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No. 00114
DATE: 2000/04/25 00:38:42
NAME: レスダル
SUBJECT: クラウンアルファイト
図書館。それは学問を営む者にとっては神聖な場所である。
静寂なその部屋は人々の息づかいと、本をめくる音が静かに響く。
一人の女性が台に乗って、本棚と向かい合っている。
よく見ると、その女性は本の整理をしているらしく、本を出したり入れたりを繰り返している。
ある本を出そうとしたとき、乗っている台が急にグラッと揺れる。
反射的に開いている手で本棚をつかんだが、まさかその本棚が倒れてくるとは思っていなかったようだ。
静寂の空間を引き裂く、大音響。
何人かの野次馬が集まって来た頃、本棚の下から彼女がなんとか抜け出てきた。
ゲホゲホと何度かせき込んでいる所に、同僚の司書官が駆け寄る。
「大丈夫ですか、レスダルさん。」
「私は大丈夫。だけど・・・」
本が散らばり、本棚が倒れている下には、つぶれた台がある。
そんな状況を改めてみた彼女、レスダルはしばらくの間、動かなかった。
それから半日。
「これが最後の一冊ね・・・」
なんとはなしに本の題名を目で読む。
『クラウンアルファイト』
台はすでに処分してあるし、散らかった本はこれ以外全部片づけてあるし、今日はこの失敗のおかげ(?)で他の用事はみんな同僚に回ったみたいだし・・・・
彼女は本を棚に戻さず、そのまま机へと向かう。
「たしか、リンが小さい頃読んであげたっけな・・・」
本の裏表紙のシミに愛着感を覚えながら、ページをめくっていく。
『むかしむかし、リームという国がありました。その国には、アルファイトという名の道化師がおりました。』
彼女は本に書かれた道化師の絵を見て、小さく笑う。
「これが怖いって、読み出したとたんに泣き出したっけな・・・」
『その頃、美しい王女にはたくさんの求婚者がいたため、ある時、王様がこういいました。「我が国で一番強い者に娘をやろう」と。』
「昔話によくある設定よね・・・」
そういいながらも、彼女の手は次のページをめくる。
『その噂はたちまち周辺の国々に広まり、たくさんの強者が集まった。その中にはアルファイトの姿もまじっておりました。』
「こっからが好きだから、よくリンが読んでって言ってきたのよね・・・」
彼女は声を出さないように小さく笑う。
『アルファイトは持ち前の芸を器用に使い、なんと決勝戦にまで進んでいきました。』
「道化師の芸で戦うと言うことは、主にナイフ投げね。」
レスダルの頭の中に、先日見たばかりの道化師の芸が鮮明に思い出される。
『アルファイトはまず、刃のない剣を振り回しておどけて見せた後、鞘に戻し踊り始めました。怒った相手が剣を振りかざしながら向かってくると、また鞘から剣をぬきました。すると、その剣には刃があるではありませんか。そして相手に斬りつけたのですが、何も切れないのです。それどころか、スカスカと通り抜けてしまいます。』
「この辺は幻影の魔法じゃないかっていう説があったわね・・・」
『アルファイトは再度おどけてみせると、また剣を鞘に戻し踊り出しました。相手の顔はすでに真っ赤に染まって、すべての力を乗せた一撃がアルファイトめがけて振り下ろされました。が、ガチンという音と共に、相手の剣は空を舞い、地面に突き刺さりました。あっけに取られている相手の横で、うれしそうに踊り出すアルファイト。』
「たしかこれが物移動の魔法じゃないかと言われているんだけど・・・あやしいのよね・・・」
口元に笑みを浮かべながら、ページをめくる。
『我に返った相手が慌てて地面に刺さっている剣を取ろうとすると、剣が相手の手とは反対方向にまがったのです。何度も何度も剣をつかもうとする相手に場内は大笑い。しばらくして相手は負けを認めました。』
「このあと、お城で大騒ぎしながらも王女様と結婚しておしまいだったけね。」
パタンと本を閉じたとき、奥から彼女の名を呼ぶ声がした。
どうやら自分と同じ事をしそうになっているのを見て、慌てて席を立って走り出す。
だが、すぐに大きな音が図書館内に響いたのだった。
駆けつけた彼女と本棚を倒した同僚は、仲良く夜中まで残って片づけをする事になったのでした。
めでたしめでたし?
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