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No. 00110
DATE: 2000/04/19 00:35:21
NAME: レッドアロー&ルシエラ
SUBJECT: 裏通りにて
「・・・挨拶ぐらいしたらどうですか?」
「......。俺の勝手だろう。」
「挨拶をしないと,不快感を憶える人もいます」
「.......。そうか」
今日もチャ・ザの神官であるルシエラは,酒場で自分から交流を持とうとしない男,レッドアローと口論をしていた。内容は聞いての通り。
「そうかって・・・・それだけですか?何か理由でもあるんですか?」
「.....。知りたいか?」
「はい」
「........。こんな所では言えないな」
そう言うとレッドアローは静かに立ち上がり,酒場を出る前にルシエラにこう言った。
「知りたければ,ついて来い。....知りたくなければ,ついて来なくて良い。」
レッドアローは退店すると,後ろを気にする様子も無く黙々と歩いていた。
ルシエラは慌ててレッドアローに追いつき,話しかけた。
「教えてくださいますか?」
レッドアローはゆっくり後ろを振り返ると,「本当に来るとはな」,と冷たく言い放った。
「・・・教えてくださる気は,なかったということですか?」
その声には,明らかに怒りが含まれていた。しかしレッドアローは気にした様子も無く,しばらく黙った後に「こっちだ」,と云って道を曲がり,裏通りの方へと歩いて行った。
ルシエラは,黙ってそれについていった。
歩いている途中。しばしの沈黙の後,レッドアローは唐突に口を開いた。
「......。帰るなら今の内だが?」
「どういう意味ですか?」
「....着けば解るだろう。」
そのまま歩き続けていると,道にはすっかり人気が無くなっていた。
何かに不安を憶えたのか,ルシエラは急に立ち止まった。が,レッドアローはそれを気にする事無く歩いて行く。
「レッドアローさん。」
レッドアローは立ち止まると,「何だ?」,といつもと変わらない顔で毒気無く答えた。
ルシエラは毅然とした顔でレッドアローをじっと見ていた。
「・・・何でもありません。」
と言ってルシエラがまた歩き始めると,レッドアローは追いついたのを確認してからまた歩き始めた。
そしてしばらく歩き続け,ルシエラが「まだですか?」,と聞いた時だった。
「ここだ」
と云うと同時に,レッドアローはルシエラの腕を強く掴み,強引に引っ張って,逃げられないように壁に押さえつけた。
此処は人が3,4人ほど並んで歩けるぐらいの広さの袋小路だった。
「......理由はこういう事,だ。」
「ちょ・・・なんですか!」
ルシエラがそう言うと,レッドアローは当然,と言わんばかりに「見て解るだろう?」,と答え,のし掛かるようにして,ルシエラを押し倒した。
ルシエラは必死で逃れようとしたが,圧倒的な力の差で逃れる事はできなかった。
「.....。俺が挨拶をしないのは,世の中には俺のように危なくて理解不能な人間もいる。そんな人間に下手に親しくされたら可哀想だから....と云う訳だ」
レッドアローは体重をかけ,暴れられないようにしてゆっくりと上の服を剥いでいった。
それに対してルシエラは砂利を掴んで目潰しを試みるが,レッドアローは瞬時に目を瞑り,砂が目に入る事は無かった。
レッドアローは目を閉じたまま,押さえつける事に専念し,嘲るように聞いた。
「.....怖いか?...。それとも,裏切られた事が悔しいか?」
「・・・最初からこれが目的だったんですか?」
ルシエラはレッドアローを睨み付けながら言った。その目には涙が浮かんでいて,声は震えていた。
「.....。ああ,最初から,な。.....だが,お前が悪いんだぜ?信用できない人間を信用した,お前がな。...泣きたければ泣くが良い。こんな所まで誰も来やしないさ。」
レッドアローは砂が目に入らないように目を軽く閉じたまま,作業を再開した。
「・・・許さない・・・わたしはあなたを許さない・・・」
「.....非力だな。それで抵抗しているつもりか?」
相変わらず,ルシエラは涙目で睨み付けていた。
「.....。自分を守れるだけの力が無いのなら,安易に人を信用しない事だな。」
レッドアローは穏やかな口調でそう言うと,目の砂を払いながら立ち上がり,ルシエラと距離を置いた。体が自由になったルシエラは,慌てて起き上がり,衣服を合わせながらレッドアローを睨み続けた。
「....怒りの余り声も出ないか?」
「うるさい・・・あなたの言うことなんか聞きません。」
レッドアローの挑発に対して,完全な否定でルシエラは答えた。
「.....チャ・ザの神官とは思えない言葉だな。俺のような奴には返す言葉も無い,か。良いだろう,恨むんだったら好きなだけ恨んでくれ。」
「・・・あなたなんかが神の御名を口にしないで!」
ルシエラは睨みながら叫んだが,レッドアローはそれを煽るように続けた。
「そんなの,俺の勝手だろう?ファリス・マーファ・ラーダ・マイリー。.....そして,チャ・ザ。この国では『神の名を口にしてはいけない』なんて法は無いんだし。」
「許さない・・・。」
ルシエラは,自らの怒りを全て込めて,続けた。
「あんたが!あなたのような外道が口にしては,神の御名が穢れます!」
しかしレッドアローは怯む様子も無く,淡々と続けた。
「許さない?口だけならなんとでも言えるよな?具体的にどうする?俺を殺すか?お前じゃ無理そうだな。じゃあ高い金を積んで暗殺者でも雇うか?それなら流石に俺でも死ぬだろうな。」
それに対して,ルシエラは黙って下唇を噛みながらじっと睨みつける事しかできなかった。
「......俺に神の名が汚されるのが嫌なら,今この場で俺の口を塞いでみるか?」
レッドアローはゆっくりと片手半剣を抜き,ルシエラに向けた。それに対して,ルシエラは胸を抱くように衣服を合わせたまま身構えた。
「.....結局,何もできないのかな?」
そう言って片手半剣を鞘に戻した時,ルシエラはレッドアローに体当たりを仕掛けてきた。しかしレッドアローはそれを軽くかわすと同時に足を引っかけ,「素人が」,と吐き捨てるように云った。
ルシエラは足に引っかかって転んだが,上手く体を一回転させた。
「許さない・・・絶対に・・・。」
そう言うとルシエラは立ち上がり,走って行った。
レッドアローは追いかけようとはせず,「ま,頑張れよ」,と声を掛けてしばらくその場に留まっていた。
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