No. 00124
DATE: 2000/05/23 21:28:24
NAME: トリウス
SUBJECT: ”蒼き風”−序章2−
そんなある日、彼は数年前は自分の家だったところの前にいた。
もう、両親の記憶は薄れかけていて、かつては自分が住んでいた家を見ていても特になにも思い出すことはなかった。ただ、この場所は何となく好きだった。
その時、1台の馬車が彼の目の前に止まった。そして、地味だが、しっかりとしているその中から中年の紳士が出てきて、その家の扉をノックした。
2分後、男はため息をつきながらその家から出てきた。そして、自分のことを見ている少年に気がつくと近づいていって尋ねた。
「3年前までここに住んでいた、君くらいの年齢の子を知らないかね?」
少年は、驚きを表情に出さぬよう気をつけながら尋ね返した。
「なぜそんなことを訊く?」
男は、少年の乱暴な口調も気にせず、
「私の友人の子供なんだが、行方が分からないんだ。知らないか?」
と、真剣な目でもう一度尋ねた。
「オレがそのトリウスだ」
男は、その言葉に狂喜した。
「君のお父さんが死んだと聞いて、君を引き取りに来たんだ」
「・・・」
「どうしたんだい?君のお父さんとは親友だったんだ。遠慮はいらな・・・」
「なぜだ・・・」
「・・・え?」
「なぜアンタは今の今まで知らぬ顔をして、今更のこのこやってきた!?オレが路地裏で腹を空かせて、泥まみれになって必死で生きていた時に、アンタは何をしていたんだ!?今頃何を言ってるんだ!」
少年は激しい憤りを押さえきれずに叫んだ。
「すまない・・・。最近まで知らなかったんだ・・・」
いつの間にか、雨が降り出していた。
男は、雨に打たれ、びしょぬれになりながらも、その場を動こうとはしなかった。
その目は、少年に向けられていた。
そして、少年もまた、雨に濡れながら男を見ていた。
そして・・・根負けしたかの様に、口を開いた。
「・・・わかった。だがオレが不快に思ったら出て行かせてもらう」
この時の彼の決断は、後に彼の呼び名を変えることになる。
「大盗賊トリウス」ではなく、「高司祭トリウス」に・・・。