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No. 00129
DATE: 2000/06/11 23:46:58
NAME: スタァ
SUBJECT: 準備編
久しぶりに頭でっかっち学者(エスト)と待ち合わせをした。
確か正午の時間にチャザ神殿前の広場だったはずだが、エストが来たのは夕刻の鐘がなってからだった。
まあ、半日くらいの遅刻なら許してあげよう。僕は時間に関しては心が広いエルフだから。
送れてきたくせに、詫びも言わないでいるエストは、よく見るとぱりっとした服を着用している。この服は確か、昨日リーダー(コーデリア)と言い合いになった元凶。
前回の冒険の報酬をエストが勝手に使って誂えた服なのだ。なんでも、ラムリアースから取り寄せた生地を使っているらしく、仕立ても一流、値段もかなりの物らしい。
もちろん、仲間から非難囂々。
本人は、「これくらいの服でないと学会に出られないのだ。」なんて言っていたが「一体何の学会なんだか怪しいもんじゃい!」、と言ったのはドワーフのじじぃ(パロット)だった。「学会なら服よりも発表内容なのさ」とグラスランナーのチビコロ(ナルンツァ)が言えば「人間とは第一印象から入るものなのだ」と、ああ言えばこう言う状態。
しかし、本人は新しい服にご満悦。何かと意味もなく袖口の付いてもいない埃を払ったり、ちょろんと一束だけ長く伸ばしている前髪をかき上げたりしている。
目的地である冒険者の店についても、店先にある鏡に向かって背筋を伸ばし格好を付けているエストは放っておいて、コーデリアに渡されたメモを店主に渡す。そこには、明日から出る冒険に必要な物が細かく丁寧な文字で書かれている。
店主は、メモを受け取ると品物を取りに店の奥に入っていった。
冒険の準備で必要品を揃えるのは、いつもならコーデリアとファミールの仕事だが、今回は急な仕事な上、二人とも外せない用事があったので、一番暇なエストと僕が買いだし組となった。
エストはまだ、鏡の前でポーズを取っている。店主は未だに戻って来る気配無し。
しばし、ぼんやりと待つ・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、棚の上に置いてある装飾品、綺麗。
よく見ようと、そっと手を伸ばしたら。
「あぁらぁああぁぁ、万引きはダメよぉおおぉぉ。」まったりとした地を這うような声とともに、後ろから頬と首にかけてぞわぞわっと冷たい手で撫でられる。
情けない声を出して振り返ると、カマ魔術師(ロトン)が立っていた。
「思ったよりも調べ物が早く終わったから寄ってみたのぉよぉおおぉぉ。」そう言って、にっこり微笑む。・・・別に良いけれど・・・何度やられても撫でられるのは慣れない。
店主が品を揃えてくれて、店を出る頃には薄闇に世界が溶けていた。
向かいの酒場からオレンジ色の明かりが灯りだす。
「今日も一日働いたなぁ、それじゃ飲みに行くか。」エストは一体何時働いたのかちょっと疑問。今だって服が汚れるからと荷物を持っていないし、それに彼のせいでお金は無いはず。
「大丈夫ですわあぁああぁぁ。わぁぁたくしのゴブリンの生体に関してのレポートが、思ったよりも高値が付きましたのぉおぉぉ」
自然と足はいつもの酒場へと向かう。きっとそこには、仲間達が集まってきて、きっとその後はいつものように飲んでいつものように酔っぱらっていつものようにその辺で潰れる。
いつものことなのだけれど、こればっかりは理解できない。が、しかし、これが冒険者の儀式だっとパロットが言っていたから仕方ない。
エストとロトンを見て嘆息。そう、仕方ないから・・・しばらくは付き合うしかない、と思う。
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