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No. 00132
DATE: 2000/06/14 00:57:50
NAME: ケイ、ミニアス他
SUBJECT: ある一つの冒険2.2
これは「ある一つの冒険2.1」の続きです。
だからそっちを読んでからの方が、よりわかると思います。
オランの朝早く。
パダへ続く街道への門の所に、冒険者3人が立っている。
一人は、背の高い男。近くに同じくらいのエルフ。
そしてグレートソードを背負った女性・・・
彼らは、前回一緒に冒険・・・いや、下水道掃除の時に同行した依頼人でもある魔導士を待っていた。
名はニクラム(♂)。まだまだヒヨッコの域を出ない、駆け出しの魔導士である。
依頼は「行方不明だった兄弟子を見つけた。同行してほしい。」
「おい・・・なんでこの仕事いやがったのか、そろそろ話してくれたっていいだろう、ジャンク。」
エルフの男が隣の男に声をかける。
しばらく頭をかいていたが、意を決したか、話し始める。
「三年くらい前・・・だったかな。同じような依頼話があったんだよ。そん時のオレはまだ金額で仕事を選んでいたからな。あっさり蹴ったんだが、一緒に組んでいた3人は引き受けちまったんだ。」
ため息一つつくと、ジャンクは言葉を続ける。
「仕事も3日程度で終わるという話だったから、オレ抜きで行ったんだ。そしたら、帰り際だかに盗賊に襲われたらしく、体だけみつかったんだ。後から聞けば、その盗賊と依頼人は組んでいたらしいとか・・・だもんで、受けたくなかったんだよ。」
「でも、受けたんでしょ♪」
にっこりとグレートソードを背負った女性が、ジャンクに向かってほほえむ。
「・・・・オレもハークと同じお人好しかもな。」
「それはほめ言葉なのか?それともけなしているのか?」
ため息混じりのジャンクの言葉につっかかる、ハークと呼ばれたエルフ。
ちょうどその時、依頼人のニクラムが同じくらいの背丈の女性を一人連れて姿を現した。
「すいません、遅くなりました。」
「それはいいですけど、そちらの女性は?」
ハークがそう聞くのと、ケイがこう聞くのとは同時だった。
「ミニアス★お久しぶりです〜♪」
露骨にいやそうな顔をしたミニアスと呼ばれた女性に、ケイが色々としゃべっている。
ケイとミニアスの会話に入れずに、ハークの手と口がパクパクと動く。
「場所はわかってるんだろ、行こうぜ。」
「あ、場所はあのミニアスって人が知っているんですけど・・・」
歩き出したジャンクの背中に、ちっちゃな声で言うニクラム。
振り返ったその表情は、苦笑いというのがあっていた。
「あともうちょっとだけど・・・とりあえず一休みした方がいいかな。」
先頭を歩いていたミニアスが、最後尾で息があがっているニクラムを見て言う。
ここはパダへの街道から、1時間ほど横にそれた所。
森の中を歩くというのは、オランから一歩も外に出たことのないニクラムにとってはかなりの苦痛であるはず。
「そうですね・・・そうしましょう。」
「こんな中途半端な所で休むのかよ。あんまり気がのらねぇなぁ・・・」
ハークもミニアスと同意見らしくうなずくが、内心はジャンクと一緒である。
「まあまあ★とりあえず休みましょ♪」
近くの切り株にさっさと腰かけてしまうケイ。
そのケイの近くでは同じようにニクラムが休んでいる。
水を口に含んでもぐもぐしているミニアスに、ジャンクが声をかける。
「あとどのくらいだ?」
「10分かそこらだよ。洞穴があってさ、そこを・・・そこに住んでいるらしい。」
今度は小声で訪ねる。
「で、どんなヤツなんだ?」
ミニアスはチラッとニクラムの方を見てから、小声でかえす。
「どういう経路だか知らないけど、ある神を信仰する胡散臭い連中の重役ぐらいにまでなっているらしい。」
ジャンクの頭の中には、先日の下水道掃除の時に見たファラリスの祭壇が鮮明に描かれる。
「そうか・・・ありがとよ。」
「は?」
いきなり礼を言われて困った顔をしているミニアスに背を向け、ジャンクはその洞穴がある方向に体を向ける。
ジャンクはハークに指摘されるまで気が付かなかっただろう。
自分の口元が笑っている事に。
すでに見張りと思われる連中を倒したあと。
ニクラムに簡単な状況説明をしているミニアスより、何歩か離れた所でハークが辺りを見回していた。
「あの、おケガはありませんか♪」
さわやかな笑顔でケイが聞いてくる。
「いや・・・いい。」
しばらくして剣を納め移動しようとしたジャンクは、まだ目の前にいたケイに驚く。
「あ、やっと表情が戻りましたね♪」
うれしそうにケイが言葉を続ける。
「なんだか怖い顔していたんで、心配だったですよ★」
なんて言ってその場を離れたのか、覚えていない。
ケイと離れたあと、ハークに詰めよりケイに言われた事を聞いてみる。
「気づいていなかったのか。異様にピリピリしていたぞ、お前。」
軽いショックを受ける。
その後ケイのグレートソードを近くに隠した後、ジャンクの持っている予備のブロードソードを受け取る。
その間にハークはケイとニクラムに小石を渡していた。
様子を見に行っていたミニアスが戻ってくると、こう言った。
「この先の洞穴が彼の居場所だけど、見張りが・・・交代時間らしく新しいのが来ているけど、どうする?」
「ならすぐに行こう。さっきの見張りが戻ってこなくて不審がられる前に。」
新しい見張りをニクラムの魔法で眠らせると、素早く縛って近くの茂みに放り込んでおく。
その後、何人かと戦闘をしていたが、ニクラムの兄弟子の姿はなかった。
しばらくしたあと、聞き出した連中の情報によれば広間のような所についた。
そこはかなり広く、正面20メートル程前には台のような場所があった。
その台の上には・・・五人ほど人がいた。一人はローブを身にまとっていた。
「兄さん!」
ハークが声をかけるよりも早く、ニクラムがそう叫んでいた。
台の上にいた連中は、ローブの男以外つるはしやスコップを持っていたが、入り口にいるニクラム達を見て慌てて近くにある剣を取りに行く。
ミニアスがなにかつぶやくと、一瞬フラッと姿勢を崩しかける。
だがそれよりも、身体の中心があつくなるような感覚に襲われる。
「おし、ありがとよ!」
ジャンクがミニアスに向かって一声かけてから、台の方へと剣を抜きながら走り出す。
後ろにいたケイが慌ててミニアスの方に声をかけている。
ハークは何かつぶやくと光の球のような物を呼びだし、剣を取りに向かっていた一人にぶつけ倒す。
「兄さん!これは、これはどういう事なんだよ!兄さん!!」
ローブの男・・・たぶん、彼がニクラムの兄弟子のパロッザムであろう・・・は、身振り手振りをしながらなにかつぶやき始めた。
そして、突然ニクラム、ケイ、ミニアス、ハークの悲鳴が上がった。
慌てて振り返ったジャンクは、4人の声が氷の嵐の中から聞こえていることに驚く。
嵐が収まったあと、近くの壁の所で倒れているニクラム以外は、無傷ではないもののなんとか立っている。
「ジャンク、後ろだ!!」
振り返るとスコップを振り上げている男の姿があった。
多少驚いたものの、なんなくかわすとジャンクはお返しとばかりに斬りかかる。
ケイは自分の体の痛みも忘れてニクラムに駆け寄り、短く神に祈る。
ハークは少し移動すると、再度光の球のようなものを呼び出し、剣を手に取った一人に当てる。
ミニアスはジャンクの方へと走り出す。
ケイのおかげで痛みの和らいだニクラムが、壁に手をつきながらも何とか立ち上がる。
再度何かつぶやき始めたパロッザムに向けて、持っていたバスタードソードを投げつけるジャンク。
「ぐっ。」
何とか直撃はさけたものの、右のローブの切れた所から赤い血が何滴か流れていた。
慌てたように剣を持った一人の男がパロッザムの方に駆け寄る。
今だとばかりに、ジャンクに向かって再度スコップを振り上げる男。が、振り降ろす前にジャンクに膝を思いっきりけられ嫌な音を立てる。男はスコップを手放して倒れると、膝を押さえてうめき声を上げ始めた。
「ハーク、お前の剣よこせ。」
「は。」
思わず動きが止まってしまったハークに、ジャンクはもう一度繰り返す。
「お前の剣よこせって言った。」
剣を取りに行った連中が、次々と台の所から降りてくる。
慌てて腰のショートソードを抜くと、ジャンクの足下めがけて投げつける。
駆け寄ってショートソードを地面から引き抜いた時、剣の輝きが増した。
「だめだよ、無理しちゃ★」
ケイがふらつくニクラムを支えている。
壁に手を付いてなんとか状態が安定してたニクラムが叫ぶ。
「・・・なんで、なんでなんだよぉ!ゴンザレス・バロッザムゥ!!」
「その名で呼ぶなぁ!!」
その声は、ニクラムよりも大きかったのかも知れない。
頭のフードを取った時、女性とも見間違えそうな金髪の整った顔が現れた。
そしてパロッザムは言葉を続けた。
「我が名はアーベント。汚らわしい貴様らに付けられた名など、とうに捨てたわぁ!!いずれは名を知る者すべて消すつもりだったがな・・・。」
そのまま大声で笑い始める。
ニクラムの目が絶望から哀れみへと変わり、膝をつく。
慌てたようにケイが声をかけるが、反応がない。
「・・・馬鹿だなお前。」
いつの間にか台に上がって、ジャンクがあきれた顔して言う。
「なんとでも言うがいい。所詮貴様らゲスどもに理解されようなどとは思わん。」
そう言うと何かつぶやき身振り手振りを始める。その横で剣を構える男が一人。
ハークの呼び出した光の球が、ニクラムの方に行こうとする男を直撃。そのまま男は倒れて動かなくなる。
ミニアスもなんとか最後の一人を倒して、ジャンクのいる反対側に移動する。
ガタガタと震えだしたニクラムに、ケイは静かに神に祈る。
ジャンクが一歩動いた時と、アーベントの動きが止まるのは同時だった。
前触れもなくジャンクのいた場所が爆発した。
爆風がハークの肌を、爆発した時の音が鼓膜を直撃する。
爆発によるモヤが切れる前に、飛び出したジャンクの一撃を受けて倒れたのは、アーベントの横にいた男だった。
慌てて後ろに飛びのいたアーベント。だが、視界の隅には台に上るミニアスの姿が映っていた。
何かを唱え始めたアーベントに斬りかかるミニアスだが、ローブをかすっただけだった。
ジャンクが斬りかかろうとしたとき、不意に姿勢が崩れる。後ろから飛んできたフクロウに体当たりされたのだ。
アーベントの体がユラリと揺れたような感じがすると、次の瞬間には黒豹となっていた。
そして入り口に向かって走り出した。
入り口のそばにいる二人のうち、ケイが慌てて剣を抜いて構える。
ガチィン。
剣が中に舞ったものの、黒豹となったアーベントはそれ以上の事はせずに走り去った。
それに続くようにフクロウも飛んでいった。
「使い魔かよ、畜生。」
倒れている連中の持っていた剣のうち自分の力に合う物をひと振り持つと、ハークの剣を返す。
ケイ達に所に行こうと、台を降りてしばらくしてからだった。
「ジャンク!」
ミニアスの声に慌てて振り返ると、台の奥の所に一人男が立っていた。その男の腕には子犬より一回り大きな石が、持ち上げられていた。
慌てて今手に入れたばかりの剣を抜き構えるのと、男が石を投げるのは同時だったのかも知れない。
「この、やらぁ!!!」
「なにくそぉ!!!」
だめでもともとだった。
ジャンクは剣を飛んでくる石めがけて斬りつけた。もちろん、剣が折れるのも覚悟で。
だが、剣はなんの抵抗もなく飛んできた石を2つにした。
2つに分かれた石の一方は大きく横にそれ、壁に音をたてて当たった。
もう一方は、ジャンクの後方にいた二人、ケイの左肩に直撃したあと壁に当たり地面に落ちる。
倒れたケイに慌てて駆け寄り声をかけるニクラム。
ミニアスが台に上るよりも早く、光の球が石を投げた男に当たり、倒れる。
ハークがかけより止血しようとするが、すでにケイの意識はない。
ぼんやりと剣を見ていたジャンクが我を取り戻すと、何かに気が付いたように台の上にあがる。
しばらくしてから、ハーク達の所に戻ってきたジャンクは、連れてきた一人の男に剣を突きつけながらこういった。
「ほら、なにやってんだよ。お前神官だろ、さっさと彼女のケガ癒せよ。」
ジャンクの剣を持ってきたミニアスが、その言葉を聞いてびっくりしている。
「さっきパロッザム・・・いや、アーベントのケガを癒したようによ。さっさとやらないと首が宙を舞うぞ。」
「そ、そんな事をしたら神が・・・」
「アンタの信仰する神は、ファラリスだろ。教典は自由。ならばアンタが命惜しさに敵を癒そうとも、罰なんかくらわないよ。」
ミニアスがサラッと言い放つ。
男は口惜しそうにケイの左肩に手をかざすと、神に小さい声で祈る。
すると傷はみるみるうちに塞がるが、完治にはほど遠かった。
くやしそうに震える男の首根っこをつかむと、ジャンクは台の方へ投げ飛ばした。
「おまえら程落ちちゃないからな。見逃してやるよ。」
応急処置をしようとするハークに、ひと言うとケイを抱き上げて外に出ようとうながすジャンク。
4人の冒険者がそこから立ち去ったあと、男は悔しそうになんども地面を叩いていた。
「・・・あ。おはよう、ケイ。」
声がした方に顔を動かすとミニアスが横に座っていた。
その後ろの方で3人が固まって寝ている。
「あの3人はほっとこ。もうしばらくしたら起きると思うし。で、覚えてる?」
起きあがろうとすると肩に激痛が走って起きあがれない。
とりあえず、フルフルと横に首をふると、ミニアスは軽く笑って話し始めた。
あのあと、洞穴の外で応急処置をしたけれど、意識の戻らない私をジャンクが背負ってオランまで走った事。
チャ・ザ神殿に駆け込んで、容態を見てもらった事・・・・
「もう仕事は終わったから、お金だけもらってハイ、サヨウナラでもいいと思ったけどね。」
そう言いながら笑っているミニアス。
「ま。ちょくちょく様子を見る来るけどさ。ニクラムはともかく、ジャンク達は拾い物の剣の事が気になるからしばらく街に留まるって言っていたよ。」
そのあと、ミニアスから治療費の事を簡単に教えてもらった。
しばらく返事が出来なかった。
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