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No. 00145
DATE: 2000/06/26 08:47:31
NAME: コーラル
SUBJECT: 若者が見た戦争
オランに来て10日ばかり経つ。傭兵ギルドからの仕事も斡旋もなかったので、いつもと嗜好を変えて、冒険者の店とやらで酒を飲む事にした。“きままに亭”か・・・
店に入り一人飲んでいると、側に掛けていた女が話し掛けてきた。女だてらに随分長い間傭兵をやっていたらしい。驚いた事に、あのレイド〜ロマール戦役にも、敵側ロマールについて参加していたと言う。
やれやれ東の果てまで来て、あの戦争を知ってる奴に逢うとはな。
レイド出身の傭兵だけで編成された俺の部隊は、皇帝の開戦を前にした演説で、士気は異様に高揚していた。常に我々を苦しめてきたロマールに神の裁きを降すと・・・
レイドは独立当初、亡国ボーアから引き継いだ軍需産業を背景に順調に成長を遂げていた、がしかし、それを危険視したロマールの経済封鎖により、完全に行き詰まりを見せた。更に、ここに来てロマールはザイン方面から来る穀物に苛烈な関税を掛け始めたのだ。国民は総じてロマールとの開戦を叫ぶようになり、ついにその時を迎えたのだ。
開戦より暫くして、後方に控えていた俺の部隊は前線へ赴く事になった。信じられない事に、世界最強と謳われたレイドの騎兵隊が前線にて大敗したと言うのだ。しかも、頼りの西部諸国も中立を保ったまま、傍観を決め込んでいた。この頃から、他所者が集った傭兵隊の中には逃亡する者が目立つようになってきた。
その様な中でも、俺達の部隊は前線に立つ事を望むものが多かった。ボーアの一部であった頃より、いやカストゥールから独立した頃より、レイドの民は武勇で馳せてきた。その血がそうさせたのだろうか?それとも一時の熱狂か?今でも、今だからこそ、もうそれは分からない。
俺達の部隊も、騎兵隊も、常勝を誇った“剣匠”ルーファスの部隊も壊滅し、レイドは陥落した。戦後、ロマールはレイド側にすべての戦争責任を押し付け、レイド征服の正当性を周辺諸国に主張し併合した。ロマールに吸収されたレイドは、急激に豊かになった。そのせいか、元レイド国民の中には、前政権は間違っていたと非難する奴も多かった。特に、戦いに参加もしないで、こそこそしていた文官がだ!俺の親父も文官だったが、戦争推進派だったため、首を括られ広場で晒された。
俺は正義面を下げているロマールを憎んだ。それに同調するレイドの文官どもを憎んだ。しかし、レイドは発展し民は豊かになりつつあった。何が良くて、何が悪いのか?生き甲斐も、死に場所も失った俺はこれから?
闘技場でルーファスが剣を振るい続けていた。剣闘士奴隷として。彼は元々レイドとは何も関係のない傭兵だ。何を思って剣を振るっているのだろう?それしか生きる道がないからか?しかし、剣を振るう彼は輝いて見えた。何故?
レイドで再び傭兵の募集が始まったと聞いた。俺は素性を隠し傭兵となり、幾度となく戦場を駆けた。歳と共に怒りも薄れ、ある意味大人になった。だが、俺は輝いているのだろうか?ルーファスは永遠のチャンピオンとして闘技場を去り冒険者となった。そして栄光に包まれたまま姿を消した。
「仕事を頼めないかしら?」
女が問い掛けてきた。傭兵しか、戦う事しか出来ない俺が冒険者の真似事を?
冒険者家業は俺を輝かせてくれるのか?
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「やらしてくれ」
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