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No. 00146
DATE: 2000/06/28 09:31:42
NAME: フィン
SUBJECT: 誰も、なにも悪くない・・・
ある昼下がり。
私は、人と接する事の多い酒場を覗いた。
見知らぬ人と話すのは、まだ怖い。
石を投げられ、私の服を掴んだかと思うと大声で色んな事を言われ(なにを言われたのか、当時の私には判らなかったけれど)、果てには殴られた記憶が、未だ鮮明だから。
でも怖がってちゃなにも出来ないし、スカイアーが「そんな人ばかりでは無い」と言ったので、それを信じ、人に慣れようと思った。
故郷の村があった頃は、無意識にでも出来た事。怖くても、そればかりではない事を、ちゃんと理解したい。
そうしたら、酒場の中に、大地(注:カミルーンのこと)がいたの。
前にちらっとだけしか会ってないけど、唯一、私の故郷の言葉が判った人が。
「会いたいか?」と、スカイアーに聞かれた事がある。
でも必死に外界の言葉(注:共通語)を習っていた私には、そんなことどうでもよかった。相変わらず、スカイアーが私の側に居てくれたし。
ただ、彼が、どうして私の故郷の村が滅亡したかを知っているなら、聞きたいと思っていた。
その彼が、私の目の前に居た。
彼は私にすぐ気が付き、以前会った頃よりかは成長した微笑みを見せる。
私は信じられない思いで「大地・・・?」と彼に触れた。
確かな感触。見えているものは幻ではないと云う暖かさ。
「どうしてここにいるの?」とは訊かなかった。
彼は、私が隣に座ったのを見届けて、口を開いた。
「そういえば、君はなんで自分の村が消滅したか、しっているかい?」
私は情けないくらいなにも知らなかったので、首を横に振るしか無かった。
その私を見て、彼は苦笑を漏らす。
「・・・多分、あれは・・・もう、俺しか知らない事じゃないかな」
「知っているの?」という私の問いに、彼は頷きだけで答えてくれた。
そして、少しずつ話してくれた。
まず、「村の外に出ていってはダメ」という掟があるにも関わらず、村の外、つまり外界に出ていった男が居た。
彼は外界で何者かに追われている女と愛し合い、女を護る為だけに生きた。
しかし、彼の力量では足らない時もあり、偶然が偶然を呼んで、にっちもさっちもいかなくなって、女は男の故郷で待つことにした。「村の外の者を受け入れない」という掟があるのを知らずに。
男の故郷の者は、最初は誰もがこの女を受け入れたくは無かった。
だけど、女のお腹には、同胞であった男の子供が居た。
それでしぶしぶ村で暮らす事を承諾したが、すぐに子供が生まれたはいいが、その母子を、村人達は虐げた。
女は子供と一緒に耐えていたが、ある時、子供が瀕死の重傷を負った時、女はとうとう切れた。
運が悪い事に女は昔から村に恐れられる魔法使いのような存在で、無意識のうちに異質な能力を解き放ってしまったという。
それが原因で、隣にあった私の村まで滅んでしまった・・・。
語り終えた後、大地は哀しみに満ちた表情を見せた。
そして、「俺の所為で君の村まで滅ぼしてしまったんだ。・・・ごめんね」と、突然謝られた。
あぁ・・・さっき話してくれた話の子供は、大地の事だったんだな。
それを理解するのにちょっと時間がかかったけれど、私はとにかく、自分の思いを伝えることにした。
「大地、なにも悪くない・・・」
そうしたら、大地は目を見開いて、そして少しだけ、微笑んだ。
大地はきっと、ずっと、自分を責めていたのかな。
そう思ったら、大地が可哀想になった。
大地はただ、産まれてきただけなのに。偶然、排他的な所で、恐れられる人から生まれただけなのに。彼に罪はないのに。
彼が酒場から去った後、私もその酒場を出て、寝泊りしている宿の一室に戻った。
今更とは思うけれど、大地の故郷は、なんだか少しおかしい気がする。
過去ばかり、自分ばかり大切にして、外の人を捨てていた。
大地が話してくれたことの原因は、それじゃないのかな。
「フィン、そろそろ時間じゃないのか?」
あ、スカイアーが迎えに来てくれた。考えるのは、またの機会にしよう。
いつかまた、偶然にでも大地に会えたなら、今度はこう言ってみようかな。
「もう、過ぎ去った事」と・・・。
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