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No. 00108
DATE: 2000/04/17 00:08:52
NAME: モケ&サナリー他
SUBJECT: ある一つの冒険1.1
「んじゃ、てめ〜らはこのルートをみてきてくれねぇか。」
依頼額の半額と共に、一枚の紙切れをそのゴツゴツとした手で渡される。
どうやら下水道の巡回ルートを示した地図のようだ。
「いいか。間違えるんじゃねぇ〜ぞ。お前らはあくまでも簡単な掃除だかんな。もし自分達の力がおよばねぇモンが出て来ちまった時は、潔く戻って来いよ。そーすりゃー、またそれで神殿辺りから依頼が来るし、今度はちゃんとした金額でテメーらを雇うってもんだからな。」
ガハハハとでかい声で笑っている後ろから、女の人のやさしげな声がした。
「その辺りの手続きは全部私かな?」
ぴきーん。と、でも音が鳴ったかのように「ガハハハ」と笑っていた男(ソライスン)の背筋が伸び、どもりながらも違うと否定する。
その辺りの駆け引きが一通り終わったあと、男は息を整えた後、我々に向かってこう言う。
「と、とにかく。お前らに渡したルートは行って戻ってくるまで、半日くらいかかるようになっている。今日中に戻ってこなかった時には何かあったとみるかんな。わかっているたぁ思うけどな、あとの半額はそれが終わったあと、ここに報告しに来た時渡すかんな。」
説明が終わったとみて、移動しようとした時に男か一声かけられる。
「こんなんで死ぬんじゃねぇぞ。」
「なんだか不思議だにゅ。」
「この臭いになれてきたことだろ。まぁ、かなり時間がたっているんだからな。」
ランタンを持ちながら相変わらずキョロキョロとしているグラスランナーの男、クストに声をかけるモケ。
杖を握りしめながら、後ろから二人の様子を黙ってみているエルフのサナリー。
当初はレッドアローも一緒の予定であったが、このルートは一番短い事などを理由に他のルートに回ってもらうことになった。
依頼主であるソライスンが何度も頭を下げていたのは、ちょっと印象的だった。
「・・・・・」
トントンと、前を歩いていたクストがモケをつつく。
「どうしたんだ。」
モケが聞くと、黙って奥をゆび指す。
結構近くで何かが動いているのはわかるのだが・・・
「ライト!」
異常に気が付いたサナリーが、動いている物のすぐ上の空間に明かりを出現させる。
「げ」
「はっひゃ〜」
「ジャ、ジャイアントラット・・・・」
明かりに照らされたジャイアントラットが、合計18匹。
突然の明かりに驚いたジャイアントラット達は、さらに奥の方に逃げたり、下水の中に飛び込んだり、こっちに向かって来たり・・・
「よほっと。」
クストの素早く投げたナイフが、こちらに向かって来た一匹の眉間に突き刺さる。
鋭い叫び声が辺りに響きながら、下水の中に落ちていく。
「こっちが上流でよかったな。」
剣を抜きながら後ろにいるサナリーに声をかけるモケ。
何かを唱えているため、目だけで返事をするサナリー。
二人とも戦士ならば、この狭い下水の通路の中、並んで立つことは出来なかっただろう。
一人がシーフであり、グラスランナーのクストからこそ、なんとか並ぶことができた。
「エネルギーボルト!」
こちらに向かってくるジャイアントラットのうち、先頭にいる二匹に向かって、白い矢のような物が飛んでいく。
それが命中したものから高く鋭い声が発せられる。
「よし、来い!」
モケが剣を構え、迎撃体制に入ったとたん。ジャイアントラット達はなにか小さく鳴きながら奥の暗闇へと走って行ってしまった。
「あははははは。なんかカッコ悪いの〜」
モケを指さしながら、横で笑い出すクストにつられてか、サナリーの口元が少しゆるむ。
「さ、先に進むぞ。」
耳まで真っ赤になったモケは、ランタンを手に取るとさっさと進み始めた。
しばらく地図どうりに進んだとき、今度はサナリーがモケの背中をつついた。
「・・・・なんか聞こえない?」
耳を澄ますと確かに、何か小さな音が聞こえる。
「さっきのねずみじゃないか。」
「ん〜まぁ、仮にそうだとしても、俺達あっち行かないからいいにゅ。」
地図に印を付けながらモケに答えるクスト。
「今どの辺りにいるの?」
サナリーが地図をのぞきながら聞く。
「ん〜とね。ここだにゅ。で、出口がここ。あとちょっとだにゅ♪」
地図を指さしながら答えるクスト。
「ってことは。もうちょっとでこんな辛気くさい所から出られるって訳だな。」
サナリーと同じように地図をのぞきながら言うモケ。
そこからちょっと歩いた所だった。
反射的にランタンをサナリーに押しつけ、剣を抜くモケ。
同じようにダガーを取り出すクスト。
「ど、どうしたの?」
「明かりを奥に向かって頼む。」
よくわからずもサナリーはランタンの明かりを消し足下に置くと、魔法をいつでも唱え始めれる体制をとる。
しばらくして奥からなにかが来るのがわかった。
すばやく「ライト」をなにかがいる方向の下水の流れている上の空間にかける。
蛇。
体長は5メートル以上・・・・
「先手ひっしょ〜」
タンッという以外と軽い音を立てて、蛇に向かって飛びかかるクスト。
それに続いてモケも蛇に向かって走り出す。
サナリーは魔法の詠唱を始める。
クストのダガーが、ぬめっとした蛇の表面を滑る。
その後ろからモケが剣で斬りつけるが・・・
「ちぃっ」
ねらいが少しずれた事もあって、うまくよけられてしまう。
「きゃあ」
後ろからサナリーの声がした。
慌てて振り返ると、2メートルほどの白い蛇がサナリーに巻き付いていた。
だがすぐにサナリーは動かなくなった。なぜかサナリーに巻き付いている白い蛇も動かなくなった。
「先にサナリーを助ける。しばらく頼む。」
「ほいよ〜。」
クストの軽い返事が、今はありがたく感じる。
目の前でクネクネと動いている蛇に向かって、ダガーを振るうクスト。
ダガーが鱗にはじかれそうになった瞬間、手首をひねり体重をかけて蛇の体に突き刺す。
激しい痛みを感じた蛇は、クネクネと動くのをやめてクストに襲いかかった。
モケがサナリーの元に駆けつけたとたん、動かなくなったサナリーが苦しそうにうめき始める。
巻き付いている白い蛇も、また動き出して締め付け始める。
「・・・?」
色々と疑問が頭の中に浮かんでくるが、今はサナリーを助けるのが先と割り切り、巻き付いている蛇に攻撃するモケ。
今度は手応えがあった。
「あ・・あ・・・あああ」
サナリーがさらに苦しそうな声をあげる。
傷を負い、逆上した白い蛇が彼女を締め上げる力をさらに強くしたからだ。
「くそっ、彼女をはなせぇ!!」
大きく振った剣が、白い蛇の首を飛ばす。
ボチャンというなにか鈍い音がしたのに気が付くまで、ちょっとかかった。
「そっちが終わったなら、手伝って〜」
サナリーに手を差し伸べようとしたモケの動きが、一瞬とまどう。
しゃがんだまま荒い息をしているサナリーは、モケに向かってこういった。
「まだ、終わってないんだから、大丈夫、だから、早く・・・」
差し伸べようとした手をぎゅっと握りしめるモケ。そして一言。
「わかった、あとは任せろ。」
「へへへ〜ん」
機嫌良くへらへらしているクスト。
あのあと、モケも駆けつけて先に現れた蛇の相手をしていたのだが、クストが投げたナイフが偶然にも蛇の喉に深く突き刺さり、その勢いで蛇の頭は下水の中に沈んでしまったのだ。
その後、よく見てみると蛇の長さは7メートル近くあった。が、幸い沈んでいる部分はそんなにないため、5等分くらいにして
「流すの?」
「ここに置いておくとネズミの食料だぜ。」
納得しきれないサナリーを置いといて、作業する二人。
サナリーを襲った白い蛇も三等分くらいにすると、同じように流す。
「さてと、出口はもうすぐなんだろ。さっさと行こうぜ。」
ランタンの火を灯し、先に進もうとするモケ。
懐からごそごそと地図を出し、道を確認するクスト。
その後に続くサナリー。
ちなみに服は擦れて破けたりした所があったため、今はモケのマントを羽織っている。
しばらく無言で歩いていたが、モケがこう言い始めた。
「なぁ。なんであの時、動きが止まったんだ?」
「にゅ?」
不思議そうな顔をするクスト。
「ああ、あのときね。あの時、あの蛇がおかしな動きをしたの。それを見たらなんだか・・・なんにも考えられなくなって・・・」
「にゅにゅ?なんの話をしているだにゅ?ま、まさか・・・」
「ちょっとまて、お前が想像していることとは違うぞ!!」
真っ赤になりながら、慌ててモケが叫ぶ。
「にゅ?あのヒュプノパイソンの事じゃないのか?じゃ、なんだにゅ?」
間。
「ヒュプノパイソンって・・・・さっき先に現れた蛇の事よね。」
サナリーがこう聞くと、クストはコクコクと何度もうなずきながら答える。
「前に一回合ったことがあるだにゅ。あの蛇のクネクネを見ると、なぁ〜んにも出来なくなるんだにゅ。」
「お前は、そのクネクネをみていたんじゃないのか?」
モケにこう聞かれると、クストはフンッと胸を張ると、こういった。
「あんなクネクネでは、オイラのハートには響かないだにゅ。」
コケているモケの後ろでサナリーがつぶやく。
「グラスランナーっていったい・・・・」
「ねずみねぇ・・・・」
無事に外にでた三人は、雇い主であるソライスンの店に戻り、地図を見せながら説明する。
「ま、このねずみに関しては、この辺に住んでいる連中に掛け合って見るとしても・・・蛇ねぇ。このルートよりかなり北の所で大掛かりな蛇退治が先月あったばかりなのになぁ。」
「その時この辺りまで、探索したとか・・・」
腕を組んでしばらく考えていたソライスンであるが、突然店の中に戻ると、ある本らしき物を持ってくる。
「これは先月あった依頼なんかをまとめたモンだ。たしかここにその時の捜索ルートが乗ってるはずだ・・・・っと、あったあった。」
本を広げて見せる。それと地図を照らし合わせてみる。
「半分くらい重なっているわね。」
「つまり、その時の探索で行かなかった部分を行った・・・というわけか。」
「おまけだにゅ。」
がはははと豪快に笑いながら、本を閉じるとソライスンは小袋三つだすと
「とにかく無事に戻って来れたから、いいじゃねぇか。これが残りの分だ。ご苦労さんよ。」
そう言うと笑いながら本と地図を持って店の中に消えていった。
三人顔を合わせたあと、一つずつ小袋を取る。
「んじゃ、おもしろかったにゅ。また一緒に行けたら行こう。」
そう行ってクストは、どこかに行ってしまった。
「じゃ、宿に戻るか。」
「そうね。服の事もあるし。」
そう言った時、思い出したようにサナリーがモケに聞いた。
「クストが蛇の事を聞いたとき、あなたはなんて想像したの?」
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