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No. 00107
DATE: 2000/04/15 18:12:41
NAME: シタール他
SUBJECT: 解呪
新王国歴512年2の月の16日。
オーファンの歓楽街にあるうらぶれた酒場。今にも軋んで床が抜けてしまいそ
うなおんぼろの舞台。聴衆の大半は聞いてるかどうかもようわからん酔っ払いど
も。お世辞にも好条件とは言えないような場所で俺は歌を歌ってる。
オランを出て、もう5ヶ月が過ぎた。イーシャンがマーファの啓示を受け、
「ライカの呪いを解くには西へ行け。」そう言われこちらにやって来た。今のと
ころの手がかりは全くと言って良いほど無い。おまけに、オーファンについてか
ら呪いの恐怖に精神と肉体を摩耗しているライカはやせ衰え、旅をするのにも弊
害が出てきた。
今は、歓楽街にある安宿に泊まり、ライカが旅に出れるほどの体力が回復する
のを待っているが。それもいつのことになるのやら。日々の生活費を稼ぐためこ
うやっていつもならやりたく仕事をやっている。喰うためだ。プライドと稼働と
か何か言ってられない。
数曲を歌い終わり、おざなりな拍手が帰ってくる。いつものことだ、そう思い
つつ楽屋へと戻ろうとすると。店の親父が扉の前に立っていた。「お前に客
だ。」そう言って中へ入るように促された。中に入った俺は思わぬ客に驚愕し
た。中には学院のローブを着た60代のぐらいの老魔術師が立っていた。名前は
オーヴィル…ライカの祖父だ。
俺がライカを連れ去ってからその歳でたった1人で暮らし、色々と心労が重な
ったのだろう。前に会ったときには黒かった髪もひげも既に白く、顔の皺も増え
た気がする。もちろんここに来たと言うことはあいつを取り戻しに来たと言うこ
とだろう。
「君の顔など二度と見たくもなかった。」
しばらく、無言状態が続いたがその静寂を破るかのようにそう切り出してき
た。
「孫のことももう諦めていた。『どこかで君と幸せに暮らしているのならばそれ
で良い。』そう、思えるようにこの2年間ずっと過ごしてきた。」
そう言うと一度間をおいた。それは本当に僅かな間だったのだろう。しかし、
俺には凄く長く感じられた。
「ところが、君たちはこの街へ現れた。ライカは衰弱しきってベットから出れな
い状態と聞く。これではライカの母親の最後と同じ状態ではないのか。君は私に
むかって「どんなことがあっても守り抜く。」そう言って出ていったのではなか
ったのかい?」
自分の娘も冒険者となってエルフとの間に子供生まれ、その孫にさえも出て行
かれた彼の想いは、彼の3分の1ほどしか生きていない俺には想像を絶する物だ
ろう。
すでに何を行ってももはや言い訳にしかならない。俺はライカを守れなかっ
た。その時の俺に出来たことは「オランでライカが暗黒神官に呪いをかけられ
た。」「それを説く鍵を探してこちらまでやってきた。」その経緯にを詳しく包
み隠さず説明することだけだった。
「…事情はよくわかった。呪いのことは何とかしよう。残っている財産を大半を
手放して神殿へ頼めば解いてくれるだろう。」
長い沈黙の後に彼はこういった。これライカは元に戻る。そう思うと安堵感で
いっぱいだった。これ以上に嬉しいことはなかった。
だが、条件は付くだろう。ライカの前から二度と姿を消せと言われるのだろ
う。当たり前のことだ。承知は出来ないが、あいつの命や安全には代えられな
い。その意見が出も俺は承諾する気になった。
ところが、彼が出してきた条件は、「冒険者を辞め、この街で暮らしていくこと。」。さすがに想像も出来ぬ物だった。
俺は狐にでもばかれされた気分になりつつも彼を連れ、宿へと足早に向かった。
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