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No. 00141
DATE: 2000/06/21 21:26:55
NAME: リベッカ=カシュオーク
SUBJECT: 麦と泡のおくりもの
こんにちは,ようこそ,カシュオーク醸造へ♪
見学ですか? じっくり,ご覧になっていってくださいね。
あとから,試飲もしていただけますから!
あ,そちらがお目当でした? ふふふ。皆さん,そうおっしゃっていらっしゃります。
ですが,飲むだけではなく,エールそのものについても,興味持っていただけたら,と思いますわ。
あたしは,リベッカ。こちらのお手伝いをさせていただいてます。
奥さん? ・・・ええ,そう,なるかしら。
まだ,そう呼ばれるのに慣れてなくって。あ,いいえ,嬉しかったの♪
あらやだ。こんなことばかり話してたら,日が暮れてしまいますね。
それじゃあ,まず,場所のほうにご案内します♪
[ 器具 ]
すごい匂いでしょう。これがエールを寝かせてある樽ですわ。
槽の材質はなんでもいいんですけれど,やっぱり木のほうが温かみがあっていいかしらね。
樽の真ん中が,膨らんで,でぶっちょさんになっているのはどうしてですかって?
それは,その形が丈夫だからですわ。まん丸に近いほど,エールの重さがちらばって,いいんだそうです。でも,この形は,場所を取ってしまって,あまり効率よくないんですよね〜。
え,ムディールのほうでは,まっすぐな円筒形の樽を使っている? それは,あちらの樽職人の方の腕が優れている,ってことなのかもしれませんね。同じ材料で,強い樽を作れるということですから。そうですね。一度,うちでも買ってつかってみようかしら。
あの棚の大量の毛布はなにに使うか,ですって?
それは,エールを保温するために用いるんですよ。エールは,まわりの火の精霊の力に,とても敏感なのです。
この毛布は,エレミアから買った羊の毛のフェルトを使っていて,とても暖かいんですよ♪
・・・そうそう。この冬は寒かったですけれど,人間よりエールばかり,暖めてましたの(笑)
そこのお鍋やおたまは・・・別に,ここでお夕飯の支度をしてるわけではないんですよ。エールの素を混ぜるのに使うんです(笑)
[消毒]
さてさて。
それでは,実際のカシュオーク秘蔵のエールの作り方を紹介しましょう!
まず,樽をみんな,綺麗にします。そのときに,この魔法の液体を使って,よく拭くんです。そうすると,エールをだめにしてしまういたずら好きの風の精霊たちが,やってこなくなるんです。
え? 高価なマジックポーションをこんなところに使っているのかって?
ん〜,では,お客さんにだけ,特別にお教えしましょう♪ 実はこの液体は,何度も何度も蒸留して,火の精霊の力を強めた,お酒なんです(笑)
このお酒の中の火の精霊が,いたずらっ子たちを追い払ってくれて,良いエールをつくってくれるんですよ。
エールを駄目にする者を寄せ付けないように,エールよりずっと強いお酒の力を借りるのって,ちょっとへんに感じますよね(笑)
[ エールの素 ]
次に,エールの素をつくります。
まず,エールの最初の材料になる,麦を用意します。同じ粒の大きさにより分けて,暖かいところでお水に浸して,芽を出させます。これを,麦芽といいます。茶色でかわいいでしょう?
これを一粒ずつ,芽を取り除きます。そう,一つずつですよ。根気のいる作業です(笑) それから,乾燥させて,細かく砕きます。これで,麦芽の準備は終ります。
そうして,前に作ったエールから取ってきた澱(おり)を,お鍋にいれて,お水にとかします。これと,麦芽とあわせたものが,エールの素になります。
沸騰して吹きこぼれないように,じっくりじっくりかき混ぜます。この火加減が,結構むずかしいんですよ〜。コツをつかむまで,なんども,お鍋をだめにしちゃいました。半日ぐらい,これを行います。寒い冬はあったかいんですけど,もうこの時期になると,全身が汗で,びっちょりになっちゃいますね。
・・・そう! 前に作ったエールが,また,次のエールの素になるわけなんです。エールも,子供を産んで,増えるんですよ(笑)
え?では,最初のエールはどうやってできたのかって?
うーん。多分,始原の巨人の汗かなにかだったんじゃないですか?(笑)
きっと,だから,みんなが汗をかくと,失った分を取り戻そうと,喉をカラカラにして,この液体を求めるようになるんですよ♪
ええ,お仕事をしたあとは,作りたてのエールを誰よりも早くのめるのが,あたしたちの特権。
だから,ここにお嫁にきたの・・・ってこれは冗談ですよ(笑)
ここで,エールの苦味には欠かせない,ホップを入れます。
この緑色が,エールの独特のお味になるんですよ。
ここでは,しっかり煮沸させるのか肝心。ホップに混じった余分な油が,火の力を受けて全部飛んでいってしまい,必要な香りだけ残るように,するんですね。
ここのホップは,エストンの涼しい高地で栽培された桑を使います。毬花をたくさん摘み取って,痛まないうちに急いで持ってきていただくんです。それがなかなか大変で。どこか近くに,いいホップの取れるところがないか,探してるんですけれどね。
[ 発酵 ]
さぁて。これからが本番です。このエールの素を,樽にいれるんですが,その前に。
まずは,沸騰したお湯の中に入れて暖めておいたコップのなかに,「精霊の素」を入れます。ええ,パンを作るときに混ぜるのと同じ,「精霊の素」です。人肌ぐらいに冷ました湯で溶かします。これに,さっき作ったエールの素をほんのちょっぴりいれ,さらに,レモンの汁を入れるのが,ポイント。 レモンのすっぱさが,悪い精霊を退ける,って話は,聞いたことがありますよね?
こうして,眠っている「精霊の素」を,起こすんです。
さて,目を覚ました「精霊の素」と,エールの素を一緒に,いよいよ,樽の中に入れます。地下室で冷やしたお水を,たっぷり加えます。 このお水も,ちゃんと沸騰させておきます。汲んでおいたお水の中にも,悪さをする精霊が,ほんの少しだけ,混ざってることがあるんですよね。
悪い精霊が入らないように,最新の注意を払います。
お水自体も大切で,大地の恵みを受けた湧き水を汲んできます。お水自体が,エールの味に直接かかわってくることだってあるんですよ。
そのまま,すこし肌寒いと感じるぐらいのところで,半月ほど寝かせます。このときの温度が肝心。夏は暑すぎるし,冬は寒すぎるんです。季節が変わるたびに,地下室に運んだり,日当たりのいいところにおいたり,移動が大変なんです。
「精霊の素」を入れてから,半日ぐらいで,泡が立ちます。「精霊の素」から,いい風の精霊さんが動き始めるんですね。
2日ぐらいたつと,ぶくぶくぶくぶくと,精霊さんが動き回って,ものすごい泡になります。このとき,樽を締め切ってると,爆発することだってあるんですよ。倉の中がエールだらけになっちゃって,すごい匂いだったですよ〜(笑)
発酵させる途中で,一度,樽を回転させて,精霊さんを混ぜます。これがまた,重くって大変。お義父さんなんて,これで腰を痛めちゃったり。
一週間ぐらいで,この泡は消え始めますが,エールの中にいる風の精霊さんはそのままなので,これが,飲む時の泡になるんです。
同時に,麦芽が「精霊の素」の作用によって,エールのなかのお酒の成分にかわっていきます。こうして樽の中は,いよいよ,エールらしくなっていきます。
え? 喉が渇いてきた?
もう少しですから,辛抱強く聞いてくださいね(笑)
[ 瓶詰め ]
樽に入れたエールが十分に熟成されたら,瓶や,運ぶための小さな樽に詰めます。
このとき,瓶や栓も,ちゃんと煮沸しておきます。詰めるときは,余計な空気が入ることがないように気をつけます。空気の中の風の精霊は,やっぱりいたずらをして,エールの味をそこねてしまうんです。
このときのエールは,「精霊の素」のせいで濁っています。この澱(おり)の中には,精霊の力の栄養が,たっぷりつまってるんですよ。
漉(こ)したほうが,すっきりとしていておいしいっておっしゃる方も居ますし,そのほうが日持ちもするので,ろ過する場合もあります。
このあたりは,人の好みそれぞれ,というところなので,うちでは,何通りかのやり方で漉したり,濁ったものをそのままお出ししたりと,何種類か作ってます。
ろ過も大変で,何枚にも重ねた細かい目のガーゼを通すために,樽の上からぎゅーっとエールを押すんです。これもまた,重労働なのですわ。
実は,これで終りじゃないんですね。ここからが本番!
え,まだあるの? なんて,いやそうな顔をしないでください(笑)。
この瓶や樽に,ほんの一つまみのお砂糖を入れます。
こうすると,樽の中の風の精霊さんが喜んで,さらにたくさんの泡を作ってくれるんです。このときの量が難しくて,砂糖を入れすぎると瓶が割れてしまいますし,少なすぎるとあわ立ちが無くなってしまったりしてしまします。毎回同じにしても,うまくいかないんですよね。このあたりは,職人のカンでやるしかないんです。
・・・というわけで,ここはみんな,経験の長いダンナサマにやってもらってるんですよ(笑)
そうして,樽や瓶に栓をします。ここでしっかり打ち付けないと,寝かせたり,運んでいる最中に,栓がぽーんととんでいってしまう,なんてことになってしまうんですね(笑)
[ 熟成 ]
おおっと。まだ,おしまいじゃないんです。まだ,樽に手を出さないでくださいね(笑)
瓶詰めをした日から,2,3日は,少し暖かいところに。それ以降は,暗くて涼しいところに,2日おきにだんだんと温度を下げながら,寝かせておきます。だいたい,1ヶ月ぐらい。
そう,最後にそんなに時間がかかるんですよ!
明るいところにおいておくと,今度は,お日様の中の光の精霊たちが,悪さをして,またエールが駄目になってしまうんです。保存する地下室の,光と温度の加減が,一番大変なんですね〜。
いかがでしたか?
いつも何気なく口に運んでいるエールも,こんなに手間がかかっていると驚きました?
そうですね,あたしたちにとっては,エールを育てるのは,子育てと同じようなものなんです。時間をかけて,ひっきりなしに面倒を見て,でも,思ったようになかなか育ってくれない(笑)
それだけに,おいしい樽ができた時の喜びは,ひとしおですわ♪
とっても,興味深いでしょう?
*********
さぁ,いよいよ待ちに待った,試飲の時間です!
今,一ヶ月前に仕込んだ,できたてのものをお持ちしますね。
どうぞどうぞ♪
まぁ〜,いい,飲みっぷり♪
見ているほうが気持ちいいですわね。
あら,あんなにじらされたので,体中で乾いていたですって?
そんなにあたしの説明,くどかったかしら(笑)。
おいしい, 一日の疲れを忘れさせてくれる?
そういっていただけると嬉しいですわ!
飲む方の喜びを目にできることが,あたしたちの何よりの楽しみですの。
あら,オランの商人の方でしたのね。まぁ,うちとの取引を考えいただけるんですって?どうしましょう。
うちは見てのとおり,そんなに大きいところじゃなくて。今買っていただいているところの注文を満たすだけでも,結構大変なのですの。
まぁ,そんなに良い条件で? ・・・そうまでおっしゃっていただけるなんて。ええ。ありがとうございます! 旦那さんにも相談してみますわね。
ありがとうございました〜。また,いらしてくださいね。
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オランといえば。あーくんや,がーくん,どうしてるかな。
きっと,今日空を渡った雲雀たちと同じぐらい,元気にしてることでしょうね。
お友達と飲んでいただけるように,今日仕上がった樽を一つ,送ってみましょうか♪
さ,片付け,片付け。
今日も,お疲れ様〜♪
コクのあるまろやかな冷たい一杯。
あなたもいかが?
Dedicated To Zumimi-san ...
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