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No. 00121
DATE: 2000/05/15 23:20:32
NAME: ヴァラー、ウォレス
SUBJECT: 破滅への序章 【通り魔関連】
照明を抑え気味にした薄暗い室内、刺激のある薬品臭と埃の匂いが鼻をつく。
ぐるりと回りを見渡せば、散乱した羊皮紙の束とうず高く積まれた本の山、机というよりは作業台と言った方が似つかわしい台座には
試験管に入った色とりどりの薬品が薄い煙を上げている。
そんな中で一人の若い男が安楽椅子に持たれ掛け暗闇の中を睨んでいる。その暗い炎が宿る瞳に映る物は果たして何であろうか?
彼の表情から窺い知る事は出来ない。
これは殺人に手を染めるたびに行う一種の儀式めいた行為だった。自分の野心の為に犠牲を強いられた人の死に様を思い出し
心の弱さを嘲笑するという・・・・・・・・・しかし心の奥底からは人の命を弄び踏み躙るという行為に対する奇妙な昂揚感も感じるのだった。
そこへこの塔の主である老魔術師が歩み寄る。彼を見たのは何日振りだろう。ずっと研究室に閉じ篭ったままだったというのに・・・・・・
「ウォレスよ・・・・・君を捜しているらしい一団が見えた。このままではいずれこの塔までやってこよう。研究が佳境に入っている今、私はここを離れられん。」
ウォレスには彼が暫く見ないうちに一回り縮んだように見えた。それは彼が身に纏う疲れた雰囲気のせいだったのかもしれない・・・・・・・
「姉さん・・・・・なんですね?」
目を開けた時にはいつもの皮肉な笑みを浮かべ静かに口を開く。
「いいでしょう・・・・・・彼女との決着をつけてきましょう・・・・・・・・」
そう言ったウォレスの顔が何かを決意した者の顔だったのでヴァラーは一抹の不安を感じた。
ウォレスが姉に投降する可能性が思考の片隅をかすめる。あるいはウォレスは姉との対決の中で死ぬ事を望んでいるのかもしれないが・・・・
そんなヴァラーの心配そうな顔を見たウォレスは口元に皮肉な笑みを貼り付けたまま口を開く。
「ヴァラー師、そう心配する事はありませんよ・・・・・・貴方に師事したこの3ヶ月間の恩は忘れてはいませんよ。貴方の事は言いませんからご安心を」
だが、ヴァラーはそのウォレスの言葉にも不安は隠せなかった。彼らの関係は師弟の関係ではなく互いの利害関係が一致しただけの薄っぺらな関係なのだからそれも無理はないことだろう。
ヴァラーにしてもこのままウォレスを丸腰で行かせる訳にはいかず、多少の餞別を施すことにした。
「ウォレスよ・・・・・君に餞別だ。」そう言って懐から白い物を取り出し、呪文を唱え始めるヴァラー。
白い物体はたちまち黒い鎧に包まれた骸骨戦士に変わり忠実な番犬のようにヴァラーの傍らに控える。
”忠実なる兵士よ、彼の者をいかなる時も守りたまえ”下位古代語が暗い室内に朗々と響き渡る。
「ありがとうございます、ヴァラー師。では、彼女と決着を着けて来ます・・・・・・・・」
そう言ってウォレスは竜牙兵を従え階下に続く廊下に歩き去っていく。
その後姿を見送りヴァラーは保険を掛ける事を思いつく。彼に「黄金の枝」をもたらしたエルフにウォレスを監視させる事にしたのだ。
彼ならば監視役としても、あまり考えたくは無いがウォレスを始末する事態になった場合でもこちらの依頼を確実にこなしてくれる事だろう。
そこまで考え一人、満足そうな溜息をつくと、そのエルフと連絡を取る為、彼の娘を呼ぶのだった。
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