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(からん♪)こんにちわ(にっこりと一礼) (容姿:30代半ばの人間男性。茶色の髪と瞳。ラーダの神官衣と聖印) ええ、お久しぶりですね。ランチメニューはまだ残ってますか? そうですか、残念ですねぇ……。じゃあ、サンドイッチのセットをいただきましょう。紅茶もお願いします。 ……え? え〜っと……(汗)…いえ…その……実は、昨夜、妻を怒らせまして…それで今日は弁当がなくって……。あ、いえ、たいしたことじゃないんですけどね(汗) ……あのぅ…結婚記念日…と申しますのは…やはり忘れてはいけないものだったでしょうか? あ! いえ、完全に忘れてたんじゃなくって…その…1日間違えてて…。はい、それで妻が怒りましてですねぇ……今朝は弁当を作ってくれなかったんですよ。 (皿を受け取って)ああ、ありがとうございます。それでは、いただくことにいたしましょう。 恵み深きラーダよ、本日の糧を前に、私の心は感謝と喜びの気持ちがあふれております… (延々と祈りが続く) ……いかなる時も、真実の光が我を導かんことを…。 さて、いただきましょうか(笑)。 (ふと、隣の客からの声を聞いて)おや、ラーダの教義にご興味がおありですか? ええ、素晴らしいことですよ。ああ、熱心じゃないからとか寄付が…とか、そのようなことは、どうぞお気になさらず。 そうですねぇ…では身近なところからまいりましょうか(笑)。 知識は力になる、ということをご存知でしょうか? ええ、どういった知識でも構いません。知っていること、それだけでも立派に力となるんですよ。逆に言えば、無知であることは、ある種の弱さなのかもしれません。 そうですねぇ…たとえ話で恐縮ですが……もしも貴方が、街道を歩いていて妖魔に出会ったといたしますね。その時に、その妖魔に対する知識があるのとないのと…生き残る確率はどちらが上でしょうか? たとえば、妖魔の弱点や急所を知っていれば、それだけで力になります。また、こちらがとてもかなわないということを知っていれば、即座に逃げ出せます。怯えることも知らない無知であるよりも、生き残る確率は高いでしょう? 極端に申しますと、知識とはそういった類のものです。 より生活に役立て、生きることに役立てるのが、知識です。机上で弄ぶものではありませんよ(笑)。もちろん、知ることそのものが楽しみで、研究を続ける同輩もおりますし、私自身もその楽しみを知る1人ですので、それを否定はいたしませんがね(笑)。 もっと身近なところからまいりますと……そうですねぇ。今、私が食べているこのサンドイッチ。作り方をご存知ですか? ええ、おいしいものでなくとも構いません。似たようなものをお作りになることはできますよね?(笑) たとえばこうして、料理をすること。それは、生活の為の知識です。サンドイッチの作り方を知らない人間よりも、確実に豊かな食生活が送れることでしょう。 ですから…私などは、こう思うのですよ。知識とは何だろうと考えた時に…。それは多分、怯えずに済む力であり、何かを豊かにする力であり、自身をよりよい方向へと導いてくれる力なのだろうと。 気負って考える必要などありません。知っている者に比べれば、知らない者は、確かにある種の弱さを抱えていると言えるのかもしれませんが、それは恥ずべきことではないのです。自分がそれを知らないと言うこと、自分がそれに対して弱さを持っていること…その事実を知ることが大事なのですよ。 …ぶしつけなことをお聞きするようで恐縮ですが……貴方は冒険者の方ではないですよね? でしたら…魔法と言うものを、どうお考えですか? ……ええ、そうですね。やはり、一般の方々には、魔法と言うものは恐ろしい力ですよねぇ…(嘆息)。 私どもが使います神聖魔法などは、よく受け容れられてくださるようですが、やはり古代語魔法や精霊魔法などは…少々、恐れられているようですね(苦笑)。 ですが…たしかに、魔法は人を傷つける力を持っておりますが、助けになるものでもあるのですよ。魔法の本来の力、マナの作用、魔術師の目的…それらを、知ってさえいれば、恐れるべきものではありません。滅多にあることではないですが…魔術師や精霊使いの方々が魔法を使う場面を見れば、多分、周りの方々は恐れおののくのでございましょう。ですが、それらが自分に向けられたものではないこと、そしてその呪文が危険なものではないこと…それらを知ることが可能なら、恐れないと思いませんか? …それが知識ですよ(微笑)。 逆に言えば、危険なものでなくとも、知らないことそのものが恐怖になり得ます。恐怖や嫌悪、そこから、差別や迫害と言ったものにつながるのでしょう。…悲しい事実ではありますが。 人は、知らないが故に恐れます。そして、恐怖すら知らない者は、それ故に命を落とします。どちらにしろ、逃れられないのならば、より深く知ることで、自分の身を守る力を身につけるのが、順当ではないでしょうか?(笑) そういった、知識を…そして、更なる真実を司り、我らを導いてくださるのがラーダ様です。 ……はい? 真実、でございますか? うう〜〜ん…随分と難しい質問をなさいますねぇ(苦笑)。私のように修行中の身にとっては、未だ「真実とは何か」と言う問いには満足に答えられませんが…。私の個人的な見解でよろしければ……。 ええ…そうです。私の見解が正しいかどうかはわかりません。ただ…個人的に思いますのは…。 真実は1つではない、と。そのように、思い至ることがございます。先ほど申しましたような、知識を重ねることは、確かに真実へと至る道の1つでございましょう。ですが、知識や経験の積み重ねと言ったものは、往々にして、真実ではなく、事実でしかあり得なかったりいたします。時には、事実と真実を混同してしまったり…(苦笑)。知識を重ねることは、確かに真実への道でしょう。ですが、知識がなくとも真実を手にすることはできるのです。……相反する言葉だと、そうお思いになりますか?(微笑) ただ、先ほども申しましたように、真実は1つではございません。ならば、それを手にするための道のりもまた、1つではないと…私はそう思います。 生きとし生ける者、全てにとって普遍のものだけが、真実ではないでしょう。人にはそれぞれの…貴方には貴方の、私には私の…ささやかなものであっても、そこにも真実は必ずございます。人も亜人も、ラーダを信奉している方も、していない方々も。みなさん、自分にとっての真実をきっと求めていらっしゃいます。そういった、時には「あがき」とも見える行動をとる時、そこにこそ人間らしさが見えるのではないでしょうか。思索に耽る者、行動に出る者、神への聖句を唱える者……あがき方は、それぞれです。ですが、それは決して無駄にはなりません。それらの中から、知識を得、力を得、そしてついには真実へと至るのでしょう。私のように、未だ真実を知らぬ若輩者にとっては憧れであり、また目標でもあります。 ……ああ、なんだか…長々とお聞かせしてしまいましたね(汗)。どうも…こう…私の説教はまわりくどくて…しかも生活臭さが抜けないと、司教様にも叱られてしまうのですが…(汗)。 あ、お仕事へ戻られますか? はい、それでは…どうぞ、お仕事がんばってくださいませ(ぺこり)。どうか貴方のもとへも、ラーダ様の御光が届きますように……。 (店員から紅茶を受け取って)ああ、ありがとうございます。…いい香りですね(微笑)。 え? ああ…聞いていらしたんですか(照)。お恥ずかしい…。 神の声…ですか? ええ。……聞きました(微笑)。 そうですねぇ……私には兄がおりまして。3人兄弟で…私は末子です。父はカゾフのほうで小さな商会を営んでおりましてね。1番上の兄がそれを継ぎました。そして、2番目の兄は、魔術師になりたいと申しまして…。そして、ここオランに出てきたのです。兄が家を出たのは、私がまだ12才の時でしたね。ええ、歳が離れていたものですから。兄は、18でオランに出てきて、学院に入ったんです。そこで7年か8年ほど修行していたでしょうか。私が、20才になった頃、兄は1人の女性を連れて家に戻ってまいりました。オランで知り合った女性で…ええ、結婚したいと申しましてね(苦笑)。 いえ、その女性はとても聡明で美しく、素晴らしい方だったんです。兄にはもったいないほどでしたよ(笑)。その頃には、兄も魔術師としてはそこそこの腕を持っていたらしく…ええ、幸運なことに才能があったのでしょうね。オランに出る前にも、カゾフで私塾には通っていましたから。 結婚を機にカゾフに戻って…そこで小さな私塾でも開くのだろうと、そう思っていました。私もその女性も…家族全員がそう思っていました。兄もそのつもりではいたと思います。…が、1度だけでいい、冒険に出てみたいと。自分は塔の中で研究を続けていただけで、実際に冒険に出たことはないから、と…。 ……ええ、お察しの通りですよ(微笑)。兄は二度と戻りませんでした。しばらくしてから、家族のもとに、兄が死んだとの知らせが届きました。結婚を約束していた女性は…嘆き悲しみました。そして、こう呟いたのです。……いっそ知らなければ良かった、と。兄の…彼女にとっては、婚約者でもある男性の死を、知らなければ良かったと。 ええ、気持ちはわかりますとも。知らないままでいたなら、生きているかもしれないとの希望を持って生きられますからね。ですが……本当にそれでいいのだろうか、と思ってしまったのです。 確かに、知らされた事実は、私たち家族や、その女性を打ちのめすに充分な悲報です。…が、その死を受け容れることで、前に進めるのではないか…と。 世の中には、「知らない方がいい」と言われることはたくさんあります。ですが、それは本当でしょうか? 知らないままでいるほうが幸せでいられるような、そんな知識や事実が、本当に世の中には存在するのでしょうか? ……そう考えた時、ラーダが私に語りかけてきてくださいました。 何が必要で、何がそうでないのか…自らの目で見つめ、そして自らの知識で判断せよ、とそういう意味だったのだろうと思います。 ……あれから…もう10年以上、経ちます。確かに、私の目に「知らない方がいい」と思われることはいくつか映りました。…ですが、それが本当にそれで良いのかどうか…未だ見極めきれません。未熟な証でしょう(苦笑)。 ああ、そろそろ午後の礼拝が始まる時間ですねぇ。サンドイッチと紅茶、大変おいしくいただきました。このように、おいしいお店を知っていることも、私にとっては大事な知識です(笑)。 それと、結婚記念日を覚えておくことも、ですね(苦笑) ありがとうございました。それでは失礼いたします(一礼)。 (扉を開けて、退店間際に)どうかみなさまのもとへも、ラーダ様の御光が届きますように……。 |
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