアに行って、ミルディンの遺骨を養父の元に届けること。そして、その後は世の中を見て回ること。
以前、マスターに言われた、
「もっと世界を見て回ってきて欲しい」
と、いう一言に触発されたわけではないが、ミルディンも西部諸国を回った時があった、と思いだし、彼がなにを考えたのかを知りたい、というのが旅にでた本当の理由だった。
「どうしたんですかぁ?」
そんな物思いにふけっていると、後ろからアルフィリアが声をかけてくる。
「こっちも準備できました〜。そろそろ行きましょうかぁ」
「うん、出発〜…って、だから! そっちに行ったらオランに戻っちゃうんだってば!」
「え〜? そうでしたっけ〜?」
道に迷いそうになった、という自覚が全くないアルフィリアを引きずりながら、東へ向かう街道を進む。
……どおりで、ラムリアースに行こうとして、アノスに行っちゃうはずだよ……
そんなことを考えながら、ヴェイラとほとんどお荷物となっているアルフィリアを連れて、彼女達の珍道中は今日も続いていく。
カイの場合
ぱちぱちと燃える焚き火を見つめながら、カイは一年前、村を出たときのことを思い出していた。
…忌まわしい記憶。でも、けして忘れられない…忘れてはいけない、記憶。
ため息をつきながら、首を横に振る。
一年前と、していることはあまり変わってはいない。ただ、目的地が違うだけ。しかし、一年前の旅と決定的に違うところが一つだけあった。
それは、寂しいという感情。前の旅の時には、そんなことを思ったことは一度もなかった。……いや、おそらく、寂しいと思い過ぎて、その感情が麻痺していたのだと思う。
正直、ラスがここにいない、というだけでここまで寂しいとは思わなかった。そして、ラスが近くにいないからこそ…自分が、ラスのことをどんなに大切に思っていたか、ということがよくわかった。
浮気っぽいところ(本人にその気はないのかもしれないけど)や短気なところ。欠点みたいなところも含めて、彼が好きなこと。
しばらく、そうしてオランにいる(はず)のラスのことを考えていると、草むらからがさり、と音がする。
側においてあった槍をとり、じっと草むらをみつめる……
と、草むらから出てきたのは一匹の兎だった。
ため息をついて、体の緊張を解く。
「はぁ……やっぱり、3時ごろ通った村で休んだ方がよかったかな…?」
後悔先に立たず。旅だってから、失敗した、と思えることはとっくに2桁に昇っている。
「この先…どれくらい失敗するんだろ…?」
なんとなく、先行きに不安を覚えながら、カイは夜空に輝く満天の星空を見上げた……
1人は「自分」を見つけるために街に残った。1人は、残された者として、先に逝った人がなにを感じていたのかを知るために西へ旅だった。1人は、心を強くするために東へ行った。そして、1人はなんとなく故郷へ。各人、思いは様々に。彼女達はそれぞれの道を歩んで行く。
昨日も、今日も。……そして、明日も。
fin.
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