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No. 00122
DATE: 2000/05/15 23:27:45
NAME: ウィンガールド姉弟、他
SUBJECT: 邂逅の行方 【通り魔関連】
ウォレスは傍らに竜牙兵を従え、獣道を行く。彼の姉が居る場所はヴァラーの使い魔からの情報ではすぐ近くのはずだ。
獣道を行きながら姉の事を考える。
”彼女が生きている限り私は彼女に縛られたままなのだろうか?・・・・・・いや、彼女が生きていようが関係は無い・・・
私の気持の問題だ・・・・・”そこまで考えウォレスの顔が自嘲気味に歪む。
その時、前方の藪ががさりと揺れ一人の少女が現れる。
「ウォレス!!捜したよ・・・・・・アンジェラさんを刺したって本当の事なの?」
リュイン・・・・・ウォレスの右手が失われる前、少しの間、パーティーを組んだかつての仲間・・・・・・
ウォレスは突然現れたリュインに怪訝な表情をし、なぜここに居るのかを問いただす。
「そんなことはどうでもいいの。質問しているのは僕だよ?僕の質問に答えて」
不安そうなそれでいて心の奥底では信頼している瞳でウォレスを見詰めるリュイン。
ウォレスはその目をどこかで見た思いがした。
”そうだ・・・・思い出した・・・・子供の時に拾った子犬の瞳だ。しかし、リュインがここに居るということは姉さん達もこの近くに?”
そう思い辺りを見まわすがアンジェラ達の姿は何処にも見られなかった。
リュインがウォレスを見つけられたのはアンジェラ達の後を着けたからなのだがそれはウォレスの預かり知らない事だ。
ウォレスは暫く辺りを気にしていたが差迫った危険が無いと分りリュインの質問に答える為に口を開く。
「姉さんを刺したかですって?くっくっく・・・・・・ええ、その通りですよ。姉さんだけじゃありません・・・・私は殺人の罪まで犯したんですよ。
でもね、それがどうしたっていうんです?私はもう後戻りの出来ない道を選んでしまったんです。いまさら引き返す事も立ち止まる事も出来はしないんですよ。」
そう言って自嘲気味に顔を歪める。
リュインは悲しそうに首を振り「嘘だよね・・・・・?」そう呟いたきり黙り込むリュイン。
その瞳はウォレスに拾った子犬のその後まで思い出させた。子犬は結局、飼えず兄に捨てられてしまったのだ。
リュインの瞳はその時の子犬の裏切られた瞳にそっくりだった。
リュインは顔を上げウォレスの目をまっすぐに見詰め言う。
「ねえ、ウォレス・・・自首する気は無いの?生きていればやりなおしはきくよ、どんな道でもね。死ねばそれまでだ。
それに君にはまだ君の事を必要としている人が居るんだよ。」
ウォレスは薄笑いを浮かべ芝居掛かった様子で天を振り仰ぐ。
「はっ!生きていればやり直せる?私を必要としている人が居るですって?くっくっく・・・・・あーはっはっは・・・・・」
そのまま身を折り笑い続け、笑いが収まったところで再び話し始める。
「必要としているって姉さんがですか?それとも貴方が?・・・・・・どのみち私は引き返せない道を選んでしまったんです。引き返すことはおろか立ち止まる事も
出来ない道をね。そもそも私が姉さんに許しを請うたところで他の人間がそれを受け入れるとお思いですか?
私にしても、姉さんに膝を屈して命を長らえようとは思っていませんのでね・・・・」
ウォレスを見詰め言葉も無く佇むリュイン。ウォレスはその雰囲気に耐え切れなくなったかのように死の影を引き連れ歩き出した。
そして去り際にリュインに向かって思い出したように一言を投げかける。
「私の邪魔をしようとはしないことですね・・・・・・例え貴方でも邪魔をすれば殺しますよ。」
リュインはウォレスが去っていった獣道をずっと睨んでいたが、「君は間違ってるよ・・・・・」そう呟きウォレスが歩き去った方向・・・・・
アンジェラ達がいる方向に向かって歩き出すのだった。
そのウォレスを追う一行は森の中の開けた場所で一時の休憩を取っていた。
ウォレスの実の姉であるアンジェラがトレードマークである紅い鎧に身を固め木にもたれ掛っている。
その傍らでは麦藁の色をした髪をポニーテールに束ねた小柄な少女がナイフを手持ち無沙汰に弄んでいる。かつてウォレスと激しく口論をかわし
夜の常闇通りでもやりあった事がある盗賊の少女ミュラ・・・・・・・・・・
彼女は今回、アンジェラの力になりたい気持といじけた態度のウォレスに反発する気持を抱えこの一行に参加していた。
リスを連れた青年が油断の無い目付きで辺りを警戒する。ウォレスとパーティーを組んでいた事もある青年リックである。
今回の探索行は彼がウォレスの学院での師匠であるファーウェイにウォレスを探してくれと頼まれた事から始まったのだった。
もっとも魔法も万能ではなく今だにウォレスを捜してさ迷っている現状ではあったが・・・・・・・・
リックは仲間を頼る事無く一人で問題を解決しようとするあまり道を踏み外したウォレスとそれを救えなかった自分とに腹を立てていた。
ともすれば、噴出してきそうになる苛々を押えようとしていつも意識して押えている口数が更に少なくなる。
それでも自分よりも更に沈みがちなアンジェラを気遣う気力までは無くしていなかったが。
その一行から幾分距離を保ち精霊の囁きに耳を傾けるエルフの姿が見える。
ファーウェイとリックを引き合わせたファーウェイの友人の弟子であるイルだ。腰まである淡い金髪とエルフの特徴である長い耳とをターバンに押し込んで
一見すると人間の様に見えるがもう一つのエルフの特徴であるアーモンド形の瞳と切れ長の目までは隠しきれてはいない。
オランの様な大都市ならいざ知らず郊外の農村ではエルフと言うだけで好奇の目と厳然たる差別を受けるとあればターバンを巻く程度の変装も仕方の無い事だろう。
この一行の中で面識がある人間といえばリックだけだったが、彼ともまだ知り合ったばかりであり自然と一行を観察するような位置付けに落ちついた。
彼のエルフとしての血がそうさせたのか状況がそうさせたのか・・・・・おそらく両方の要因によってそうなってしまったのだろう。
むしろ彼は観察者としての自分の立場を楽しんでさえいた。石と岩で囲まれた街から木と土の香りが漂う郊外の森に故郷の森を重ね懐かしい気分に浸る。
ガサガサ・・・・・・近くの藪が揺れ竜牙兵を従えたウォレスが現れる。
「ウォレス!?」期せずして皆の声が重なる。ウォレスは一渉り一同を見まわし、唇の端を歪め毒のこもった言葉を投げかける。
「おやおや・・・・・私を捜しているのは過保護な姉さんだけだと思っていたのに、胸の薄いお嬢さんとリックさんまで一緒だとはね・・・・・・・・」
その後ろに居る見なれないターバンの人物に不審な目を向ける。
”あれは誰だろう?私をなぜ捜す?オランの官憲だろうか?・・・・・・それにしてはらしくない格好だが・・・・・・”
ウォレスの気がイルに向けられたのを見逃さずリックはウォレスとの距離を一気に詰めようと走り出そうとしたがそれは果たせなかった。
アンジェラがウォレスの方を向いたままリックの動きを察して大剣をリックの前に突き出したからだ。
リックは突然の邪魔に声を荒げる。
「何しやがる!!」
「あれが見えないの?無策に突っ込んでも死ぬだけよ」
ウォレスよりも隣に佇む竜牙兵を見据え静かな口調でリックを諭す。
二人のやり取りを面白くもなさそうに眺めていたウォレスにアンジェラが静かに問いただす。
「ウォレス・・・・・貴方は貴方の求めるものを手に入れることが出来たの?それで貴方の心は満たされたのかしら・・・・・・?」
「ええ、もちろんですよ親愛なる姉さん。・・・・・・・これで貴方が死んでいてくれれば私の心はもっと満ち足りたものになったでしょうよ」
吐き捨てるように言ったウォレスにアンジェラは憐れみにも似た悲しげな表情を見せる。
「てめぇ!!ウォレス!言って良い事と悪い事があるんだぞ!それが血を分けた実の姉に対する言い草かよ!!」
孤児であるリックにはウォレスの言は理解できなかった。歳の近い者どうし互いに助け合い兄弟のように育ったのだ。
これが本当に血の繋がった者だったらその絆はもっと強いものだろうと思っていただけにウォレスの言葉に怒りを掻きたてられた。
「ふん・・・・・貴方に何が分るって言うんです?私にとって大切なモノがそこに居る姉さんでは無く魔術だったって事ですよ・・・・・」
淡々としかしある種の確信を込めて言い放つ。
ふと、見ると「胸の薄いお嬢さん」ことミュラの姿が見えない。その時、ウォレスの死角からこっそり忍び寄っていたミュラが
「ボクはミュラだ!キッチリ憶えとけ、このバカ!!」の叫びと共にウォレスに飛び掛る。
それまで、彫像の様に微動だにしなかった竜牙兵が滑るようにミュラの前に立ちはだかり手にした丸盾で殴りつける。
勢いのつきすぎていたミュラは目の前に突き出された丸盾を避ける事が出来ずまともに顔面で受け地面に叩きつけられる。
「ハッ!無様ですね。・・・・・そう心配そうな顔をしなくても、貴方方もすぐ”胸の無いお嬢さん”のように殺して差し上げますよ。」
いつもの皮肉げな笑みを顔に張りつけ毒のある口調でアンジェラとリックを一瞥する。
「ねぇ・・・・ウォレス・・・・・戻って来る気は無いの?彼女はまだ死んでないし、貴方にさえ、その気があれば私は構わないのよ・・・・・
一緒に家に帰りましょう・・・・・・ねぇ、ウォレス?」
ミュラの背中が微かに上下しているのを見てアンジェラが悲しそうに言う。
「まだ私という人間が分っていないのですね・・・・もう後戻りは出来ないんですよ・・・・すでに私は研究の為に人を犠牲にしているんですからね・・・・
そう、何人も何人もね。いまさら戻るなんて出来ない事は姉さんが一番分っているんじゃないですか?」
話しているうちに感情の抑えがきかなくなってきた。
「姉さんはいつもそうだ!!いつも私を子供扱いする!!もう、貴方が知っているウォレスじゃないんだ!!私は貴方を刺した事で昔の貴方に守られていた
弱いウォレスも殺したんだ!!姉さんなんかもう必要無い、貴方が生きている限り私は貴方に縛られたままだ!!
アンジェラの弟のウォレスが私の中に居る・・・・・・彼を殺す為に姉さん、貴方は死ななくちゃいけないんだ!!!」
肩を激しく上下させ空気を貪るように吸う。アンジェラとリックの後方に控えていたイルには激しい感情の精霊達の迸りが感じられた。
幾分かは落ちついたらしい声で先を続けるウォレス。
「もう、話す事はありません・・・・・・・全員死んでもらいます。」
ゆっくりと死の影を引きつれて歩み寄るウォレスに身構える二人。
「アンジェラ・・・・少しばかり手荒な事になっちまうかもしれんが、あの骸骨野郎を何とかするぞ。何呆けてやがる?あんたはウォレスを連れ戻しに来たんだろ?
だったら、あんたの弟を捕まえる役は任せたぜ。」
そう言ってリックは器用に片目をつぶって見せる。了解の印に軽く大剣を掲げて見せるアンジェラ。
アンジェラは力強い戦士の走りで、リックは軽快な盗賊の走りでウォレスとの距離を取る。
ここにウィンガールド家の姉と弟の戦いが始まった。弟は姉の呪縛を振り払う為、姉は弟を取り戻す為に・・・・・・・・
森の中を一人の少女が歩いている。一見すると狩人かと思えるが彼女が狙う獲物は動物では無い。彼女が狙うのはこの辺りを騒がせている殺人鬼だ。
”今日は何か収穫があればいいけど・・・・・”
ヴェイラの脳裏に夫と子供を失い悲嘆に暮れる若い母親の姿が浮かび、苛立たしげに地面を蹴りつける。
その時、前方の開けた場所から時ならぬ剣戟の音が響く。
”何?戦いの音?もしかして例の殺人鬼!?”
ヴェイラは背中に背負ったブーメランを手に剣戟の音源に向かい駆け出すのだった。
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