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No. 00113
DATE: 2000/04/23 02:16:05
NAME: ホリィ&リティリア他
SUBJECT: 天使の微笑
登場者 アスティ…パン屋「セレス・ベーカリー」の若き女主人。
ガイア…本業魔法剣士、副業パン屋。
ホリィ…一応冒険者、パンの売り子を普段はやっている。
リティリア…冷たい感じのする女性。ここのパン屋の常連とかしている人物
「EP本文」
《3/25…深夜》
「後は、この呪文を唱えれば使い魔召還の儀式も完成するわけだな」
1日かけての材料集め…(サナリーというエルフの魔術師に手伝って貰ったが)
2日かけての薬品の生成を完成させたガイアは、
3日間ほとんど食べなかったことに気づき、階下にある食堂に降りていった。
アスティがまだ起きているらしく、食堂には明かりがついていた。
声をかけようとしたら、こんな会話が耳に入った。
「明日はどうしよう。多分忙しいんだけど…ガイアさん手伝ってくれないよね?」
「そうですね…使い魔呼ぶってサナリーちゃん言ってたから、もう一日はかかりますよ。」
「はぁ…(溜息)二人で頑張ろうか…」
食事が取れる雰囲気ではないと察したガイアはコートを羽織ると、きままに亭へと足を向けるのだった。
きままに亭にて食事をとりながら、ガイアは考えた。
(誰かに店番を頼めればいいんだよな…しかし、この街での知り合いはそんなこと出来そうにない人間が多いんだよな…)
そんな取り留めのないことを考えていると、店にリティリアが入ってきた。
(そうだ、彼女なら何とかなるかもしれない)
そう思いついたガイアは、リティリアに話しかけるのだった。
《3/26…早朝》
「…っと言うわけで、手伝いに来たんだけど」
開店準備をしていたホリィに、リティリアは話しかけた。
「え、ホントにいいんですか?」
「ええ、いつもお世話になってるし、それにちょっと興味もあるからね。ま、一日くらいなら構わないわ。」
「わぁ〜い、有り難うございます♪あ、じゃあ服準備しますからこっちに来てくださいね。」
そう言うなり返事を待たずにホリィはリティリアの手を引いて部屋へと連れていった。
「ちょっ、ちょっとホリィ。エプロンだけでいいから」
強引に引っ張られていく途中でそう言うリティリア。
「駄目です。こう言うのは制服みたくそろえた方が可愛いんですから♪」
やがてホリィの部屋に連れ込まれたリティリアは、ホリィの準備した服を見て絶句した。
フリルが多量に使用された少女趣味の局地とも言える青色の服だったからだ。
「じょ、冗談でしょ…?」
「いいえ、私は本気ですよ♪前にも言ったと思いますけど、この服なんてリティリアさんにぴったりだと思いますよ♪」
「で、でもねホリィ…前にも言ったと思うけど、私はこんな服…」
「…………イヤなんですか?(涙声)」
「だ、だから、私にはこんな可愛らしい服は…」
「(くすんくすん)」
「………わかったわ。着ればいいのね」
「うん♪だからリティリアさんって好き♪(にこにこ)」
「……じゃあ、着替えるから少し待っててね」
そう言ってから仕方無しに着替えだすリティリアその脳裏には
『彼にだけは見られないように』という考えだけが支配していた。
10分後、普段と似てもにつかぬ可愛らしい服装(表情は憮然としていたが)で階下に降りてきたリティリアを見たホリィは、追い打ちをかけるように少女趣味丸だしのエプロンを差しだし、こう宣言した。
「ホントに、よく似合ってますよ♪じゃあ、このエプロンもお願いしますね♪」
制服(?)を着用したリティリアの背後から、ホリィが櫛を持って髪型を直していた。
(ちなみに今で言うポニィテール)
ここまで来ると「もう、好きにして」状態のリティリアであったが、『彼にだけは絶対見られませんように』という神への祈りにも似た願い事が頭の中で渦巻いているのだった。
「じゃあ、仕事のの説明をしますね…」
仕事の説明をするホリィの言葉を聞きながらも、変えられた髪型が気になるリティリアであった。
「…分かりましたか?」
「ええ、理解できるけど…ホントにこの格好じゃないと駄目かしら?」
「今更何言ってるんですか♪お揃いの服で一日頑張りましょうね(にこっ)」
《3/26…午前中》
「有り難うございました♪またお願いしますね(ぺこり)」
客がようやく落ち着いた頃、ホリィが難しい顔をしてリティリアに話しかけた。
「リティリアさん…もう少し柔らかく笑えませんか?そんな愛想笑いにもならない微笑じゃあ、お客さんの印象が悪くなっちゃいますよ」
「そんなことを言ったって、いきなり商売用の笑顔なんて作れないわ」
「…そんな兄様みたいな逃げ方しないでくださいよ。そうだ!これから少し暇になりますから、練習しましょうよ♪うんうん、そうしましょう♪」
「ねぇ、ホリィ…私はそんなこと…」
「そんな…このお店のお客が減ってもいいって言うんですか?」
「何処をどうしたらそうなるの?」
「看板娘が不愛想だと、お店の印象が悪くなります。悪い評判なんてあっと言う間に広がっちゃいます。そうしたら、この店潰れちゃうかもしれないじゃないですか!!…ひどい、ひどいです…リティリアさんがそんなことを言う人だったなんて…(くすんくすん)」
「泣き真似しても駄目よ…。」
「だって、だって…(しくしく)」
今度はどうやらホントらしいと感じたリティリアは、しばらく考えた後にこう切り出した。
「上手く笑えないかもしれないけど、それでもいいかしら?」
それを聞くなり、ホリィは顔を上げ、涙を拭きながらこう言った。
「えへへへ…うん、それでも構いませんよ。あ…ちょっと顔洗ってきますね。」
それからしばらくして、顔を洗いに奥へ行ったホリィが戻ってきた。
「えへへへ…看板娘は笑顔が大事ですからね。一日たりとも絶やしちゃ駄目なんですよ。じゃあ、にっこり笑ってみてください。」
「そう…こんな感じでいいかしか?…いらっしゃいませ…(にっこり)」
彼女が浮かべた笑顔は、今まで見たことがない柔らかく、そして温かい笑顔だった。
「え…リティリアさんってちゃんと笑えるじゃないですか♪そう、そんな感じでいいんですよ♪これで昼からばっちりお客さんが来ますよ♪」
「ちゃんとって…さりげなく酷いことを言うわね(苦笑)」
「え?あはは…気のせいですよ(汗)とにかく、その笑顔を絶やさないようにしましょうね♪」
《3/26…午後》
昼の忙しさがピークを超えた頃、ホリィとリティリアはようやく一息ついていた。
「やっぱり、リティリアさんのおかげなのかな…普段よりかなりお客さんが入っているんだもん。」
「そんなことないわ。たまたまそうなんじゃないかしら?」
「うんん…男のお客さんが多かったもん。絶対リティリアさんのおかげですよ♪」
「そう、ありがとう」
その時”からん♪”と音を立て、入り口の扉が開いた。
「「いらっしゃいませ〜♪」」
二人は反射的に笑顔を作り、入ってきた客に声をかけた。
しかし、入ってきた赤い男の姿を確認するなり、リティリアの笑顔が凍り付いた。
「ふっ…繁盛しているようだな。」
「あ、レドさんいらっしゃい♪珍しいですね(^^)」
「ああ、近くまで来たからな…ついでに寄っただけだよ」
「でも、嬉しいです。あ、パンがもう少ないですね。ちょっとまっていてくださいね。」
そういうなり奥に消えていくホリィ。
「酒場でもここでも、気を使ってくれるか…ふっ、あいつの妹にしては気が利くな」
レドはそう呟き、凍り付いているリティリアを無視してパンを選びはじめる。
やがて数種のパンを選ぶと、いまだ凍り付いているリティリアの元へ行き話しかけた。
「ふっ…随分と可愛くなったな。それに先ほどの笑顔…他の男に見せるのは勿体ないくらいだったぞ。」
そう言いながら代金を払うと、レドは静かに店を出ていった。
出て行ってからしばらくして、ホリィが手ぶらで戻ってきた。
「あ、もう帰っちゃったんだ…あれ?リティリアさんどうしたんですか?ねぇリティリアさんってば…」
その言葉はどうやらリティリアの耳には届かないようだった。
《3/26…夕方》
「今日はホントに助かりました♪新規のお客さんも一杯来てくださって思った以上の大繁盛でした」
そう言うとホリィは深々と礼をした。そして思い出したように小袋をリティリアに渡した。
「これ…今日のバイト代です。」
中身を確認したリティリアは、怪訝な表情を浮かべたまま話しかけた。
「数え間違いしてないかしら?ガイアから聞いたより大分多く入ってるけど?」
ホリィはにっこり笑いながらこう答えた。
「いいえ、ちゃんと合ってますよ。ただ…リティリアさんのおかげで大繁盛でしたので、そのお礼も入ってるんですよ」
それに…とホリィは言いにくそうに切り出した。
「もし良かったらですけど、今後もお手伝いしていただけないでしょうか?」
それを聞いたリティリアは、すまなそうな表情を浮かべこう答えた。
「ごめんなさい、私はもうすぐ長旅に出る予定なの。あくまで予定だけどね。」
残念そうな表情を浮かべはするものの、ホリィはそれで納得した。
店を出てからリティリアは、いつもとは違う店に行き…今日の出来事を忘れようとするかのように飲むことにした。
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