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No. 00109
DATE: 2000/04/17 00:13:37
NAME: ケイ他
SUBJECT: ある一つの冒険2.1
「んじゃ、てめ〜らはこのルートをみてきてくれねぇか。」
依頼額の半額と共に、一枚の紙切れをそのゴツゴツとした手で渡される。
どうやら下水道の巡回ルートを示した地図のようだ。
「いいか。間違えるんじゃねぇ〜ぞ。お前らはあくまでも簡単な掃除だかんな。もし自分達の力がおよばねぇモンが出て来ちまった時は、潔く戻って来いよ。そーすりゃー、またそれで神殿辺りから依頼が来るし、今度はちゃんとした金額でテメーらを雇うってもんだからな。」
ガハハハとでかい声で笑っている後ろから、女の人のやさしげな声がした。
「その辺りの手続きは全部私かな?」
ぴきーん。と、でも音が鳴ったかのように「ガハハハ」と笑っていた男(ソライスン)の背筋が伸び、どもりながらも違うと否定する。
その辺りの駆け引きが一通り終わったあと、男は息を整えた後、我々に向かってこう言う。
「と、とにかく。お前らに渡したルートは行って戻ってくるまで、半日くらいかかるようになっている。今日中に戻ってこなかった時には何かあったとみるかんな。わかっているたぁ思うけどな、あとの半額はそれが終わったあと、ここに報告しに来た時渡すかんな。」
説明が終わったとみて、移動しようとした時に男か一声かけられる。
「こんなんで死ぬんじゃねぇぞ。」
その後、集まった者同士で自己紹介が始まる。
持っていたグレートソードは探索には不向きだとソライスンに言われたケイは、ショートソードを貸してもらった。
「ではケイさんでよろしいですか?」
「はい★」
にっこり笑って返事をするケイ。
目の前には、背の高いエルフ(♂)の顔がある。
その横から突然、エルフと同じくらいの背を持つ男がエルフを指さしながら口を出す。
「オレは、ジャンク。コイツはハーク。住んでた森で迷いに迷ったあげく、帰れなくなったっていうバカ野郎だ。」
「お前はいつもそうやってよけいな事まで言う!」
つかみ合いの喧嘩になりそうになった時、ケイの後ろから声がした。
「あの〜。ボクもみなさんと一緒みたいなので・・・」
「あのクソ親父め・・・こんな荷物持たせやがって。」
松明をかかげながらブツブツとつぶやいているのは、ジャンク。
機嫌が悪いのは元々・・・と言うハーク。ても、ここに入る前にランタンにするか松明にするか、ハークと言い合って負けたからである。
その後ろにケイ。そのまた後ろは先程の「ボク」。
名前はニクラム。15歳になったばかりで、初めての冒険だと言うことである。
ちなみにジャンクの言う荷物とはニクラムの事、クソ親父とはソライスンの事である。
このジャンクとハークは、ソライスンとかなり仲がいいようだ。
「そこ左な。」
一番後ろにいるハークが、地図を見ながらジャンクに声をかける。
「へいへい・・・・って、ハーク。道に間違いはないんだろうな。」
立ち止まり、聞き返すジャンク。
前を見ると・・・右と前にしか道がない。
困った顔で地図と周りを何度も見ているハーク。だが、でた結論はここで左に曲がるというものだった。
「この壁をぶち壊していけとでも言うのか。」
と言いながら壁に寄りかかったジャンクが、ケイの目の前から突然消えた。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、しばらくして壁の向こうからジャンクの声がしたためホッとする。
その後、この壁が幻覚だと気づくのに、そんなに時間はかからなかった。
「・・・・」
フラっと後ろに倒れそうになるニクラムを支えるハーク。
ジャンクも顔をしかめている。
地上にと続く所が近いためもあったのだろう。あの幻覚の壁を抜けて歩いていくと、何かの骨がゴロゴロと通路の角にあったりしていた。
そして少し広い所にでたとたん、そこにあったのは祭壇・・・台の上にはかなり腐敗が進んだ人らしきものが、腹にナイフを突き立てられたまま横たわっていた。
「こっちにも何人かいるぜ。ひでぇ事しやがる・・・」
台の陰になっている所に3人。暗くてよくはわからないものの、顔の皮をはがされていたり、胸が開いていたり・・・
さすがに耐えきれなかったか、ダッと後ろに走り出すニクラム。
「あなた、神官ですよね。ここに何かの模様がかかれているんですが・・・?」
後ろからハークにつつかれたケイが、ハークの指さす方を見る。
「えっと・・・たしか・・・ファラリスの印じゃないかなぁ★」
「消したいが・・・くそっ。そんな道具なんぞねぇし・・・」
ガンガン壁を蹴っているジャンクに、落ち着いた声でハークが言う。
「とりあえず、先に進みましょう。ここの事は報告の時言えば、ファリスの神官達がちゃんと埋葬してくれるでしょうし。」
返事をせずに、近くでしゃがみ込んで半泣きしているニクラムを引っ張りながら先に進むジャンク。
ケイは自分の信じるチャ・ザの神に、短い時間だが祈りを捧げると、彼らの後に続いた。
しばらくしてまた幻覚で隠された通路を見つけ、奥に進む。
ニクラムはかなりゴネた(もう帰る、やめる)が、ジャンクに怒鳴られ、ケイとハークに悟るように説得され、とにかく一緒に出口まで行くことにした。
「なぁ・・・」
「わかっているから、言うな。」
ハークに言われ黙るジャンク。
しかたないような顔のジャンクと、ハーク。
下水の流れる音が、妙に反響していて不気味であり、それが反対に美しくも聞こえる。
説得されたとはいえ、さっき見た光景のショックのあまり、杖をふるえる手で握りしめながら歩くニクラム。
なんとか歩いているような状態である。
「おい、行き止まりだぜ。・・・また魔法の壁だけどよ。」
ジャンクが松明を壁に当てると、当たった部分だけ壁にのめり込む。
「さっきまでのとは、ちょっと違うね★」
ごく自然にケイが言う。
先ほどまでの幻覚の壁は、曲がり角につくられていたのだ。が、目の前にある幻覚は、まっすぐの道の真ん中(地図調べ)あたりにある。
「何かあるって感じだな。」
幻覚の壁を抜けると、再度行き止まりになっていた。
地図を見ると、ここは右と左に分かれている所なのに。
「あるとすれば行き止まりになっている左か。」
立ち止まり、地図をのぞき込んでいたジャンクが言う。
しばらく黙っていたハークは、ケイに向かってこう言い出した。
「黙っていて悪かったのですが、俺達は親父・・・ソライスンになにか手応えのある冒険がないかと聞いて、ここに回されて来たのです。」
「オレ達はそう聞いてこの仕事を受けおったんだ。だが、あんた達はそうは聞いてねぇはずだから、ここで待っているなり、先に進むなりしてくれてかまわねぇ。この魔法使いの坊主はあんた、ケイさんの返事しだいだ。」
ジャンクも真面目な顔して聞いてくる。
しばらく考えてからケイはニコッとすると、こういった。
「何言ってるのっ★ 危険かどうか調べるのが私たちの仕事でしょ?」
そう言ってジャンクの胸をたたく。
なんか言いながら左の幻覚の壁の向こうに消えていくジャンク。
さらにケイは、あっけに取られているニクラムを近くに引っ張りながらこういった。
「そんなに不安がらなくても大丈夫よぉ★ 町中だし、きっと怖い生き物はいないわ。もっと気楽に行きましょ★」
言い終わったとたんに、幻覚の壁の向こうに突き飛ばす。
それからケイ、ハークと幻覚の壁の向こう側に行く。
すでに戦闘ははじまっていたが。
浮遊する光の固まりが、がちゃがちゃと音を立てて動く骸骨に当たったとたん、爆発する。
一瞬、間をおいてから崩れ去る骸骨。
「お、終わった・・・」
ヘナヘナとその場に座り込むニクラム。
ため息ひとつついてから、崩れた骸骨をみながらハークが言う。
「・・・・スケルトンにしてはなんか強かったですね。」
「なんかじゃねぇよ。しゃれになんねぇくらい強かったわ。」
ホッとした表情でつぶやくジャンク。彼の右腕(左利き)にはかなりの深さの傷がある。
痛みをこらえながら剣を鞘に納めたあと、ケイに魔法をかけてもらう。
二つの動く骸骨・・・それがスケルトンウォリァーだと、ニクラムから教えてもらう。
戦闘中は、何度も魔法の詠唱を失敗しながらも、彼は彼なりにがんばった。
今、この空間を照らしているのも、彼の放った魔法の一つだから。
グルグルと包帯を巻き終えたジャンクは、突き当たりにある小さな小箱に目をやった。
突き飛ばされた時、持っていた松明がこの小箱の近くに落ちたため、拾うために近づいた所、突如動いた骸骨に右腕を斬りつけられたのである。
ハークが小箱を手に取り、しばらくなにか考えていた。
「どうしたんですの?」
残った包帯を片づけたケイが、ハークの様子をうかがう。
「いや、開かないな・・・とおもってさ。特に鍵はかかってないし、罠とかもなさそうだし・・・」
「魔法の鍵ではないでしょうか。」
後ろから小さな声でニクラムが言う。
振り返ると何かを手に持ったニクラムが、小さく肩を振るわせていた。
「どうしたんだ。今頃・・・」
「こ、ここに、いた人。ボクの・・・兄弟子・・・の・・・」
ジャンクが立てることを確認したハークは、泣いているニクラムの肩をたたき、声をかける。
「その話は、外にでてからでも遅くはないだろう。さ、行こう。」
その兄弟子がいなくなったのは、半年ほど前だった。
ニクラムはそれ以前から、兄弟子と師匠が何度となく口論しているのをみていた。
だから、いなくなった時、やっぱりとだけ思った。
最近になって、ひさしぶりに整頓した師匠の部屋から、指輪の発動体や未鑑定の魔法の指輪、あとドラゴンの牙が数本なくなっている事がわかった。
兄弟子がいなくなってからすぐの頃、下水の入り口近くで兄弟子をみたという話を思い出し、思い切ってソライスンに話をしてみた。
これがニクラムが出口まで歩きながら、つぶやくように話した事である。
先ほど手に持っていたのは、その兄弟子がお守りと言って手首に巻いていた、一風かわった紐であった。
「その兄弟子ってのの、名前は?」
新しい松明に火を移しているジャンクが訪ねる。
「パロッザムといいます。すごく頭のよくて、魔法とかも、どんどん覚えていって・・・すごく憧れていたんですけど・・・」
「え〜い★そんなにくよくよしていないっ★」
ニクラムの背中をバンバンとたたきながらケイが言葉を続ける。
「そんなんだから、君はダメなの★もっと前見て行けば幸福がある事に気が付くのに、下ばっかみているからダメなのっ★」
少し困ったような笑顔を見せるニクラム。
その表情は、少し大人びてみえた。
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